本能 vs 理性
「うははは、たーのしーい」
どうにも精神と肉体は影響しあっているようで、人間としての知性をもっていたはずの俺は今目の前のブツから目が離せないでいた。
ティッシュペーパーである。
言うてそれはただのティッシュペーパーでしかなかったのだ。
……気まぐれの風が揺らすまでは。
ヒラヒラと揺らめくティッシュが視界に入った瞬間、こう抗えない衝動が起こり、気づけば箱の上に乗っかり銜えては引き抜き爪で引っ掻いては撒き散らすのだが、これが何とも心が踊るのである。宙を舞う残骸を追いかけてはねこパンをするのだ。
だが、そんな夢のような時間は永遠には続かない。そう、ティッシュペーパーが底をついたのだ。
そうなると急速に高揚感が薄れていくのだった。そう、賢者タイムのように。ああ、うんもう俺には縁がないんですけどね。ハハっ。
と、誤魔化してみても目の前の風景は変わらない。ビリビリになった憐れな夢の欠片たちは消えたりはしないのである。
そうだ!とりあえず証拠隠滅だ! 残骸を箱に押し込んでどこかに隠せばティッシュはどこだったかしら? で済むはず……。
我ながら天才! 完全犯罪ではニャイか!
「かぐやちゃん、何をさっきからニャウニャウ言っってるのかしら?」
ビクッと全身の毛が総毛立つ。
そろーりと振り返るとそこには笑顔のご主人ガガガ。
俺はそ~っとティッシュの空箱にその身を隠し顔だけを出して見上げてみた。
ご主人の動揺が感じられる。これでなんとかごまかせたかっ!?
首根っこを抓まれた俺は足をぶらんおさせながら引っ張り出された。
「悪い子にはおしおきしなきゃね♪」
この後、めちゃくちゃモフられた。