『チーム外道』リーダー・石動不動(3)
屋外トレーニング場で対峙する二人。
それを見つめる一条女史。
「いやー、リングサイド特等席だねー」
『せっかく彩姐さんから学んだんだから、
ここで使わせてもらうかな』
虚実を混ぜて、
真偽の境界線を不明瞭にする。
天野は勝機を見出すことは出来るか。
「いやしかし、大したもんだな。
それだけ筋肉増やしても大丈夫ってことは、
よっぽど骨格がしっかりしてるんだろうな。
普通はデカイと
多少動きが悪くなったりするんだが、
俊敏な動きでスピードもあるし、
体の柔軟性もある、
もともとの身体能力がずば抜けているんだろうな。
唯一小回りが利くという点では
俺に分がありそうだが、
体力、スタミナ、タフさも
おそらくとんでもないだろうし、
持久戦に持ち込むのはまず無理だな。
あんたが行ってたとこ、
何十キロもある重たい装備持って
昼も夜もひたすら走り続けるようなとこ
ばかりじゃねえか。
地獄みたいな戦場ばかりを
好き好んで渡り歩いているってんだから
メンタルも相当なもんだろ。
どう考えてみても
俺に勝ち目はなさそうなんだが、
さてどうするかな。」
長々と喋る天野に
若干苛立ちを見せる石動。
「あんた随分おしゃべりなんだな。」
「いや普段は無口で控えめな性格さ。」
「俺の動揺を誘おうってことかい。」
「まぁ普通にやっても勝てないしね。」
「武器は使わねえのかい?」
「武器ねえー、
どうすっかなー、
相手素手だしねー」
天野は素手のまま構える。
石動のリーチが長いため
用心しながら間合いを図る。
石動は猛然と突っ込んできて、
その丸太のような腕から拳を打ち込んでくる。
『打撃だけか?』
石動は格闘技全般マスターをしているが、
力でねじ伏せる、力で抑え込む、
という意識が強すぎるためか、
パンチのみを繰り返す。
『早くて、重そうなパンチだな、
こんなの一発でももらったらアウトだぜ』
天野はこれを紙一重でかわし続ける。
『このままだといずれ一発もらっちまうな』
天野は相手の動きを見ながらひたすら、
頭の中でシミュレーションを行う。
『殴りに来たところを
腕を掴んで一本背負いか?
いやそのまま潰される可能性が高い。
潰されなくても、
投げのモーションの途中で止まれば、
そのまま背後から脇腹を殴打だ。
不自然な体勢でも
こいつの打撃なら
肋骨は二三本折れるだろう。』
天野の中で相手のバランスを崩す
イメージがまとまらない。
『超低空タックルで転がすか?
いやあの地から根が生えたような足の太さだ。
重心も低いし、
そう簡単にバランスを崩すとは思えない。
タックル受け止められて、
真上から殴打されて、背骨が折れる。』
-
『仕方ない、誘うか』
一か八か天野は誘いを掛ける。
天野は後ろによろけたように見せ石動を誘い、
好機と見て大振りになった
石動の手首を掴み体制を崩す、
次の瞬間石動は地面に転がされていた。
倒れた石動の首筋には
ナイフが突き立てられている。
「動くな!
ちょっとでも動くと刺さるぞ」
「先っぽちょっと刺さってるての」
「武器は使わないんじゃなかったのか」
「使わないとは言ってない、だろ」
「あんたを一回転がしたところで、
大したダメージなんて与えられないからな。
動きを完全に止めて、
あんた自身に負けを認めさせるしかない。」
「あんたを転がすにしても大変だからな。
あんたが俺の手の内を知らない最初の一回しか
俺には勝機はなかったってことだ。
一回どころか最初の三十秒しか
俺の勝機はなかったかな。」
「なるほどな、いい判断だ、的確な作戦だな。」
「もう一点だけ確認だがな。
あんちゃん、このまま刺せる覚悟はあんのかい?」
「もしそうなったら
再生医療を信じるしかないな。
あんたを継戦不可能にするには
相当深く刺すしかないからな。
そこに再生医療に詳しい女史もいるのが救いだが。
再生医療のコストも馬鹿には出来ないらしいし、
このまま降参してもらえると助かるんだがな。」
石動は仕方ないという顔をした。
「わかった。俺の負けだ。」
石動の首筋のナイフをおさめる天野。
-
「天野きゅんやるねー、
筋肉馬鹿倒すとはー」
「勝負には勝ったが、倒してはいないな。
こんな化け物素手で倒せる人間いないんじゃないかな。」
「天野きゅんも
あたしの改造人間候補にしてあげるよー」
「そういうのマジでいいですから」
石動に向かって天野は言う。
「別にあんた達を縛りつける気はないさ。
ただ今度の作戦は
防衛ラインの上げ下げが肝だからな。
その指示を俺が出させてもらうだけだ。」
「どうだい筋肉馬鹿、
これで私の改造手術受ける気になったかー」
「骨格の強化からはじめれば、
さらに筋肉のせることも出来るぞー」
一条女史は傷口に容赦なく塩を塗るタイプだ。
「いや、さすがに今でも筋肉のせ過ぎだ。
自分の筋肉が邪魔で死角が出来てるぞ。」
「天野きゅん、なんてこと言うだよー」
「せっかく筋肉馬鹿を
その気にさせようとしたのにー」
黙っている石動に天野は言葉を続ける。
「あんた経歴みたが、
格闘技全般マスターしてるんだろ?
力任せじゃなくて、技も使ったほうがいい。
技で来られたら、さすがに俺は勝てなかったぜ。」
「人間相手なら
あんたの力に勝てる奴はいないだろうが、
相手は異世界住人だからな。
どんな力自慢がいるかわかったもんじゃないぜ。」
石動はようやく口を開く。
「あんたやっぱりよくしゃべるじゃねえか」
「彩姉さんに教えられてね」
「ちっ、あのクソアマ、ロクなこと教えねえな」