挑戦
扉のレバーに飛びつきそのままぶら下がると、
ガチャっと音を立ててす~っと扉が開く。
とは言え開いたのはちょっとだけだ。
その僅かな扉の隙間に頭を突っ込みグイグイグイっと押し開いて部屋を出る。
チラリと振り返るが、ご主人は原稿に集中しているようで、気づいた気配はない。
前に進むよりむしろ縦にハネるようにぴょんこぴょんこ駆ける。同じように戸を開けて脱衣所に入ると入浴剤の袋を一つ咥えて浴室に入る。
浴槽のフタの上にペッと入浴剤を置くと、爪でカリカリと2,3度引っ掻くと、使われなかった切り取り線の横がペラペラと揺れる。
ニャシ! と心の中でガッツポーズすると。
両手(前足)で掴んでサラサラと入れ、浴槽の壁に付いているリモコンの電源ボタンを押す。
フニっ。フニっ。
肉球が凹むだけでボタンが押せない!ボタンが堅ぁい!
ンーっと力を込めてやっとピっと音をたててオレンジ色に光る。
もう一つお湯を張るためにボタンを押さねばならない。ぐぬぬ。
はっとした俺は額……、ねこの額ほどなどと言われる小さい頭でグイグイ押す。アレだ、ねこ窓の精度を高めた感じだ。
ピっ! 赤い色が灯り、グググッと音が鳴った後、ダパァとお湯が出始めた。
やった! 俺はやったぞ!
ただねこにはこんなマネはできまい!ふはは!
と少し上向きに高笑い(?)の後、視線をおろすとそこに見えたのは……、
栓である。
目が見開かれる。
アカンやん! 栓を閉めないと意味ないやん!
浴槽用の蛇口の横に栓が置かれている。
チョイっチョイっと前足で突くと、転がった栓が水圧のせいか排水口に引き込まれ綺麗にハマった。
ホッ。
ちょっとだけ入浴剤が流れてしまったけど、なんとかやり遂げた。後はご主人を呼んでくるだけダァあぁあっ!
水気が残っていたのかツルっと滑ったのだ。
前足で抵抗するも時間の問題だった。
バシャっと音がたつと浴槽の底だった。
人間だったころはちょっと跨ぐ程度だった浴槽はそびえ立つ壁のようであった。
そして水位は少しづつ上がっていた。パニックになって慌てる俺。体毛が濡れるとなんだろう、感覚がわからなくなり動きづらい。
ヤバイヤバイヤバイ。
藻掻いてる内に少しづつ身体が疲れてきて、お湯を飲んでしまう。吐き出した泡を最後に見て意識を失った。