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鬼面忍者 ~異世界冒険忍法帳~  作者: リナシ
一、氷炎魔人の巻
14/36

十四段目 胸を叩いて冒険をしよう



「おめでとうございます!!

 今回の依頼クエスト達成をもちまして、フレイス・ジャグアーロさん、一等冒険者に昇格です!!!

 並びに、山上達蔵さんも、二等冒険者に昇格しました!!」


 盗賊団の処理で一昼夜を経た後のこと。

 俺たちはギルドで、いつもの受付係の職員から昇格の通知を受け取った。


「やったね、達蔵!」


 フレイスが抱きつくように肩を組んできた。


「ああ。やったな、フレイス。」


 こんなに無邪気に喜んでいるフレイスを見るのは初めてだ。

 とはいえそれも当然だろう。

 冒険者の街であるこの探索都市ヤエナですら、一等冒険者は現在20人以下という、まさに一流の領域。

 古今無双の勇名を目標としているフレイスにとっては、大きなステップアップである。


「いやー、すばらしい功績ですよ!

 生き残りの盗賊を尋問して得られた情報ですが、首領・ザガルは一等冒険者を撃退したとき、配下に加勢はさせずに一対一で戦い、その上自身はほぼ無傷で勝利しています!!」

「へえ、やっぱり……どおりで腕が立つわけだ。」

「副首領……こちらは配下も名前すら知らないようですが、二等冒険者5人を相手に時間稼ぎに徹し、しのぎ切ったということです!

 どうやら、他の盗賊たちは戦力として扱われてなかったようですね。ほぼ雑用です。」


 確かに、あの分身は対多数向きだ。

 しかしそれを鑑みても、あの2人だけで熟練の冒険者6人を相手に撃退するレベルだ。

 俺とフレイス2人だけで勝てたのは、俺たちの技能が対人戦闘に特化していたからだろう。


「それだけの腕前をもつ盗賊を2人で討伐した、という功績・実力をかんがみて、お二人の昇格が決まったわけです!」

「ちなみに、昇格するとどんなメリットがあるんだ?」


 今更だが、俺としてはそこから聞かねばならない。


「基本は以前言った通り、遺跡や依頼でより難易度・報酬が高いものに挑めます。

 とはいえ、達蔵さんの場合は等級が上のフレイスさんのパーティに所属しているから、あまり関係ありませんね。

 後は『信用』ですね。」

「信用?」

「多分、三等冒険者に部屋を貸してくれる借家はないと思います。借金も無理ですね。

 三等冒険者は銅貨500モンあれば誰でも簡単になれますから。

 ですが、二等に昇格するためには、普通それなりのキャリアが必要ですので……」

「その実力なり年期なりの分が信用になる、と。」

「もちろん、冒険者自体危険な仕事ですで、あくまで可能って程度ですが。

 長期滞在する部屋を取れる、高額な物を買うために借金ができる、っていうのは強みですよ。」


 なるほど。普通の冒険者なら確かにその差は重要だ。

 もっとも、フレイスと一緒に野外生活してる分にはあまり関係ないが。


「一等冒険者ともなれば、ちょっとした豪商がスポンサーになることもあるくらいです。

 そうなれば資金の心配はそうそうしなくて済みますよ!」


 日本、というか地球でも、探検家業にスポンサーは付き物と聞く。異世界こちらでもそういった制度はあるものなのか。

 そんなことを考えながらふと横を見れば、フレイスがさっきまでとはうって変わって、眉間にしわを寄せている。


「どうした、何かまずいことでもあるのか?」

「あぁ、いや、ちょっと考え事。気にしなくていいさ。」


 ……言われてみれば、この先を見据えるならいろいろと考えるべき時かもしれない。

 高い戦闘能力と、おそらく優れた知識、サバイバル能力を持つフレイスは一等冒険者になった。

 忍術でそれなりに戦えるものの、魔導のような不思議な力は使えない俺は二等冒険者になったわけだ。

 バソールトをはじめ、街で見かける冒険者を基準とした見立てでは、ここまではおそらく順当に実力通りだ。

 しかし、ここから上を目指すとなると、どうすればよいのか俺には見当もつかない。


「今はまず、喜ぶべき時さ。」


 そう言って笑うフレイスの顔には、何か複雑な色を感じた。



   ●●●



「よう、お二人さん! あの盗賊団をやったんだってな!」


 昇格に関連した手続きを終えた俺たちに、規格外の巨漢、バソールトが声をかけてきた。


「よく知ってるな。」

「この稼業、噂が届くのが早いんだよ。新たな一等冒険者の登場なんて、酒の肴にぴったりの噂だからな。

 謎の新人、"鬼面忍者(きめんにんじゃ)"の噂もな!」

「"鬼面忍者"?」

「お前についた渾名だよ、達蔵。

 冒険者登録から2週間も経たずに二等に昇格なんて、異例中の異例だぜ?」

「そういうものだったのか……」

「そうだよ、達蔵。ワタシだって少し妬ましいくらいさ。」


 フレイスまでもがそう言うほどなら、相当なことなのだろう。

 俺にもついに渾名が……悪くない気分だ。


「それと、礼を言いに来たんだ。

 ありがとよ、あの盗賊団を退治してくれて。」

「どういうことだ?」

「一等を含むパーティが返り討ちに遭ったって聞いただろ?

 あれ、ウチのパーティなんだ。おかげで今もリーダーは療養生活中だ。」

「そうだったのか……お前もけっこう苦労してるな。」


 以前一人でクエストを探していたものそれが原因だったわけか。


「一等向けの遺跡やクエストは難易度、危険度が跳ね上がる。

 特等冒険者が伝説同然の存在な以上、『これ人間に可能な仕事か?』ってくらいの無茶も一等に回されてくるからな。

 今まで以上に仕事は慎重に選ばないと、大怪我じゃ済まなくなるぜ。」


 そう言ってバソールトは受付側へ向かった。

 ……なるほど、ここから先は危険度が青天井ってわけか。

 今後は状況に応じて逃走の手段、遁法のことも考えた方がいいかもしれない。



   ●●●



 その日の晩、いつもの森の中。

 フレイスはスキットルを傾け、蒸留酒をあおっていた。

 名目としては一等昇格の祝い酒だが、その表情は笑っているようでいて、何か胸につっかえてているようだった。


「……どうした、フレイス。

 念願に一歩近づいたってのに、そんな顔して。」

「え? ワタシ、変な顔してたかい?」


 自分でも気づいていないのだろうか? 少なくとも、純粋に喜んでいるようには見えない。


「変っていうか……不安でもあるのか?」

「不安、不安か……」


 そう言ってフレイスは目を伏せた。

 少し考えるようにした後、軽く頭を振って俺の方に向き直った。


「……達蔵は、二等冒険者になった。

 つまり、まともに暮らせる権利を得たようなものさ。」

「うん? まあ、そうなるのか?」

「ああ。実際、それを機に冒険者をやめてカタギの仕事に就くやつもいる。

 三等程度はゴロツキ同然だが、二等の登録証を持ってるなら、それなりの人間として扱われるからね。」

「ふーん……」


 冒険者をやめる、って選択肢もあるわけか。

 とはいえ、俺にはあまり関係ない話だと思うのだが……


「別に、ワタシは達蔵がパーティを離れて、カタギになってもかまわないと思ってる。」

「何を言ってるんだ? 冒険者稼業を手伝わせるために、あの日、右も左もわからない俺を助けたんだろう?」


 今思えば、この危険な冒険者稼業において、一切常識を知らない人間を抱え込むなど自殺行為もいいところだ。

 それだけのリスクを冒して俺を拾い、ようやく役に立つ人間に育ってきたというのに。


「ああ。だが、その約束ももう十分さ。

 いずれ自力で登っていくつもりだったが、アンタのおかげで随分早く一等冒険者になれた。」

「俺は冒険者をやめるつもりはないぞ。」

「だが、ワタシについて来る必要もないわけだろう?

 少なくともワタシがそばにいなければ、オルフィみたいなのに襲撃される心配もない。

 襲撃の心配がなければ、アンタは森や遺跡で寝泊まりする必要はない。」

「俺を追い出したいのか?」

「そんなわけないさ!!

 ただ、もうワタシがアンタを束縛する理由はないってこと、言っておかないとアンフェアじゃないか?」


 なるほど、合点がいった。

 ギルドで説明を受けてからずっと微妙な顔をしていた原因はそれか。

 俺が二等昇格を機にフレイスとのコンビを解消するかもしれない、と思っていたわけか。


 客観的に見て、俺は冒険者として有用な忍術を使える。

 フレイスに付き合って野外生活をすることにも文句を言わないし、戦闘もできる。

 俺の離脱を不安視するということは、逆に考えれば、フレイスは俺のことを一人前の冒険者だと思ってくれているわけか。


「ありがとう、フレイス。」

「へっ!?

 なんだい、あらたまって……まさか、やっぱり冒険者をやめるのかい!?」


 フレイスはかなり慌てている。

 『ありがとう』が『今までありがとう』という別れの言葉と勘違いさせてしまったようだ。

 ……こんなに焦っているフレイスも、初めて見る。


「違う、そうじゃない。

 俺はフレイスと一緒に冒険者を続けたい。

 前に言ったよな。もし日本に帰ることができても、その後またこの世界に戻ってきたいって。」

「ああ、確かに言っていたね。」

「あの時はぼんやりとした感覚だったけど、今なら理由を言葉にできる。」


 昔日本からやってきたっていう刀鍛冶も、きっと同じ心持こころもちだったんだと思う。

 苦労して会得したわざが、何の役にも立たなくなるってのは、悔しいものなんだ。

 そして、この過酷なレファンテ大陸(せかい)では、その業に使い道があるというなら―――


「フレイスが俺の忍術を必要としてくれるなら、俺はそれに応えたい。」

「それって……」

「俺の忍術ちからが必要なんだろう?

 これからもよろしく頼む、フレイス。」


 俺はフレイスと違って名を上げることに躍起やっきになってるわけじゃない。

 フレイスの陰から、この忍術ちからを活かしていければいいだけだ。


「ああ! 当然さ、達蔵!!」


 そう言って、フレイスは笑った。

 つられて、俺も笑いそうになるが、とっさにこらえる。


「なんだい、その変な顔は……

 ああ、そうだった。これからはワタシと二人きりのときは、別に表情を取り繕わなくていいよ。」

「いいのか?

 俺の顔、見ていて気分がいい顔ではないだろ?」

「いいよ。アンタの顔なんて鬼の面とたいして変わんないから、もう慣れた。」

「鬼の面と同じって評価もなんだが…… じゃあ、遠慮なく。」


 顔の筋肉を緩め、今の気分通りに笑みを浮かべる。

 フレイスはそれを見ても、今度は眉ひとつ動かさなかった。


「うーん…… 自分で言っておいてなんだが、ホントにお面そっくり……

 冒険者廃業してもこの芸で食っていけそうだね……」

「廃業はしないって今話したばかりだろうが……」

「ははっ! そりゃそうだったね!」


 他愛のない話で笑い合う俺たちを、初めて会ったときと同じように、月が照らしていた。




 一の巻 了


 二の巻へ続く



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