本能 vs 理性 2
「うははは、たーのしー」
俺は|ペンスタンドの中にいる《・・・・・・・・・・》。
ご主人は執筆の際、考察のためにスケブ(スケッチブック)に手書きして矛盾がないか、とかどういう構図になるかを推敲するのだ。
そのため、実際に執筆しているノートパソコンと、スケブにペンスタンドが置かれている。
一旦構想が纏まってしまうと、あとはひたすらノートパソコンと向き合うご主人はちょっと何かがあったくらいではその手を止めることはないのだ。
例えば、肘が当たってペンスタンドが落ちて転がったくらいでは。
ガシャっと音を立ててボールペンやマーカーなんかが散らばっても全く見向きもしない。恐らく次にスケブを手にとる時まで気付かないだろう。
だが、オレの関心はそこにはなかった。
幸いにも壊れることのなかったペンスタンド。全部転がり出て空っぽのソレが視界に入った途端、俺の鼓動は高鳴ったのである。
それは前世で学生だった頃、好きだった女の子の制服が夏服に替わった時のトキメキに近かったかもしれない。
無自覚にしっぽをピンと立たせた俺はスルスルと近づき円筒型のそれに前足をかけると、ユラユラと左右に揺れた。
躊躇なく飛び込む!
まだ身体の小さな俺にも窮屈で恐らく、外からはしっぽとお尻だけが見えているのだろう。詰まったと言うのが正しい状態だが、俺の心は高揚を抑えきれなかった。
このフィット感、安心感はレボリューションだぁああ。左右にユラユラと揺れるのもいとおかし。
「あーあー、先生またやっちゃったんですか。全く一度入っちゃったら……ぶふっ」
カーペットに転がるペンたちを拾おうとして菜々緒が噴き出す。
ククク、と笑いを堪え切れずに
「センセ、センセ」
と紅蓮の肩を叩く。
筆がノッていた彼女は機嫌悪く振り向いて、
「ぶふっ」
やはり噴き出した。
「スマホ、スマホ」
無理やり詰まった耀夜の顔は、パンストでも被ったかのような有様だった。
「よくこんな格好で眠れるわね」
スマホでパシャパシャしながら呟く紅蓮。
「ところでこれ、息できるのかしら?」
二人は顔を見合わせた後、慌てて後ろ足を引っ張った。それでもスヤスヤとお腹を膨らませたり凹んだりさせてるのを見て呆れるやらホッとするやらで疲れた二人だった。