その後の幽霊
彩姐さんと一条女史の説得の成果なのか、
龍之介の力なのかはわからなかったが、
澪は心残り、未練を解決してなお、
この世界に留まった。
それは真の意味で
次のステージへ進んだ人類に
なったのかもしれなかった。
博士の次に高次元に最も近い存在になった
稀少な澪が、その後どうなったかと言うと。
彩姐さんと一条女史に、
めちゃくちゃこき使われていた。
「あんた、うちの娘の体使ってるんだから、
あんたにはうちのチームのメンバーとして、
しっかり働いてもらうからね。」
「澪っちさー、
憑依時のテストしてデータ取りたいからー、
今晩一晩あたしに付き合ってねー
大丈夫、大丈夫、明日の朝までには終わるからさー」
「ひぇぇ、
なんであたしがそんな寝ないでお仕事を」
ただ彩姐さんは龍之介には
相変わらずメロメロだった。
「じゃぁ仕方ないね。
今晩はあたしが
龍之介の面倒を見ておいてあげるよ。」
龍之介を抱きかかえむぎゅむぎゅする彩姐さん。
「ねぇ、龍之介たん」
まさか彩姐さんの口から
「たん」という敬称を聞く日が来ようとは
天野も思ってはいなかった。
すっかり子供に
メロメロになってしまった彩姐さんは、
近くに居た天野にすり寄って来る。
「もう、すっかりあたしも
子供が欲しくなっちまったよ。
坊や、どうだい、あたしと
子づくりでもしてみないかい?」
「そんな姐さん、
犬猫じゃないんですから、
誰でもいいから子供つくるってわけには
いかないでしょう」
「何言ってんだい!
誰でもいいんだったら
その辺の犬にでもお願いすりゃいんだよ、
あんたは全くわかってないんだね!」
「さすがに犬はまずいでしょう。
姐さんにそういう性癖があるのなら別ですけど。」
「そういうことを言ってるわけじゃないんだよ!
この朴念仁のお単小茄子!」
彩姐さんはプリプリ怒っており、
天野は何故彩姐さんが怒っているのかわからなかった。
後ろで見ていた澪は引いていた。
「天野さんて最低なんですね」
「うん、ちょっと引くよねー」
「でもビッチは母性愛に溢れてるってのは
あながち間違いじゃないと思うんだけどなー」
一条女史は天野と痴話喧嘩をしている彩姐さんを見て
そう思うのであった。
天野は後でこっそり澪に聞いてみた。
「澪さんはどっちが本当の二人だと思いますか?」
澪を引きとめた二人の豹変ぶりをどう思っていのか、
澪に聞いてみたかったのだ。
「どっちも本当だと思いますよ。
あたし達のことを心配してくれたのも、
もちろん真剣で本気だったですし。
それでメリットがあって
よかったというのも本音でしょう。
人間にはその時その時いろんな感情があって、
どれも全部その人なんですよ。
それでいいんですよ、きっと。」
「さすが、次の次元に進んだ人は
いいこと言いますねー」
澪は笑うと、嬉しそうに龍之介を抱きしめた。