表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/82

ポーリン、冒険する その1

ぽっちゃり聖女のポーリンが帰ってまいりました。

大幅加筆した書籍版の続きになっています。

ドラゴンさんの可愛さマシマシをご希望の方は、

どうぞ書籍版の方もご覧くださいませ(*´ω`*)♡

 わたしの名はポーリン。レスタイナ国出身の『豊穣の聖女』ポーリン、と言った方が通りがいいかもしれない。現在はガズス帝国に移り住み『神に祝福されし村』の領主の奥方さま、という役割もこなしている。


 あ、まだ独身なんだけど、『奥方さま』と呼ばれているのよね。領主のセフィードさんとはただいま婚約中なのよ、うふふ。


 わたしの人生は波瀾万丈だった。

 前世もひっくるめて。

 そう、実はわたしは日本の女子高生だったという前世の記憶を持っているのだ。


 平凡な女子高生として毎日楽しく暮らしていたわたしは、ある日病魔に蝕まれて入院生活を送るようになり、口からものを食べることができないまま亡くなってしまったのだ。

 前世の最期は、本当に辛かった。

 おなかがすいて、喉も渇くのに、水の一滴も飲めない日々を重ねた挙げ句、ベッドから動けずに痩せ細って死んだのだ。

 そのせいか、転生した今は食べることが生きがいになっている。

 ポーリンとしてレスタイナ国に生まれて、物心ついた時から少しずつ前世の記憶を取り戻していったわたしは、不幸にもまだ幼い頃に両親を事故で亡くしてしまった。

 引き取り手がいなかったため、その後は孤児院で育ったのだが、神に愛されて神を愛するレスタイナ国では福祉が充実しているため、孤児院は子どもたちが賑やかに楽しく共同生活をする施設だったので、さほど不幸だとは感じなかった。

 けれど、やはり贅沢はできない。食べ物もそこそこしか食べられない。

 そこで食い意地が張った……いえ、食に関しては常に向上心を忘れない育ち盛りのわたしは、みんながおなかいっぱいに食べられる食糧の確保に一番力を入れた。率先してクワを手にして、せっせと畑を耕して拡大し、さまざまな作物を育てたのだ。もちろん、前世で聞き齧った腐葉土を混ぜ込んだり、ミミズが棲む土を目指したりして、土壌の改善も試みた。

 畑を荒らそうとした猪を倒して美味しいお肉として食べてしまったのも良い思い出だ。

 けれど、わたしの畑から収穫されるものがなんだかおかしい。採れたものがどれも規格外に美味しく、量もたっぷりだったのだ。改善の成果が現れて嬉しい反面、あまりにも効果がありすぎると思っていたら、ある日神殿からお迎えが来た。

 なんと、わたしは豊穣の神さまの加護を受けている『豊穣の聖女』だったのだ。

 前世の記憶からピンポイントで食べ物に関する知識がはっきりと浮かび上がるのも、土壌の改良がうまくいきすぎるのも、みんな神さまのお力添えだったのである。


 ほっそりした美少女(本当よ!)だったわたしは、さっそく神殿に上がって『豊穣の聖女』としての修行を始めて、やがて聖女としての務めを担うようになった。

 神殿のシンボルとして奇跡を行いながら、神さまのお恵みを皆さんにお伝えしていく過程で、美味しいものをたくさん食べていたら(だって、豊穣の聖女なのよ? 美味しいものがたくさん集まってくるし、前世のレシピも紹介したり、とにかく食べ物に関するお務めが多いのだから仕方がないのだ)結果として、ちょっとばかりぽっちゃりした美少女になってしまった。

 でも、『豊穣の聖女』がぽっちゃりしていても悪く言う人はいないし、元気いっぱいに各地を回り、クワを片手に祈りを捧げるわたしの姿が福々しいと、むしろありがたがられるので、わたしは優しい聖女のお姉さま方と楽しく日々を過ごしていた。


 そんなある日、大海の向こうからガズス帝国の軍艦がやってきて、わたしは皇帝のお飾りの第五王妃として政略結婚をすることになってしまった。

 宮殿で嫌がらせを受けたり命を狙われたりもしたけれど、最終的には皇帝の本命王妃であるロージア妃の病気を神さまのお力で治して、彼女とお友達になった。 

 でもって、皇帝からの子作り要請と第二王妃にしたいというプロポーズは、謹んでお断りしたわ!


 そして、孤児院時代に命を救ったトカゲ……ではなく、ドラゴンの末裔であるセフィードさん(彼は黒影という名でわたしの護衛任務に就いていたSS級の腕利き冒険者なのだ)が、わたしの身が危険だと気にかけてくれた。彼は親切にも身代わりの豚まで(なんで豚なのよ! この件に関しては、まだ納得がいかないわ)用意してくれて、わたしは『神に見放されし土地』にある屋敷に連れてこられたのだ。


 食糧に乏しい村で、善良な獣人の村人たちが飢えているのを知ったわたしは、さっそく神さまのお力を借りて村の食生活を改善し、『神に祝福されし村』に生まれ変わったこの地で幸せに暮らしている。


 そうそう、奥方さまなのに独身の件についてね。


 セフィードさんは、ドラゴンの一族にいじめられていた妹さんとわたしのことを重ねて、自分の屋敷に保護してくれただけだった。けれど、孤独でコミュ障なドラゴンさんが、うら若き美女……ええと、調子にのりましたすいません、若い女性を突然連れてきたものだから、家令の(家付き妖精にも関わらず、もっのすごい不器用で触るものを片っ端から壊してしまう)グラジールさんと、メイドとして働いている(笑い上戸過ぎて嘆きの妖精(バンシー)を首になった)ディラさんは、セフィードさんがお嫁さんを連れて帰ったと勘違いしてしまったのだ。

 もちろん、村の人たちも見事に勘違いしたので、まだ結婚していないことがわかっても、わたしはずっと奥方さまと呼ばれているのだ。


 その後、あまり人付き合いが得意ではないセフィードさんと少しずつ距離が縮まり、ガズス帝国の帝都近くの沿岸に押し寄せたたこの魔物を退治した時にプロポーズをされて、今では彼の婚約者となった。

 名実ともに奥方さまになれる日は近い……近い、はずだ。


 そんなこんなで、お屋敷に一緒に暮らしているちょっと変わったわたしたちは、せっせと働いて村の生活レベルを上げるべくがんばっている。


「奥方さま、籠の用意はできてますよー」


 ディラさんがにやにや笑いながらわたしに言った。

 このバンシーのお嬢さんは、鮮やかな緑色の長い髪を後ろでまとめて、澄んだオレンジ色の瞳をいつも楽しそうに煌めかせている色っぽ可愛い系の美女なのだが、どうも『奥方さまいじり』が趣味らしく、いろいろな余計なことをやってくれる。


「ちょっとディラさん! この、『ポーリンちゃんのお部屋』ってプレートはなんなの?」


 わたしは威厳を込めた口調でディラさんに注意した。


「あたしがせっかくデコった可愛い籠を、誰かに盗まれちゃったら大変じゃないっすか! だから、ちゃんと名前をつけときました」


「盗難防止にしては派手過ぎない? なんでプレートの周りをぐるっと小さい魔石でデコってあるの? 器用で素敵な仕上がりなんだけど……って、うっかり気に入りそうになっちゃったじゃないの!」


 スマホを持っていたら、ぜひ彼女にデコらせたい。

 でも、移動用に使っている家畜籠はデコって欲しくない。地味にしておきたい。

 そんなわたしの気持ちを無視して、すでにリボンやレースでかなり可愛くされてしまっているけれど。

 

 ディラさんは、ふふっと笑って言った。


「あー、それは旦那さまにもらったんっすよ! セフィードさまに奥方さまにぴったりな可愛い飾りが作りたいって言ったら、魔物をがんがん狩って魔石をえぐり取ってきてくれたんっす。いろんな色が揃ったんで、存分に飾らせてもらいましたよ、うひひひひ、愛っすねー、愛されてますねー、憎いよ奥方さま、このこのっ!」


「ぇ、えぐり取ってきたの?」


 ディラさんがいつものように冷やかしてきたけれど、魔物の大量殺戮の証でデコられても複雑な気持ちがするわ。


「ちなみに、魔物のお肉や骨はこのあたしが美味しく料理して、とっくに奥方さまのおなかの脂肪……じゃなくって、お肉になってますからね」


「あ、あら、そうだったのね。いつもごちそうさま、ありがとうね、ディラさん」


 おなかに入ったなら、殺戮ではないので大丈夫。

 むしろ、豊穣の聖女に対する正しい振る舞いだ。


「いいんっすよー、あたしの料理を美味しく食べてくれる奥方さまが、あたしは大好きなんっすからね! 可愛らしい奥さまのために、もっと腕を上げられるようにがんばっちゃいますよ、なーんて、照れるっすねー、うひひひ」


 わたしの背中をバンバン叩きながら下品に笑う美女だけれど、ディラさんは優しくて気のいいバンシーなのだ。

 本当は、ドラゴンも妖精も食事を取らなくても生きていける。だから、わたしが来るまではセフィードさんもディラさんもグラジールさんも、お茶を少し飲むくらいしかしていなかった。けれど、最近は食事の楽しさを知って、食いしん坊ドラゴンになったセフィードさんはもちろん、グラジールさんとディラさんもわたしと一緒にテーブルを囲んでくれている。

 美味しいものは、みんなで仲良く食べると余計に美味しいのだ。


 さて、本日はこの籠に乗って、近くにある一番大きな町のオースタに行って、冒険者としてひと仕事する予定である。


 ええと、誠に不本意ながら、わたしは聖女でありながら『闘神ゼキアグル』の大盾を使う選ばれし冒険者、でもあるのだ。

 オースタの冒険者ギルド長のドミニクさんに「冒険者になって魔物肉をたくさん手に入れたら、村でいい干し肉が作れるぞ、かなりの儲けになるぞ」なんて唆されて、うっかり盾を手にしてしまったわたしがいけなかった。

 当初の予定通り、アップルパイが評判のスイーツの店だけを経営していればよかった。

 まあ、確かに、干し肉作りで村の財政は潤ったけれど……。


 いや、違う、わたしのせいじゃない。

 誰にも使いこなせずに冒険者ギルドに飾られていたという伝説級の大盾を、面白がって聖女のわたしに持たせたドミニクさんが全面的に悪いのだ。


 そう、この盾を持って『シールドバッシュ』という攻撃をしたら魔物が吹っ飛ぶのも、『大盾の猛牛殺し』なんて物騒なふたつ名をつけられてしまったのも、みんなみんなドミニクさんのせいよ。

 わたしはか弱い聖女のポーリンなんですもの。

 ね、闘神ゼキアグルさま?

 やめて、「シールドバアアアアーッシュ!」と叫ぶたびに、メラメラと燃え上がるような赤い聖なる光を、大盾からお出しにならないでくださいませ。

 わたしはやっぱり、『闘神の聖女』を兼任ですか?

 狩った獲物のお肉を美味しく料理すれば『豊穣の聖女』として問題はないのですか?


 でもね、乙女のポーリンは、一撃で魔牛を倒すワイルドなどすこい娘ではなくて、甘い砂糖菓子みたいな女の子でいたかったのです……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ