表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
非人道的地球防衛軍とゾンビ兵  作者: ウロノロムロ
地球防衛軍 日本支部
6/104

天野正道、着任

目の前にある

高い外壁を眺める青年、

天野正道あまのまさみち


壁のはるか向こうには

いくつかの高層建築物が見える。


本来、国防軍の所属であった彼は、

自ら地球防衛軍日本支部へ転属を願い出、

今日がその着任日であった。


「ここが今日から俺の職場か」


地球防衛軍日本支部の基地は、

中央に位置する高層建築物のまわりに、

各種施設や兵士達の居住区が設けられている。


さらにその周囲には

高い外壁が設置されており、

外部からの侵入者対策が施されていた。


同時に、

軍の最重要機密の漏洩を防ぐため、

内部から外部に出ることも容易ではなく、

いくつもの検査区域が設定されている。


基地内部に兵士達の居住区が置かれているのも

機密漏洩対策の一環であった。


その刑務所のような外観も相まって、

兵士達は基地敷地内のことを

『ムショ』もしくは『カンゴク』と呼び、

壁外の世界を『シャバ』と呼ぶ。


-


「これはまるでちょっとした街じゃないか」


基地敷地内に入ると、

そこはまるで街のようであった。


兵士達は基本的には

この敷地内から外に出ずに生活を送っているため、

敷地内にはコンビニなどの店舗も見られた。


ただ、

どうも見ても普通の街並みと異なるのは、

異様に目をギラギラと血走らせて、

ナイフや銃を手に、殺気を放つ、

柄の悪い兵士達がいたるところに

群がってたむろしていることであった。


兵士達は天野が通ると


「グヘヘ」

「へへへ」


と下卑た低い笑い声を発しながら

鋭い眼光を投げかけてくる。


気にせずに進む天野の目の前を

猛スピードでナイフが横切った。

ナイフは壁に突き刺さる。


「おぉ悪ぃ悪ぃ、

思わず手がすべっちまった」


ナイフを投げた男が

薄ら笑いを浮かべながら言った。


「すまねぇな、へへへっ」


男は新たにナイフ手にし、

その刃を自分の長い舌で舐めまわす、

狂気じみた威嚇行動。

周囲の兵達も薄気味悪い笑いを浮かべている。


-


「話には聞いて来たが、

まさかここまでとは思わなかった」


突如現れた未確認飛行物体の攻撃により

大打撃を受けた日本は、

経済力、生産力といった

国力回復、復興を第一としていた。


そのため生産的な産業に従事する人々を

兵力として使うことは避けなければならない。


新たに地球防衛軍日本支部の司令官となった

進士直道しんしなおみち』は、

国の方針を受け、

兵力増員策として、

反社会的勢力や団体、アウトローに無法者、

社会不適合者、社会的弱者等々の人々を

大量採用して人員を増強してきた。


故に通常の軍事組織であれば

有り得ないようなことが、

ここでは日常茶飯事でもある。


この乱れた風紀も秩序も、

正規軍である国防軍からは

考えられないものであったが、

現状の防衛軍の人員構成を考えれば

当然なのかもしれない。


「郷に入っては郷に従え、と言うしね」


-


天野が気を取り直してさらに進むと、

露出度がやたらに高い女達が

路上に多数群がっている。


『ここは女性兵専用の区画なのだろうか』


天野がそう思っていると、

またしても目の前をナイフが横切った。


「またか」

「早くも2回目だ」


ナイフが飛んできた方を見ると、

なんとも露出度の高い服装の女が

笑みを浮かべている。


「どんな新入りが来るかと思っていたら、

随分可愛い坊やじゃないか」


周囲の女達も一斉に笑い声をあげた。

確かに天野は非常に童顔で

十代の少年に間違われることも

珍しくはなかった、

こう見えて20代半ばであるのだが。


「坊や、

こんな所に一人できちゃだめじゃないか」


女達から次々と冷やかしの声があがった。


「ママのおっぱいが恋しいんじゃないかい?」


「早くママのところにお帰りよ」


「なんだったら

あたしのおっぱい貸してあげてもいいんだよ」


声の主をチラ見すると、

乳房を上下に揺らし、

豊満な胸の谷間を眩く輝かせる女の姿があり、

天野は赤面する。


そんな女達の冷やかしを制する声。


「あんたたち、およしよ」

「そんなにからかうもんじゃないよ」


そう言いながら天野の前に

一人の女が立ち止まった。


透き通るような美しい白い肌、

ショートの黒髪、

藤色の着物を妖艶に着こなすその容姿。


およそこのような場所にはまるで相応しくない、

美しく気品あふれるオーラを纏った

その女の姿に天野は思わず見惚れた。


その女の今までかいだことがないような

甘美な匂いに、脳が痺れたような感覚に陥り、

天野は思考を停止しかけた。


「すまないねぇ」


「あんたがあまりに可愛いもんだから、

みんな気になってそわそわしてるのさ」


「堪忍しておくれよ」


耳元で囁くような女の声もまた甘く切なく、

天野はまるで催眠術でもかけられたかのように

我を見失いそうになった。


「あたしは『チーム色道しきどう』の世話役、藤彩香ふじあやか

彩って呼んでおくれよ。」


「あんた、

聞いた話によれば

新しい幹部さんなんだろ」


「これからひとつよろしくお願いするよ」


女は笑みを浮かべながらそう言った。


「あぁ、新任特務官の天野正道です…だ」


相手の色香に圧倒され

天野はそう返すのが精一杯。


「ほら、あんたたちも

いつまで油を売ってるんだい、

さっさと仕事するんだよ」


女は大きな声で

周囲にたむろしていた女達に向かって

発破をかける。


「姐さんばっかりずるいよ」


女達は口々に不平を言いながら

その場を解散して行った。


そして女は天野に笑みを浮かべながら

その場を去って行く。


『あぁ、

あれが女だけで構成された

最強のお色気諜報機関と噂のチーム色道か』


『世話役とか言う人、

あれはまるで存在自体が

催眠術か幻術のようではないか』


天野は呆けた姿を

女性達の前で曝け出してしまったことを

恥じ入っていた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ