新しい生活
「ここにいる女衆全員が、
今日からみんなのおっかさんだよ。」
「あたしのことは
彩おっかさんと呼んでおくれよ。」
僕等はムショで暮らすことになった。
本当のお母さん、お父さんの
顔さえ知らない僕等に、
一気に何十人もおっかさんが出来てしまった。
なんだかすぐに馴染めなかった僕は
少し離れていたけど、年下の弟アクトは
おっかさんにすぐ抱き着いて甘えた。
そんなアクトが
なんだか羨ましかったけど、
自分からおっかさんのところには行けなかった。
そんな僕を見つけると
彩おっかさんは僕を抱きしめてくれる。
「こういうのは嫌かい?」
彩おっかさんは僕の顔を目を見つめた。
僕は俯きながら首を横に振る。
「そうかい。
あんたは少し照れ屋さんなのかね。」
「気にしないで、
本当のおっかさんだと思って
甘えてくれていいんだよ。」
僕が今まで全く知らなかった、
ぬくもり、柔らかさ、優しさ、いい匂い、
これがお母さんというものなのだろうか。
お母さんがいる子は
みんなこうしてもらっているのだろうか、
そう思うとなぜだか自然に涙がこぼれていた。
「あんたも苦労してきたんだね」
彩おっかさんは少し涙声でそう言うと、
僕の頭をずっと撫でていてくれた。
僕等の面倒は
おっかさん達が交替で見てくれる。
当番で係が決まっていたけど、
おっかさん達はみんな任務の合間を縫って
僕等を世話してくれた。
任務でしばらく会えなくなるからと
顔を見に来るおっかさんも居る。
ムショには、この世界の人間の子供も居た。
名前は龍之介。
龍之介は僕達よりも年下で、
いつも僕達の後を追いて回って来る。
今までここには子供がいなかったから、
遊び仲間が出来て嬉しいのだろうと、
おっかさん達は言っていた。
僕は本当のお母さんと
一緒に暮らして来た龍之介を
少し羨ましく思ったが、
龍之介もしばらくお母さんと
離れて暮らしていて、
最近ムショに来たのだと聞いて
少し申し訳ない気持ちになる。
-
ムショの中にはいろんな人が居た。
もちろんこの世界の人間が多かったけど、
それでも半魚人や人魚、エルフ、翼人、
ゾンビ兵と呼ばれるアンデッド、魔族もいる。
だから外見で差別されることは全くなかった。
どちらかというと、
今まで子供がいなかったから
子供の方が珍しいらしい。
時々僕と同じ異世界出身の人に声をかけられた。
「そうかい。
首都も戦争で、もうそんな状態なのかい。」
「まぁ、ここに居れば
食べる物に困ることはないよ。
俺も元の世界に居た頃は
酷い奴だったと自分でも思うぜ。
やっぱりな、食う物がなくて、
いつも腹が減ってるってのがよくないよな。
腹が満たされれば、
それなりに気持ちも満たされて、
余裕が出てくるってもんだよ。」
確かに僕と同じ世界の
出身者とは思えないような優しい人だった。
僕が知る限り、
あの世界にそんな優しい人はいない。