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【書籍化】転生ぽっちゃり聖女は、恋よりごはんを所望致します! ……旧タイトル・転生聖女のぽっちゃり無双〜恋よりごはんを所望いたします!〜  作者: 葉月クロル
第一章

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魔物との闘い4

 そうこうしているうちに、大だこと闘っていた勇敢な人たちは戦場から完全に退避した。そして、突然現れた巨大なドラゴンとそこに乗っている聖女(しかも、状況をわきまえずに空中ラブコメを展開している……ごめんあそばせ!)が、これからなにをやらかすのかと見守っている。


 ふふふ、ここは皆さまのご期待に応えなければね。


『ポーリン、どうすればいい?』


 セフィードさんが念話で尋ねてくる。


『やつらを俺のブレスで焼き払うのは簡単だが、その場合すべて炭になってしまう』


 ドラゴンの国を消滅させる程の力を持つドラゴンブレスをそのまま使ったら、炭すら残らないかもしれない。


「それは、ダメ」


 大事な食材を炭にしてしまうなんて、食を担当する『豊穣の聖女』ポーリンが許すわけにはいきません。


 わたしはパワーのあり過ぎるセフィードさんに言った。


「たこに直接ブレスを当てないで、周りの海水を熱することはできるかしら?」


『ああ、奴らの隙間を狙って、加減したブレスを放てば大丈夫だと思うが」


「それでいきましょう。じゃあ、練習ということで、あの端っこのたこにやってくださいな」


『わかった』


 わたしの指示を聞いたセフィードさんが、翼を広げてぐるっと空を旋回すると魔物の群れの外れに近づいて、普通の大だこの周りにぐるっとブレスを放った。

 すると、あっという間に海水が沸き上がり、大だこはなにが起きたのかとその場で足を振り回していたが、やがて塩茹で状態になった。茶色かった体色は真っ赤に変わり、足がくるんと丸まっている。いわゆる茹でだこの出来上がりだ。


「お上手よ、セフィードさん! 素晴らしい茹で加減だと思うわ」


『……ふっ』


 ニヒルな感じにドラゴンが笑う。

 彼は低空飛行をすると、脚の先の鋭い爪で巨大な茹でだこをつかんで滑空した。そして、海岸にいる海軍兵士のもとに持って行った。


「おお、こりゃあ立派なたこだな!」


「茹でたての熱々だ」


 ドラゴンに驚いていた兵士たちが、美味しそうなたこを見て、少し警戒しながらも嬉しげに近寄って来たので、わたしはドラゴンの背からひらりと飛び降りた。

 着地した時は、ちょっと『どすん』っていっちゃったけれど。


「茹で加減はどうかしら?」


 すると、セフィードさんは素晴らしい爪使いでたこの足を1本すぱっと落とすと、さらに小さく切ってわたしに差し出した。


『ん』


 こ、これは、彼氏からのあーん、っていうアレなのかしら?


 なんて、ちょっとドキドキしながらも、口を開けてたこを食べる。


「……柔らかくて、とても良い感じに茹だっているわ。塩の加減も絶妙ね。んー、美味しいわ、ほっぺたが落ちそう」


 わたしは頬を押さえてたこを味わった。もぐもぐと噛むと、あとからあとから旨味が湧き出てくる。

 やっぱりたこの魔物は美味しいわね!


「……おい、見たか? あの聖女さん、ドラゴンの爪に噛りついたぞ?」


「さすがは聖女さんだ、恐れってもんを知らないんだな」


「俺なんて、黒影だって言われてもおっかなくって、胸がドキドキしてるのに」


「正直なところ、俺もだぜ」


 あら。

 皆さま、違った意味でドキドキしていたのね。


 たこの味見をして頷いたわたしは、顔見知りの(というか、軍艦内の厨房でこき使った)海軍兵士たちに言った。


「わたしが乗ってきた籠が救護所に置いてあるんだけれど、その中に黒い液体の調味料、醤油って言うんだけど、それが入った大きな瓶があるから取ってきて、たこの切り身にまぶして火で炙って頂戴。闘いで疲れた身体を元気にする、美味しい焼きだこを食べて待っていてね。今、他のたこも茹でてきちゃうから」


 たこには、栄養ドリンクの成分でもあるタウリンが含まれているのよ。美味しいだけではなく、身体にも良い食べ物なの。タンパク質もたっぷりだし、疲労回復効果がばっちりなのよ!


「おおっ、それは美味そうでいいな! 俺が取ってくる」


 兵士がダッシュで醤油を取りに行ったので、わたしは「キラシュト陛下にも食べさせてあげてね」と言い、ドラゴンに乗り込むと次のたこを茹でるためにセフィードさんと海に戻った。


 皇帝陛下には精力をばっちりつけてもらって、ロージア姫との子作りをがんばってもらわなくっちゃ。もうこれ以上いらないってくらいに、赤ちゃんをポコポコ産んでもらわないとね。


 海上では、突然現れたドラゴンに、大だこたちは戸惑っているようだった。セフィードさんは遠慮なく、端からたこの周りにブレスを放ち、くるんと茹で上げる。くるん、くるんと数匹のたこが浮かぶと、爪に引っ掛けて「おおー、大漁だー」と喜ぶ兵士たちのところに運んでいく。

 すると、兵士たちの指示で、魔物退治に集まった人々が力を合わせて、調理用に準備した場所にたこを移動させた。


 海軍とはいえ、さすがは訓練を積んできた兵士である。石を積んであっという間にいくつものバーベキューコンロを組み上げ、そこには既に網が置かれていた。

 彼らはたこをさばいて串に刺し、手際よく起こされた火で炙って、焦がし醤油味の焼きだこを作っている。


「うわあ、お醤油の焦げるいい匂いがするわね。おなかが空いちゃうわ」


 空を飛んでいるわたしたちの所にも、良い香りが漂ってきた。


『俺たちも早く食べたいな。そうだ、村に持ち帰る分を取っておいてもらわなければ』


「そうね。村のみんなにも美味しいたこ料理を食べさせてあげたいわね。村でたこ祭りをしなくっちゃ」


 こんなのんきな魔物退治があるのだろうか、という雰囲気だが、わたしたちの目にはもはや、海の魔物は美味しい食材にしか見えていない。


 それまでいい気になって襲いかかってきていた魔物たちは、人間を食べるはずが自分たちが食べられてしまっているという異常な状況に気づき始めたのか、わさわさと海の中を動き始めた。


「大変、たこが逃げてしまうわ!」


『逃がさん』


 わたしを背に乗せた食いしん坊ドラゴンは、たこの合間を縫ってブレスを放ち、次々と海水を沸騰させていく。恐ろしい魔物であるたこたちは、圧倒的な力の前でなすすべもなく、くるんくるんと真っ赤な茹でだこに変わっていく。


「すげえな、黒影! 見事な茹で加減だ」


「ドラゴンブレスっていうのは役に立つんだな。大したもんだ」


 たこを持ち帰るたびに親しげに声をかけられ、褒められたセフィードさんは、認められた嬉しさが隠せないまま『ふふっ』と小さく笑った。


 ……このドラゴン、可愛すぎる。


 さて、一段と巨大な大だこの親分は、どうやら熱に耐性があるらしく、茹だった普通の大だこをかき分けて逃げ出そうとしていた。耐性があるとはいえ、足の先はしっかりと茹だってしまっているようだ。


「セフィードさん、待って頂戴」


 わたしは神さまに祈りを捧げて、目に祝福を宿してたこを見た。


「……あのたこの親玉は、大きすぎて身が固く、あまり美味しくないようです」


 セフィードさんは、驚いて言った。


『さすがはポーリン、一目で味まで見抜けるのか⁉︎ ……聖女の能力は底知れないな』


 おほはほほ、『豊穣の聖女』に死角はございませんわ。


「もう足が使い物にならないので、たいした悪さはできないでしょう。茹でても処分に困りますから、食べられないたこは捨て置きましょう。キャッチアンドリリースなのです」


 え? ちょっと違う?

 ほほほ、細かいことは気になさらないで良くってよ。






 そしてわたしたちは、美味しいたこをせっせと茹でては運び、さっきまで決死の戦場であった場所は楽しいバーベキュー会場に様変わりしていた。


「いやあ、『たこ』とは美味しいものだなあ」


 初めてのたこ体験に、皆舌鼓を打つ。


「大鍋でにんにく風味のトマト煮込みもできているからな」


「バゲットと食べると美味いんだよなあ、それ」


 軍艦仕込みの腕を存分に振るっているようだ。


「よし、キャベツとネギと小麦粉が届いたぞ!」


「鉄板の準備を急げ」


 あら、たこ焼きの支度もばっちりとできているわね。


「野菜が届いたな、よし、カルパッチョ班、直ちに作戦を遂行せよ!」


「了解!」


 さすがは軍隊、いつの間にか班分けもできているのね。


「黒影も、ちょっとひと口食べていけよ……って、口が大きいなあ」


「ドラゴン用に、ひとつでかいやつを炙ってやれよ」


 たこ退治の途中だけど、気になって仕方がないから、わたしたちもちょっと休憩ね。


 ドラゴンの口にも焦がし醤油味の焼きだこが入れられて、セフィードさんははふはふと言いながらたこを噛んでいる。

 わたしも、串に刺さった焼きだこを受け取り、香ばしく焼けた熱々のたこに噛り付いた。


 ああ、口いっぱいに広がるたこの滋味と、焼けたお醤油の美味しさったらないわね! 

 噛めば噛むほど旨味が溢れてくるし、採れたて茹でたてのたこはとても柔らかくて、炙ってある表面はカリッと、中はふんわりしこしことした噛みごたえなの。


 海水で茹でたから、ちょうどいい下味がついたみたいだわ。食べると身体の中から力が湧き上がってくる感じよ。


 アリアーナお姉さまがけが人をすべて治し終えたらしく、救護所は空っぽになって、みんなでたこに嚙りついているわ。このたこを食べたら、体力もあっという間に回復しそうね。

 

 アグネッサお姉さまも豪快にたこにかぶりついて、すごい勢いで食べているわ。食べるお姿も凛々しくて素敵ね、さすがはお姉さまだわ、何もかもが光輝いていらっしゃる。


 なぜか、キラシュト皇帝陛下までみんなに混ざってたこを食べている。

 カリスマ皇帝、どこ行った。


「こんなに美味くて滋養があるなら、身重のロージアにも食べさせてやらねばな」


 あら、ロージア姫はご懐妊なさっていたのね!

 でもまあ、あれだけ熱々カップルだったのだから不思議はないけれど。

 お優しいロージア姫には、たこを食べて元気なお子さまを産んでいただきたいものだわ。


 わたしとセフィードさんは、たこをうまうまと噛みながら海上に戻り、残ったたこをすべて茹でだこにしてしまった。

 海水がかなり熱くなったけど、魔物のせいで生き物はみんなとっくに逃げてしまったようだし、しばらくしたら元の温度に戻るでしょう。


 そんなこんなで、海の魔物の大襲撃は『楽しいガズス帝国たこ祭り』となって、みんなの笑顔で幕が閉じたのであった。

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