ゾンビと引きこもり(7)
研究、調査中である
他のゾンビ兵と共に
保管されている『Bros-408』、
もしくは蘇生しかかっている人間シンヤ。
通常であれば、
真っ先に幽霊が憑依する
素体に選ぶところであるが、
自我を持っている
という可能性があるため、
一条女史は『Bros-408』を
素体の候補からは外していた。
死んだ人間の体に憑依し
新たな肉体を得た
澪達の例があるため、
『Bros-408』に自我があるという
可能性はますます高くなった
と一条女史は思っている。
以前から、
ゾンビに幽霊が憑依した兵士に
ゴーストゾンビソルジャーという
ネーミングを考えていた一条女史だが、
いざ実際にそうなると、
それはもうゴーストでもゾンビでもなく
単に魂が肉体を乗り換えた
だけであるということことに気づく。
複雑になったキメラが、
一周回ってシンプルになった感がある。
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もし『Bros-408』に
自我があると言うのなら
このまま保管しているよりは
もっと動かした方が
いいのではないかとも思える。
幽霊達の件から分かったことだが、
魂が肉体に憑依したからと言って
すぐに以前のように動ける訳ではなく、
それなりに体を動かす
トレーニング的なものが必要となるらしい。
そこで一条女史は
『Bros-408』を
保管庫から引っ張り出し
自ら操作してみるのだが。
「やっぱり、弟くんみたいに
上手く操作出来ないんだよなー」
「そうか?
割と上手くいっているように
見えるがな」
また試験に付き合わされている石動、
すっかり共犯者に
されてしまっているようだ。
「お前の体の動きに合わせて
Brosも同じ動きをしてるし
そんなに悪いと言う訳ではないぜ」
遠隔操作型の同調率、
過去最高値を叩き出した弟と比べると
多少劣るというのは無理もない。
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「ちょっと、
対戦相手になってくれよー、
こういう時のために
呼んだんだからさー」
渋がる石動を
無理矢理引っ張り出して、
模擬戦をはじめる一条女史。
「壊さない程度で
やってくれよー」
一条女史もそこそこだったが、
そこは軍内一の格闘家
石動が相手なので
防戦一方、圧倒的に不利。
石動の繰り出す連打を前に
さすがにもうダメかという時、
一条女史の動きより早く
Brosが石動の拳を避けはじめる。
驚いて一条女史は
体の動きを止めるが、
Brosはなおも動き続ける。
「おぉっー!」
感動していた一条女史だったが。
「これ、一体どうやって止めんだー?」
制御を離れてしまっている以上、
止めようにしても止められない。
「お前、一回殺されろー、
じゃなきゃ止まらないわ、これー」
「ふざけんな、お前!
じゃあ俺が壊して止めてやるよ」
「いやー、壊さないでー」
「止まれー!」
一条女史がなんでもいいからと、
とにかく発した一言で
Brosは動きを止める。
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二度目の暴走、
制御出来ない時点で
兵器としては完全に失敗、
普通なら。
だが、制御出来ないものを
平気で使うクセがあるこの防衛軍、
廃棄ということにはならなかった。
むしろ新しい試みがされることになる。
試験や調査がなされた結果、
どうやら最初に命令をすれば、
判断がいらないことであれば、
『Bros-408』の裁量で
自分で勝手に動くようだ
ということが判明していく。
「これ、
自動音声で動かすのが
いいんじゃないか?」
「お前、時々
天才みたいなこと言うよなー」
そしてこの後、
音声入力式の操作が
試されることになるが、
やはり操縦者には
弟であるトモヤが
いいのではないかという話になる。