十九段目 欲しいものは欲しいと言う
カルヴァを弟子にとって10日ほど経っただろうか。
俺はカルヴァ、フレイスと3人で探索都市の商店通りを歩いていた。
カルヴァと手をつないで。
「手間をお掛けしてしまい、相すみません、山上様。」
「いや、これくらいなら手間っていうほどでもない。」
カルヴァは日中は目が見えづらい。なので、はぐれたり、ぶつかったりしないよう、手をつなぐことを提案したのだ。
フレイスは「ワタシは隻腕なんだから手がふさがったら不便でしょう。」と言うので、結果的に俺が手を引いている。
炎の腕は見た目に物騒なので、街中ではあまり出さないようにしているらしい。
「えーと……ここら辺だったかな?」
フレイスが立ち止まり、店の並びから何かを探しているようだ。
「探し物か?」
「ああ。ワタシは少し野暮用があるから、買い出しは2人に頼めるかい?」
「まあ、俺もちょっとはこの街にも慣れてきたからな。どうにかなるだろう。」
「じゃ、頼むね。」
そう言ってフレイスはさっさと横丁に入っていってしまった。
「大丈夫でしょうか?」
「裏通りの治安が悪いといっても、フレイスなら暴漢の10や20、一捻りだろう。」
罠も使ったとはいえ格上の魔導士30人を伸した女だ。市街地での乱闘ならかなう者はそうそういまい。
「いえ、手前どもが……その、手前は目が不自由ですし、山上様も字が読めないのでは……?」
「その心配も無用だ。
フレイスはなかなかスパルタ教育だからな。簡単な字ならわかるようになった。」
「……すぱるた?」
「あ、そうか。こっちにスパルタがあるわけないよな。
えーと……日本の言い回しで、『無茶苦茶厳しい教育』みたいな意味だ。」
「なるほど。
それは確かに……フレイス様『も』すぱるたでございますな。」
「……まあ、俺も優しい方じゃないとは自覚してるがな。」
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「あつ! 貴方はあの時の……!」
「うん?」
呼ばれた気がして振り返ると、見覚えのある女がいた。
白を基調としたフリル付きの衣装に、サラサラの金髪。そっくりの顔をした双子の付き人。
「オルフィっていったっけか。」
そう、以前宿屋に泊まったときに夜襲を仕掛けてきた女だ。
街中で即座に抜刀するわけにはいかないが、いつでも対応できるよう、カルヴァをかばいながら構えを取る。
「そう構えなくても、見境なく襲ったりはしませんわ。」
そう言われても信用できないが……構えたままというのも不躾なので、一応両手を下ろす。
しかし、いつでも反応できるように警戒は解かない。
「意外と理性的だな……」
「山上様、こちらの方はどなたでございましょうか?」
「オルフィっていう、フレイスのアカデミー時代の同期だそうだ。
昔っからフレイスを狙って襲撃を繰り返しているらしい。」
「それはまた……」
カルヴァは絶句している。当然だろう。
「カルヴァは狙うなよ。目が不自由なんだ。」
半分嘘だが、同情を引いて向こうの手が鈍るなら十分だ。
オルフィがまた夜襲を仕掛けてくるなら、むしろカルヴァの方が有利なくらいなのだが、わざわざ教えてやる義理もない。
「失礼な。そもそも私はフレイスさん以外を積極的に攻撃するつもりもありませんのに。」
「あの私刑を提案したのは俺なのにか?」
そう、フレイスの言葉が本当なら、今もオルフィの腹には『負犬』の字が書いてあるはずだ。
「……その点に関しては正直はらわたが煮えくり返っておりますが、その程度で貴方を抹殺しようとは思いませんわ。」
「……そんなに心が広いのに、フレイスは未だに許せないのか?」
以前から疑問だった。
何度も返り討ちに合ってる割に襲撃の仕方が素直すぎないか、と。
普通ならもっと多人数とか、事前の準備とか、確実にフレイスを仕留められるよう策を練るのではないか、と思っていた。
「あの事件について、今更フレイスさんを断罪しようなどというつもりはありませんわ。」
やはり、恨みではなかったか。
「では、何故襲撃を繰り返す?」
「フレイスさんが唯一、私に勝利した人だからですわ。」
「プライドの問題か?」
「それもありますが、何よりも私はフレイスさんが欲しいのです。
これでも私、このシュテア帝国随一の魔導士育成機関である魔導アカデミーを主席卒業しておりますの。魔導戦の実技も含めて。
その私が何度挑んでも一度も勝てない魔導士、それがフレイスさん。この意味がおわかりになって?」
「フレイスの首に縄をつけて、子飼いにしたい、と。」
「……言い方はともかく、フレイスさんを家臣に迎え入れたいということですわ。」
なんとも、剛毅と言うか、馬鹿と言うべきか……
「あの名声欲と功名心が服着て歩いてるような女が、人の下に納まるタマか?」
「だから私も数を頼みに襲うような真似はしていませんわ。
一対一でフレイスさんを下してこそ、あの人も納得するのではなくて?」
「何度も戦って、あんたが無事でいられる保証もないだろうに。」
「その時は、諦めますわ。たとえ私が死んでも、フレイスさんを追わないよう実家には約束させてますもの。」
少なくとも、度胸は据わっているようだ。
「それではごきげんよう。次こそはフレイスさんを打ち倒してみせますわ。」
優雅な仕草でお辞儀をすると、オルフィは去って行った。
付き人達も無言で頭を下げ、オルフィについて行く。
「山上様、あの方は……」
「言ってやるな、カルヴァ。」
ただの私怨でフレイスを襲い続けていたわけでないことはわかった。
貴族らしい高いプライドと、それゆえの高潔さも感じられた。
人物を見る目に自信があるわけではないが、それでもただ者でないことも感じられた。
「ですが、八百屋の前で恰好つけられても……」
「……言ってやるな。」
考えてみれば、長年フレイスを追ってきているのだ。
いくらお嬢様でも、旅暮らしで身の回り全部任せられるほどの人数を連れてるわけがない。




