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鬼面忍者 ~異世界冒険忍法帳~  作者: リナシ
二、影法師の巻
23/36

二十三段目 洞窟大作戦



 数日間、ほとぼりがさめるまで森から出ずに過ごした後のこと。久しぶりにギルドへ顔を出すことにした。

 俺を見る職員の目は冷たいが、罰則はないそうだ。

 決闘で周囲に被害が出ることは珍しくないため、観戦は自己責任ということになっているらしい。

 とはいえ、あれほどためらいなく積極的に観客を巻き添えにする例は珍しいそうだが。


「で、ギルドからの要請だって?」

「ああ。これを渡された。」


 窓口で受け取った紙をフレイスに手渡した。


「ふんふん……」

「聞いた話だと、俺たちが報告した光食虫ランプイーターの大群の駆除依頼だってよ。」

「ああ、そう書いてあるね。しかもワタシたちだけじゃない。」

「と、申しますと?」


 鍛錬を終えたカルヴァが汗をぬぐいながら近づいてきた。

 カルヴァは相当に才能があるようで、最近はどんどん短い時間で鍛錬をこなせるようになってきている。


「なにしろ規模が規模だからね…… 探索都市ヤエナ中のめぼしい冒険者に片っ端から要請を出してるみたいだね。」

「へえ…… 随分景気のいい話だな。」

「それだけ大事おおごと、ということでございましょう。」


 それだけ大勢の冒険者に声をかけてるなら、ギルドから支払う報酬がすごい額になりそうだ。


「まあ、放っておくと街ごと食いつくされかねないからね。」

「……あの蟻、そんなにやばいのか?」

「知っての通り肉食だし、掘る巣穴もデカいからねえ。

 とはいえこれは、ワタシたちにとってチャンスでもある。

 ここで大活躍すれば一層名が売れ、場合によってはヤエナ(ここら)の地方史程度になら名が残るかもしれない。」

「ほんの一部だが、フレイスの夢が叶うかも、ってわけか。」


 と、なればこの要請に対する答えは一つだ。


「作戦開始は3日後……

 さて、どんなヤツらが集まるかね?」



   ●●●



 そして3日後。

 あの時の地下遺跡の入り口前には、100人ほどの冒険者が集まっていた。


「随分と大勢集めたもんだな。」

「一等冒険者も何人か来ているようでございますな。」

「知った顔も幾人か見えるね。」


 この前戦ったレーベルも来ているし、バソールトの巨体は探すまでもない。

 見まわしていると、人だかりの中から一人の男がこちらへ歩いてきた。


「しばらくぶりですね、"氷炎魔人"。」


 そう言って近づいてきたのは、25~30歳くらいの男だ。

 よく磨かれた銀色の鎧に、腰には使い込まれた剣。多少古いながらも手入れはきちんとされているマントを羽織っている。

 わずかに覗く鍛え抜かれた筋肉、自信に満ちた堂々たる立ち姿。間違いなく凄腕だ。


「アンタも来ていたのか……いや、アンタなら来るに決まってるか。」


 フレイスは微妙に苦々しい表情を見せた。


「えーと、フレイス、この人は?」

「ご存知ないのですか!? ……いえ、そういえば山上様はこちらに来て日が浅いのでしたね。」


 何か因縁があるのだろうかと思い、聞いたが、反応したのはカルヴァの方だった。


「有名な人なのか?」

「これは失礼……初対面なのだから、私から名乗るべきでしたね。」


 そう言って、鎧の男は折り目正しく礼をした。


「私はオズバルト・オルバイス、一等冒険者です。」

「これはご丁寧に。二等冒険者、山上達蔵です。」

「ああ、やはり貴方が最近話題の…… そちらのお嬢さんは?」

「いえ、手前は名乗るほどの者ではございませんので、気にしないでいただいて結構でございます。」


 何だろうか。カルヴァが妙にかしこまってるというか、畏縮してる。

 疑問に思う俺に答えをくれたのはフレイスだった。


「コイツはね、いつかワタシが追い落とさなきゃいけないヤツさ。」

「それって……」

「コイツの渾名は"勇猛男ブレイブマン"。

 探索都市ヤエナで一番の冒険者を挙げろ、と言われれば、誰もがコイツを挙げるだろうさ。……今はね。」

「過分な評価だと思ってるんですがね、私は。」


 フレイスの言い分にさらりと謙遜するオズバルト。

 大人物だいじんぶつなのは確かなようだ。


「こんなヤツだから、ワタシもなかなか決闘を吹っ掛けられなくってね。

 直接ぶちのめせばワタシが一番だと声を大にして言えるんだけどね。」

「私は決闘はあまり好きではないんですよ。」


 狂犬のような攻撃性のフレイスに対し、余裕のある柔和さを持つオズバルト。

 なるほど、フレイスとの相性はさぞかし悪いことだろう。



   ●●●



『ようこそお集りくださいました、冒険者の皆さん!

 本件について、説明を始めます!』


 オズバルトと別れた後、ほどなくしてメガホン越しの声が響きだした。

 聞き覚えがあるギルド職員の声だ。

 ざわついていた冒険者たちも、聞き漏らすまいと水を打ったように静まりかえる。


『最初に報酬について説明いたします!

 本作戦に参加した冒険者は全員、最低でも銀貨2シュの報酬が約束されます!』


 約2万円の保証か。突っ立っているだけでも貰えると思えば決して悪くない。


『さらに、討伐したランプイーターの数に応じて追加報酬!

 作戦上危険なポジションに参加した冒険者にも追加報酬が支給されます!

 ポジション報酬は最低でも金貨3リョー! 最大で20リョーが支給されます!』


 ポジションごとに一人につき約30万円~200万円。

 3人がかりで猛熊サベージベア駆除をやったときの報酬が150万円だったことを考えると、相当な危険度だということがわかる。

 フレイスを見れば、報酬の額を聞いてことの大きさに目を爛々と輝かせている。


『それを踏まえて作戦の説明をいたします!

 とはいえ、皆様は兵士ではなくあくまで冒険者。場所が狭い地下道ということもあり、緻密な連携は不可能と思われます。

 そこで、最低限のポジション分けをする以外は自由に戦っていただくことになります。』


 それに関しては予想通り。

 戦術的な連携とは本来高度な訓練を必要とするものだ。寄せ集めの戦力にに期待しても足の引っ張り合いになるのがオチだろう。


『突入する際のポジションですが、道の狭さも考慮して単純なものとします。

 すなわち『先鋒』『二番手』『後詰』の三段。

 先鋒は当然危険度が高いため10リョーの追加報酬、二番手も確実に戦闘していただくことになるため3リョーの追加報酬。

 後詰に関しては、役割は退路の確保ですが、こちらは激戦になる可能性が低いため追加報酬は無しとなります。』


 戦闘力に自信のない奴は後詰、やる気満々な奴は先鋒、といった分担か。

 だが、斬りこみ役の先鋒でも100万円ということは、倍のポジションでは何をさせられるのだろうか。


『最後に、最も危険な役割である、『斥候』について説明します。

 ランプイーターは明かりが一切ない場所では捕食活動を行いません。そこを利用して、探索・隠密に優れた者が無灯火で潜入し、内部の様子を調べます。

 当然、困難な役割ですので報酬は金貨20リョー!!

 なお、一定時間が経過しても帰還しない場合は攻撃を開始し、生存していた場合はその過程で回収、という形になります。」


 報酬の高額さと、あまりの危険さに周囲の冒険者たちがざわめき出す。

 耳をすましてみれば、


「おい、確かお前は猟兵レンジャーだったよな?

 夜目は効くはずだろ?」

「無茶いうなよ! いくらおとなしいからって、魔物の巣、それもランプイーターの巣に飛び込むなんて……」

「第一、星明りすらない完全な暗闇じゃあ、いくら夜目が効くっていったって何も見えねえだろ!」


 などという声。

 斥候の重要性は理解しているが、こんな無茶が可能か?という雰囲気だが……


「やはり、日食眼がある手前が志願すべきでございましょうか?」


 暗所の方が逆によく見えるカルヴァには何の障害もない、うってつけの役目だ。

 だが、流石に一人で行かせるわけにもいかない。


「俺も行こう。カルヴァほどではないが、音の反射を聞きわけて暗闇でも探索できる。

 フレイスは……」

「まあ、先鋒だね。

 そもそもワタシ自身が光を出すし、まったく向いていない。」


 志願を出してからしばらく待ったが、結局、俺とカルヴァ以外の志願者はいなかったようで、2人で斥候役をつとめることになった。



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