最終段 どうにかなるさ
俺たちは、森を出たその足で領主の館へ向かった。
当然門番に止められたが、前日の騒動の当事者であることを話し、フレイスの冒険者証を見せることで通してもらった。
館は一見地味ながら住みやすさを重視した造りになっているようで、堅実な高級感のある家具が備えられていた。
応接間に通されしばらく待っていると、恰幅の良い中年男性が入ってきた。
「さて、一等冒険者が昨夜の騒動の真相を教えてくれると聞いたが。
説明してくれるかね?」
口ぶりと服装からして、この男が領主だろう。
「その前に、人払いをお願いします。」
「人払い? 残念ながらそれはできない。私はまだ君たちを信用していない。」
「これを……」
フレイスは書状の他の部分を隠しながら、紋章の部分だけを見せた。
「……む。
なるほど、これは確かに……
わかった、護衛は必要ない。給仕の者も下がっていろ。」
護衛の武装した男はわずかに困惑した様子だったが、主人にそう言われた以上、下がるしかない。
人気がなくなった部屋の中で、テーブルをはさみ俺たち3人と領主だけが向かい合う。
「王国諜報機関の連中は『あるもの』を探していて、昨夜の騒ぎはその活動の一部。
ワタシが偶然その目的のブツの在処を知っていたため、襲撃を受けたってのが事の真相です。」
「この書状はその諜報機関の者が持っていた、というわけか…… 中を見させてもらうぞ。」
「どうぞ。そのために持ってきたものです。」
書状を開き、内容に目を通していくうちに領主の顔色が変わっていく。
「……君たちはこの書状をいくらで私に売ろうというのかね?」
「流石話がお早い。
だけど、ワタシが欲しいのは金じゃないんですよ。」
領主の表情が不安げな色を浮かべる。
どんな難題を押し付けられるか、と思っているのだろう。
「私にも、できる事とできない事があるぞ。」
「ご心配なく。ワタシが欲しいのは評価と評判だけです。」
「氷炎魔人…… 噂通り、名声の鬼か。」
「ご存知でしたか。
ワタシが求めるのは、今回の件の詳細は伏せたままでかまわないんで、その上でワタシたちが尽力したことを公式のものにすることです。」
「私は冒険者の事情には詳しくないが…… できるのか? そんなことが。
人の口には戸が立てられないと言うだろう。どこかから漏れるんじゃないか?」
「できますよ。
具体的には、『領主サマから昨夜の騒動の調査依頼を内密に受けて、ワタシたちが解決した』という形にして欲しいんです。」
「それだけでいいのか?」
「実際に事が起こったのは、誰も見てない森の中ですから……
ギルドを通してワタシ当てに個人依頼を出し、明日か明後日にでも達成報告と報酬を振り込んでいただければ、それで終わりです。
あ、先ほど金は要らないようなことを言いましたが、報酬として適当な額は払っていただくことになりますね。」
これで俺たちは、『領主サマから直接お声がかかり依頼を任されるレベル』とギルドに認識させることができるわけか。
昇格への功績もこれで増すことになるだろう。
依頼の内容を伏せておくことで逆に勝手な噂も立ち、冒険者たちの口にも上るだろう。
「かまわんさ、この書状の価値に比べれば…… 金貨100リョーほどで良いかね?」
「十分です。」
●●●
2日後。
約束通り、ギルドを通して報酬を受け取った俺たちは街をぶらぶらと歩いていた。
「思いの外簡単に事が進んだな。」
「この手の情報は鮮度が命でございますから。
手前どもへの報酬なども含め、領主様も手早く片付けたい話だったのでございましょう。」
領主はこの件に関して非常に高い評価を付けてくれたらしく、俺の一等への昇格も近いらしい。
それだけあの書状の重要度が高かったということだろう。
「しっかし、これからどうしようかねえ。」
フレイスがぽつりとこぼした。
「どうしようって…… 何のことだ? フレイス。」
「今回のことで評価はだいぶ上がったけど……
ヤエナは探索都市って言うだけあって、ワタシたち以外にも腕利きは大勢いるだろう?」
「オズバルトみたいな?」
「そうそう。そういう連中がいると、厄介事があっても、ワタシに依頼が来るとは限らないだろうさ。」
「まあ、確率的にな。」
「それに仲間を増やしたいとも思ってるんだけどさ。この辺りの目ぼしい奴は、とっくにどこかのパーティに入ってるだろう?」
「確かに…… 手前にしろ山上様にしろ、本来ならここにいないはずの人間でございますから。」
「だからいっそのこと、どこか別の所に拠点を変えようかなって。最近考えてるのさ。」
実際、この街の冒険者の需要は大きいが、供給も大きい。
しばらくは食うに困らないだけの金もある。
「そうだな。俺もヤエナの近辺しか知らないし……他所を見てみるのもいいかもな。」
俺がそう言うと、フレイスもカルヴァも顔を見合わせ、笑った。
「南海沖の無人島に、大規模な遺跡群が見つかったと聞きます。」
「まずは一度、帝都に連れていってやろうか?」
「北方の貴族が反乱を計画してるとかいう情報もございます。」
「霊山に仙人がいて修行をつけてくれるって噂もあるよ。」
どうやらフレイスだけでなく、カルヴァも他所の情報を集めていたようだ。
どこもなかなか興味深い話ばかりだ。
だから、俺はこう答えた。
「どこへ行ったって、見たこともないもの、知らない魔物、美味い食い物も、名を上げるチャンスだってあるだろう?」
「左様でございますな。」
「丁度いいことに、俺たちは揃って何のしがらみもない人間だ。
どうせなら片っ端から回ってみよう。」
「……ああ、そうだね。そうしよう!」
せっかく未知の異世界に来たんだから、思う存分冒険して、楽しまなければ損だ。
フレイスと、カルヴァと、忍者。
どこへ行ったって、どうにでもなるだろうさ。
鬼面忍者 ~異世界冒険忍法帳~ 完




