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博士と蘭の過去

博士は、この世界にはじめて来た時、

現在の進士司令官に最初に接触し、

コミュニケーションを取るために、

進士の個体データを

すべてスキャンして読み取った。


肉体の物質的データのみならず

精神的なデータも、そのすべてを。


それではじめて

この世界の三次元人である人間と、

言葉を介して

コミュニケーションを取れるようになった。

人間と同じ言語を話すことによって。



それから博士と

常に一緒に居続けたのが

華月蘭教授だった。


当時は今と違い黒髪のおかっぱで、

眼鏡をかけた奥手で

地味な感じがする女性であったが、

天才的な頭脳の持ち主で、

若くして高次元研究の第一人者である

故人に師事していたため、

その研究のすべてを引き継いでいた。


博士について調査が必要となった

地球防衛軍日本支部に、

当時の進士直道が招集した。



当時の博士はまだ肉体を持っておらず、

プリズム色に光輝き、

周囲との境界も曖昧な

エネルギー集合体のような姿であった。


防衛軍は博士のことを

『高エネルギー生命体』と呼んでいた。


防衛軍は当初、

博士の拘束・監禁を試みたが、

超空間につながるゲートを出現させ、

自由に姿を消したり

現わしたりすることが出来る博士には、

拘束・監禁が全く不可能であることを理解する。


蘭教授は毎晩泊まり込みで

ひたすら博士と

コミュニケーションをはかり続けた。


当初博士は

全く人間的な感情を持っておらず、

まるで機械のような存在であった。


「おはよう。今日はいい天気ね。」


蘭教授がそう言うと、博士は

現在の温度、湿度、大気中の成分などを答えた。


「今日の気分はどう?」


「気分?

気分というのは私には理解出来ない。

どういうものなのか?」


一事が万事こうした状況であった。


それでも蘭教授はひたすら根気よく

博士に話し掛け続けた。

それでも人格と自我があることは

間違いがなかった。


-


そして蘭教授は

この世界と人間がどういうものであるかを

教えることにした。


博士が最も早く

この世界のことを知るきっかけになったのは、

やはりインターネットであった。


蘭教授がインターネットのことを教えると、

博士はネットの回線に自ら入り込み、

この世界のすべてのサーバーに

置かれているデータをインプットしていった。

それもわずか数分の間にである。


インプットはわずか数分で済んで、

そのデータをすべて分類し、

解析・分析処理した。


そこまでは比較的順調ではあった。


しかしそこから理解し、

解釈するには博士と言えども

それなりの時間を要した。


博士が理解と解釈について苦戦したのは、

博士の世界とこの世界に

根本的な違いがあったからだ。


博士の世界では、

正解も真理もほぼ一つしかなかった。

しかしむしろこの世界では

正解がないに等しかった。


この世界では一つの事柄に関して、

人々が様々な意見を持っている。


それはどれも正解のようでもあり、

間違えているようでもある。


人の立場や環境、時代などにより

それもさらに全く異なるものになっていく。


博士はこれをどのように理解し、

解釈すべきかに時間を要した。


しかしこの差異こそ

博士がこの世界に

ただならぬ興味を持つきっかけにもなった。


「この世界は不完全だからなのよ。

私はただ一つの真理を求めたいのだけれど、

不完全だからこそ

この世界を愛する人もいるわ。」


蘭教授は博士が突き当たった問題に関して、

そう付け加えた。


それはもしかしたら

博士に大きな影響を与えた

発言かもしれない。


後々、博士は不完全であるが故に

この世界を愛することになるからだ。


こうして博士はこの世界の

文化、文明、歴史、言語等々、

この世界を構成しているものを

理解して行った。






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