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ガズス帝国へ3

風邪をひいて更新が止まっちゃって、

すみませんでした!

またポーリンをよろしくです(^ ^)

 侍女さんたちの熱心な全身マッサージを受け(揉んだ方も癒されるという、不思議なマッサージになったのだ)すっかり寛いでお昼寝もしてしまったわたしは、さっぱりした気持ちで目を覚ました。


「ポーリンさま、もうしばらくしましたら、皇帝陛下への非公式のお目通りとなります」


 温かいハーブティを飲みながら、軽いガズス帝国風のお茶菓子、そしてハムの挟まった美味しいサンドイッチを摘んでいると、侍女に声をかけられた。


 疲れがとれたところで、ガズス帝国皇帝との初顔合わせがあるらしい。


 わたしは政略結婚の駒としてこの国にやって来た。まったく国交のないガズス帝国とレスタイナ国との外交が、ここから始まるのだ。


 聖女であるけれど、外交官ではないわたしにできることは限られているし、現在この見知らぬ国にひとりやってきたわたしは孤立無援な状態(でも、神さまの加護はどこに行ってもあるのだから、聖女として不安はなくてよ!)である。だが、今後のことを考えると皇帝に舐められるわけにはいかない。


 聖女となってから身につけた知識とスキルで、レスタイナ国を平和へと導かなくてはならないのだ。


 気合を入れて、さらにチョコレートを3つ口に入れた。


 美味しいわ!

 ガズス帝国、ナイス!


 ミルクチョコレートの中に封じ込められた、潰したナッツを滑らかに練り上げたクリームが、口の中でさっと溶けて、お酒の香り高い風味が広がる。このように美味しいお菓子を作る国なのだから、きっと国民性も良いのだと信じたい。


「ポーリンさま、お目通りの際のドレスはいかがいたしましょうか?」


「あら、わたしはご覧の通り、特別なドレスを持っていないのよ。いつもの白い聖女服でかまわないわ」


「そうでございますか……」


 大きなクローゼットの中に、3着の聖女服と2着の農作業着だけがぶら下がっている。


 実は、レスタイナ国からはるばるやってくる王女のために、数着のドレスが用意されていたのだが、その、まあ、わたしには生地が少々足りなくって、おほほほ。

 せっかくの美しいデザインでしたのに、袖も通さないうちに退場となりましたわ。

 多少のサイズ調整はできたのでしょうけど、ほら、わたしの場合は、2着を1着に仕立て直さないと……。


 残念である。


 ロマンチックな物語ならば、ここで美しくドレスアップしたわたしが皇帝との対面して、そのハートをズキュンと射止めてしまう展開なのに。

『おお、聖女ポーリンよ、あなたはガズス帝国に舞い降りた天使なのだな』『まあ、陛下ったら、恥ずかしいですわ』とかラブラブハートフルなストーリーが始まるはずなのに。


「そういえば、皇帝陛下は、ぽっちゃりはお好きなのかしらねえ……」


 ぽっちゃりを『超えている』自覚があるわたしは、小さな声で呟いてみる。


 まあ、あれですわね。

 他の聖女のお姉さま方ならともかく、わたしには『ハートをズキュン』は無理ですよね、うん。

『見た目よりも内面を見て欲しい』なんて甘っちょろいことは、このポーリンさんは言いませんよ!

 むしろ『貞操を守れますありがとう』と、神さまにお礼を言いますよ!


 別に……別に、悲しくなんかないんだからねっ。





「聖女ポーリンさま、こちらでございます」


 いつもの姿のわたしは、王族との謁見室に案内された。


「ありがとう」


 笑顔で答えて、開かれた扉の中に足を踏み入れたわたしは『ひぇっ』という変な声が出そうになるのをなんとかこらえた。


 非公式ですよね?

 なんで、赤い絨毯の両脇に、きらびやかな服を着た人がずらりと並んでいるのですか?

 予想した以上に大掛かりなシチュエーションに、ポーリンはびっくりです。


 今からわたしがあの上を歩くんですね、そうですね。

 真っ赤な絨毯を歩く白い聖女は、神々しいばかりに美しい、そんな場面なのですね。


 そこはちょっとしたホールくらいある広い部屋になっていて、予想していたよりも多くの人が集まっている。

 サイズがおかしい。

 わたしの服のサイズよりおかしい。

 非公式なご挨拶のはずなのに、ダンスができるレベルの広い部屋なのはなぜだろう。


 そして、その一番奥は高くなっていて、王座があり、そこにガズス帝国の皇帝であるキラシュト陛下らしい男性が座っている。

 ブルーの髪に黒い瞳をした、二十代後半くらいの男性には覇者としての威厳があり、容赦のない鋭い視線でわたしを見つめている。


 まあ、一言で言えば、がっちり系のイケメンだ。

 素晴らしきイケメンカリスマ皇帝だ。

 男らしさがむんむんしていて、精力旺盛な感じの男盛りだ。


 さらに、その横には椅子が3つ並べられていて、それぞれに美しいお姫さまが座っている。でもって、こちらは女らしさがむんむんしている。


 ううむ、濃いな。

 ガズス帝国の王家のメンバーは、濃い。

 

 あれ?

 そういえば、あの人たちは王妃だと思うけど……なんで3人しかいないんだろう?

 わたしは第五王妃になるべく、この国に来たのよね?

 ということは、既に4人の王妃がいるはずなのに。


 とまあ、内心ではいろいろと思うところはあったけれど、わたしはすべてを押し込めて、聖女としての威厳ある振る舞いにつとめる。


 そう、聖女とはプロのパフォーマーなのだ。


 口元に優しげな聖女の笑みを浮かべたわたしは、ゆっくりとした足取りで皇帝陛下の前へと進む。


「あれが噂の聖女か?」


「やけに巨大だな。よくもまあ、レスタイナ国はあれを王妃にと寄越したものだ」


「しっ、あれでも聖女なのだから、王族と同列の扱いだぞ」


「いやしかし、あれほどまでの存在感……さすがは豊穣の聖女だ。肉も豊作である」


「存在感がありすぎて、王宮の床が抜けないか心配だな」


 ええい、うるさいわ!

 天罰が下るわよ!


 内心のもやもやを抑えつつ、わたしはキラシュト皇帝陛下の前に進み出て、腰を低く屈めて正式な礼をした。


「レスタイナ国の『豊穣の聖女』ポーリンでございます」


「……ほう。そなたが噂の聖女か。遠路はるばるよく参った」


 よく通る低い声が響いた。さすがは皇帝、声もイケメンだ。


「ありがたきお言葉に存じます」


「顔をあげて良いぞ。非公式な場ゆえ、楽に振る舞うが良い」


 わたしは言われるままに顔をあげて、キラシュト皇帝と王妃たちを見た。すると、彼女たちは皆顔を歪めてわたしを睨みつけた。


 あれ?

 これはもしや、敵認定というやつですか?

 こんなお美しいお姫さま方に、特技は野良仕事のポーリンがかなうわけがないではありませんか。

 お姫さまたちが愛の歌を歌う時、わたしは田植え歌を歌っていたのですよ?

 皆さんが午後のティータイムをなさっている時に、わたしは水耕栽培に挑戦して「やったー、白米ゲットだぜ!」とドヤ顔をしていたのですよ?


 だから、そんな目で見ないでくださいませ、ポーリンは気が弱いのですから。


 そんなことを考えつつも、口元の微笑みを絶やさないわたしを見て、キラシュト皇帝が言った。


「なるほど、報告通り肝の座った聖女だな」


 へ?


 おっと、スマイルを崩しそうになりましたよ、危ない危ない。


「女の身でありながらたったひとりで他国の船に乗り込み、荒くれ者たちの胃袋を掴んでその傘下に収め、我が海軍の精鋭たちを手玉に取っていたそうだな」


「て、手玉?」


 誤解ですわ!


「しかも、恐ろしい海の魔物を見ても悲鳴ひとつ上げなかったのみならず、アレを食べてみたいから取ってこいと、誰も御すことができないと言われた謎の冒険者『黒影』に命じ、手足のようにかの者をこき使い」


「なっ、なっ、なっ」


「しかし、負傷した兵士には聖母の慈愛でその傷を癒し、最後には戦艦を牛耳った強者聖女つわものせいじょよ」


「ご、誤解ですわ! それはほぼ、誤解でございます!」


「誤解だと?」


 キラシュト皇帝は、凄みのある声で言った。


「それでは、海の魔物を切り刻んで『タコ焼き』なる美味を作り、皆に振る舞い舌鼓を打ったという話は嘘なのか?」


「あ、それは食べましたけど」


「そら、真実ではないか!」


 あっ、しまったーっ!



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