二十段目 好きとか嫌いとか
基本、俺たちは生活に必要なものは森や遺跡で調達している。だが、街でしか手に入らないものも多い。
穀物や塩といった食品。布や糸、服など衣類。鍛冶による金属製品。
商店が立ち並ぶこの通りでは露店も多い。
「あ、お面の屋台だ!
カルヴァ、ちょっと見ていってもいいか?」
「別に手前はかまいませんが……お好きなので?」
「そりゃあ、好きじゃなきゃわざわざ鬼の面かぶったりなんかしないだろう?」
「……まあ、それもそうでございますね。」
並んでいるお面を見れば、なかなかにバラエティ豊かなラインナップだ。
和風なようでいて微妙に色彩センスが異なる狐の面。
アフリカっぽい雰囲気の大ぶりなお面。
デフォルメされた動物を模したお面。
値段は大体銅貨20~40モン、つまり200~400円程度。
コレクションして置いておく部屋を持っていない現状、買っても持っておくことができないのが残念でならない。
「……よほど、お好きなんですね。」
「おっと、顔に出ていたか?」
いかんいかん、顔が緩んで地が出てしまったら見てる人の心臓に悪い。
「いえ、雰囲気というか、どことなく常に張り詰めたような感じがしていたのが、なくなったと申しましょうか……」
思い返せば、日本からレファンテに来てから、常に何かに気を張っていたかもしれない。
森や遺跡の中は当然ながら、街の中も治安が悪いため気が抜けない。
「心底好きなものがあるってのは、やっぱり大事なことなのかもなぁ。」
こうして眺めているだけでも、活力が湧いてくるのを実感できる。
「そういえば、カルヴァは何か好きなものとかあるのか?」
弟子に取った以上、当分は一緒に活動するのだ。
好き嫌いを知っておいて損はないだろう。
「手前の好きなもの…… そうですな、笛でございましょうか。」
「笛?」
そういえば、初めて俺のところに訪れた時も笛を吹いていたな。
「はい、下手の横好きと言った程度でございますが。
以前も申しましたが、手前の生家は商いをしておりまして。
何かの折に芸事に触れることもございましたが……
ですが、なにしろ目がこの有様でございますので、芝居や絵の類いは楽しめません。
ですが、音楽ならば目とは関係ありませんので。聴くのも吹くのも好きでございます。」
なるほど、音楽か……
「あの時一度聞いたきりだが、良い曲だったと思う。
今度、また聴かせてくれないか?」
「左様でございますか? ではいずれ、機会があればまたお聴きいただきましょう。」
●●●
一通りの買い物を済ませ、待ち合わせしていたフレイスと合流するために冒険者ギルドに向かった。
ギルドの戸を開け足を踏み入れた時、談笑する冒険者の声が聞こえた。
「聞いただろ? "鬼面忍者"のこと。」
他の冒険者が俺の噂を話しているようだ。
少し恥ずかしい気もするが、正直自分の評価は気になる。
噂になっているとはバソールトやカルヴァから聞いていたが、直接耳にするのは初めてだ。
折角なので気配を消し、カルヴァの陰に隠れて聞き耳を立ててみる。
カルヴァは不審そうに俺を見るが、口の前に指を一本立てて静かにしてもらう。
「ああ、2人でヤバい盗賊団を潰したって話の片割れだろ?
冒険者になってまだ一ヶ月も経ってないのに二等になったとかいう。」
おおむね正しく話が伝わっているようだ。カルヴァの言っていた容貌についての噂はわからないが。
「バカだな、まったくの無名だったやつがいきなり大活躍とか、そんなことあるわけないだろ?
大方、金ばらまいてマッチポンプで評判を買ったか、いいとこ"氷炎魔人"にくっついて戦ってるフリだけしたか、そんなもんだろ。」
聞き捨てならない……と言いたいところだが、俺はフレイスと違ってそこまで名を上げることに興味はない。
好き勝手言われて腹立たしくはあるが、どうせすぐに消える噂だ。放っておくとしよう……
そう考えていると、カルヴァが俺のわき腹をつついた。
「……どうした?」
「いえ、あそこの隅の席に座ってるの……フレイス様ではございませんか?」
言われて目を向けると、確かにフレイスだ。
マントを羽織っているため、フレイスの一番目立つ特徴である隻腕が隠れている。
そのため、あそこで勝手な噂話に興じている冒険者たちはフレイスが話を聞いていることに気付いていないようだ。
……フレイスの目つきが殺意に満ち溢れていることにも。
おそらく、あれだけキレているのは、俺の悪評はフレイスの悪評にもつながりかねないから。
フレイスが直接あの冒険者たちに殴りかかっていかないのは、自分の悪評でもないのにフレイスがしゃしゃり出るのは筋違いだから。
そして、フレイスは俺たちがこの場にいることに気付いた。
いつも以上に凶悪な目つきの隻眼が、視線で俺に語りかけてくる。
『奴らぶちのめすのはアンタの仕事だ。今すぐ喧嘩を買え』と。




