兵力増強会議
兵力増強会議の方も、
この組織のことなので
大概発言内容が問題だらけで、
天野はまたも辟易としていた。
敵である異世界人の捕虜や大型生物を
洗脳または人格移植して自軍戦力にする、
と言うような議題が延々と続くのだ。
「では次に
技術的見地からの兵力増強についてです。」
ここでやっとまともな
『自律式人型機械兵士』、
略称『ロボット兵士』が議題に上がったが、
コスト的にほぼ見送られる流れとなる。
「次に『クローン兵士』ですが、
こちらは再生医療と同様に
博士にご教示いただきました技術で
大幅な飛躍が期待されておりますが、
細胞から人間の生体までに成長させるのに
それなりの時間がかかることなどから、
数千数万単位で増員することを考えますと
現状で有力な手段とは言えません。」
「この件に関しましては、
博士からご提案があるそうです。」
博士は落ちついた声で唐突なことを言う。
「『ゾンビ兵』というのはどうだろうね?」
「これはまた死者を冒涜しまくりな提案ですね。」
天野は思わず突っ込んだ。
「クローン体は
成長までに時間と労力がそれなりにかかるが、
ゾンビなら死者の肉体を
再生医療で修復して再起動するだけで済むからね。
それに『クローン兵士』にしろ『ゾンビ兵』にしろ、
君達はこの先同じ問題に辿り着くことになるだろうしね。」
「この先辿り着く問題?」
進士司令の疑問に博士は説明をはじめる。
「では少し説明させてもらうとしよう。」
「君達に理解してもらいやすいように、
ここでは『高エネルギー生命体』=『魂』と
定義することとしよう。
僕からしてみると
非常に面白いことなんだが、
例えばこの世界の人間が
肉体を損傷して死亡した場合、
再生医療などで肉体の損傷を治して、
体の機能が再び動かすことが出来たら、
その人間は意識を取り戻して蘇生すると
君達は考えているよね。
だが実際は
壊れた機械が修理されれば
再び動き出すのと同じように、
肉体が再び動き出しただけで、
君達人類が言うところの『魂』は
もうそこには存在しないのさ。
君達が言うところの
『魂』まで復元されてはじめて、
人間は本当の意味で蘇生されるわけだ。
僕達のように、君達が言うところの
『魂』をメインとして考えている側からすると、
『魂』の死こそが死であって、
肉体の死は死ではないんだよ。
この世界の人間達は、
肉体が壊れると同時に
『魂』も消失してしまうから
仕方がないのだけれど、
君達の文明では
『魂』の死と肉体の死が
分けて考えられておらず、
僕からするとどうにも
死の定義が曖昧に見えるんだよ。
『魂』の死も、
肉体の死後に『魂』をきちんと形づくり
この世界に定着させることが出来れば
防くことは出来るのだけどね。
君たちが言うところの『魂』を
自らの本体としてきちんと捉えて、
ちゃんと定着させていれば、
むしろ肉体なんてのは端末のようなものだからね、
いくらでも乗り換えられるのさ。」
進士司令は博士の言葉に頷く。
「『クローン兵士』『ゾンビ兵』どちらにしても、
君達は『魂』の問題に直面することになる訳だ。」
天野は頭に浮かんだことを口にする。
「『魂』が肉体を乗り換えるって
なんだか輪廻転生みたいですね。」
「それはいい線いっているね。
実際に君達のご先祖様も
結構いい線いっていたんだよ。
ただ救済を求める方向に行ってしまったからね。
『魂』と精神文明を
科学的に研究する方法が成功していたら、
この世界の歴史は変わっていたかもしれないね。」
もう一度返す天野。
「しかし、
魂をきちんと形づくり
この世界に定着させるという表現は、
まるで幽霊のようですね。
この世に未練を残した霊が
この現世にとどまり続けるという。
以前なら幽霊を信じている人は
いなかったでしょうが。」
「そうそう、
私が常々言っている
『君達が物質文明に執着し、依存し続けている』
というのはそういうことだよ。
物質至上主義と言ってもいいかもしれないね。
この世界の昔の人間は、
今ほど物質文明の恩恵を
受けていなかったからね、
物質以外のものにも目を向け、
感じ取る能力が残っていたんだよ。
しかし近代化されるにつき
物質文明に対する依存度が
飛躍的に高くなっていき、
君達はその物質以外のものを
感じる力を失ってしまったのさ。」
技術スタッフが疑問を投げる。
「じゃぁ、なにか?
死んだ人間の機能を再生医療で復元したゾンビに、
幽霊を憑依させて兵士にするのが、
最も効率的な兵力増員ということになるのか?
ゾンビに地縛霊を憑依させたのが
最良の兵士ってことになるのか?」
「でもちょっとあたしのイメージじゃないなー、
やっぱり改造人間だなー」
「あ、でもゴーストゾンビソルジャーとか
名づけたらそれっぽいかもー」
一条女史は相変わらずブレずに
妄想世界の住人と化している。
「仮に、魂を形づくって
この世に定着させたのが幽霊だとして、
幽霊ってのは、この世に強い未練を残して
死んだ人間とかが化けて出てくるものだろう?
例えば、恨みとか怨念とか、
負の感情のイメージだよな。
人類の次のステージへの可能性かもしれない、
魂の現世への定着ってのが、
恨みとか怨念とかの負の感情でのみ実現出来るって、
もしかして人類終わってないか?」
技術スタッフの問いに、天野が応える。
「魂の具現化?残留思念?には強い感情が必要で、
わかりやすく負の感情の際に
出やすいと思われてきただけだろう、おそらく。
というかそう思いたいね。」