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【書籍化】転生ぽっちゃり聖女は、恋よりごはんを所望致します! ……旧タイトル・転生聖女のぽっちゃり無双〜恋よりごはんを所望いたします!〜  作者: 葉月クロル
第一章

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聖女、活躍する!2

 セフィードさんのお屋敷にやってきて、1ヶ月程が過ぎた。


 わたしたちは力を合わせて畑を耕し、今ではとても広くて良い土の畑に人参、じゃがいも、トマト、西洋ねぎ、そしてレタスやキャベツやほうれん草など青物や、カラフルなピーマンとパプリカ、そして豆類がすくすくと育っている。

 麦畑も作ったし、小麦を挽くための臼も準備してある。

 もう少し余裕が出たら、田んぼも作る予定だ。


 最初に植えたりんごはおまけのようなもので、あっという間に実をつけたが、他の作物は(村のみんなで食べる分くらいはささっと育ったけれどね。神さま、ありがとうございます、ポーリンはとっても助かります)まあまあ常識的なスピードで育っている。

 とはいえ、その味は非常識に美味しいけれど。


 畑から取り除いた石は、手頃な大きさに金のクワで砕いてから(ええ、普通、クワでは石を砕けないけれどね、そこは不思議な聖女パワーということで)(違うわ、わたしが怪力だからではないわ! わたしはお淑やかな聖女なのよ……なの、よ)積んで、焼き窯を作っている。

 これでピザとかパイとかを焼くと、1度にたくさん焼けるし、とても美味しいのよ。出来上がるのが楽しみだわ。


「さあ皆さん、額に汗して働きましょう」


 古くなった聖女服をリメイクして作った農作業着に身を包み、今日もわたしは元気にクワを振るう。さっくさっくと耕した畑には、セフィードさんと一緒に町で買ってきた種を撒き、苗を植える。


 多めに耕して牧草地にしたら、酪農も行いたいわね。

 そうそう、鶏も飼いたいわ。

 バターやミルクや卵を自給自足できると、美味しいものがたくさん作れるもの。


 そんなわたしにとても懐いている、犬族のミアンが、いつものようにお手伝いをしにやってきて、突然黙り込んだ。

 見ると、いつもは全力で振りまくっている可愛い尻尾が、今日は力なく垂れてしまっている。


「……奥方さま……」


「どうしたの、ミアン? なにか悩み事でもあるの?」


 泣きそうな顔の幼女に、わたしは腰を屈めて目を合わせ、そっと尋ねた。


「………どうしよう……奥方さま、どうして……」


 まったく意味がわからず、首を傾げながら、ミアンの言葉を待つ。


「奥方さま、奥方さまが……やつれてしまっていたなんて!」


 はい?


「ここにいらした時は、ふわっふわのプニンプニンだったのに、いつの間にか奥方さまがこんなにやつれてしまっていたなんて、どうしよう、どうしよう、ご病気だったら……お母さんも、病気になって、細くなったから……」


 ミアンがえぐえぐと泣きながら、わたしにしがみついた。


「こんなに……奥方さまが細くなっちゃった……うわああああああん!」


「え? ちょっと、ミアン?」


 わたしは号泣する犬耳っこを撫でながら、戸惑った。


「わたしはとても元気だし、やつれてなんかいないわよ? 病気ではないわ」


「でもおっ、こんな、細く、なってる! 奥方さまあ、奥方さまあああああーっ!」


「どうした、ミアン?」


「奥方さまに、なんかありなさったのかい⁉︎」


「うわああああああああーっ」


 激しく泣きじゃくるミアンの声で、村の人たちが集まってきてしまった。そして、すごい勢いでセフィードさんが飛んできた。


「奥方さまあああああーっ、前はこんなに、細くなかったもんっ、どうしよう、ご病気だったらどうしよう、嫌だよーっ、奥方さまあああああーっ」


「あ」


 ミアンちゃん?

 もしや、わたしのウエストサイズのことを言っているのかしら?


「ポーリンは病気なのか?」


「ひゃっ」


 目の前にセフィードさんの顔が現れて、わたしはのけぞった。


「ミアン、こちらにいらっしゃい。奥方さまが困ってらっしゃるわよ」


「おがあざあああああん」


 泣きじゃくる幼女が、母親に引き取られてほっとする間も無く、今度はセフィードさんに迫られる。


「ポーリン、大丈夫か?」


「わたしは元……」


「……なんということだ、毎日見ているから気づかなかったが……見ろ、こんなに服が余っている……」


「あら、本当だわ」


 聖女服と同じで、農作業着もウエストがゴムなのよね。だから、気にしていなかったけど、言われてみると、ゆるゆるだわ。


「ポーリンは、こんな細くなかった! ほら、抱き心地も違うし!」


「ぎっ、ぎゃーっ!」


 わたしは、いきなりセフィードさんに抱きしめられて、踏んづけられたカエルのような声を出してしまった。


「前はこんなにくびれていなかったぞ! あんた、病気になっていたのか? 働きすぎて、無理がたたったのではないか? ポーリン!」


「……」


 違いますね。

 毎日クワを振るって汗だくになり、よく身体を動かしているから、お腹が引っ込んだんですね。


「ほら、前はもっと肉が掴めたのに!」


 セフィードさんの両手が、わたしの脇腹の余ったお肉を揉んだ……そうなのだ、『やつれた』なんて言われたけれど、やっぱりわたしはぽっちゃりなのである。


「これしか! これしか掴めない!」


 激しく揉まれている。

 公衆の面前で脇腹を揉むとは!

 なっ、なんたる辱めを……。


「セフィードさんの、えっち!」


 わたしは涙目になりながらセフィードさんの頬を平手打ちした。


「最低! 変態! もう知らない!」


「ポーリン⁉︎」


 耐えきれずにわたしはその場から走り去った……軽やかにではなく、どすどすと。





 村の外れには、小さな川が流れている。

 わたしは川辺に座ると、小石を投げた。


「……セフィードさんの、ばか」


 心配してくれたのは、わかる。

 わかるんだけど。

 スリムなセフィードさんに、村の人たちの面前で脇腹のお肉を揉まれて、わたしの乙女心は傷ついたのだ。


「うう……どうせわたしは、お姉さま方みたいにスタイル良くないもん」


 わたしは豊穣の聖女だし、ごはんをお腹いっぱい食べられるありがたさを感じているから、いくら太ってもそれ程気にしなかったけど……なんでだろう。今日のはこたえたな。


 他の聖女のお姉さま方みたいに美しかったら……。


 そっと腹肉を触っていると、足音もなく背後にセフィードさんがやってきた。


「ポーリン……」 


 さすがは『黒影』さんだ。

 気配を消すのが上手いわね。


「……済まなかった」


「……」


 いいのよ、気にしないで、と言えないわたしは、聖女失格だ。


 振り返らないわたしの隣に、セフィードさんが座った。

 そして、黙り込むわたしの横で、ぽつりぽつりと話し始めた。


 セフィードさんがその身に受けた『呪い』の話を。

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