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鬼面忍者 ~異世界冒険忍法帳~  作者: リナシ
一、氷炎魔人の巻
13/36

十三段目 荒ぶる魂は誰にだって止められない



「うっとおしいな……」


 正直、俺は苛立っていた。明らかに敵が調子に乗っているからだ。

 分身は倍々で数を増やし、既に16人になっている。

 向こうの振るう短剣は俺にかすりもしない。しかし、こちらも攻めあぐねていた。

 俺が使う分身わけみの術は本体おれが2人に増える術だ。

 コントロールが難しい上に、両方が本体なのでダメージのフィードバックがある。うかつに使うわけにはいかない。

 対して、副頭目こいつが使う分身は弱い。

 おそらく、俺の忍術とは別系統のものだ。動きがぎこちない代わりに、こちらの攻撃はすりぬけてしまう。

 幻でできた人形を操っているようなものだろう。


「つまり、あの分身の『どれか』が本体か……!」


 短剣を躱しながら観察する。

 幻同然の分身とはいえ、どういうわけか向こうの攻撃はこちらに届くようだ。

 それが16人ともなれば、うっとおしいことこの上ない。


「「「やりますねぇ……? この分身殺法をしのぎ切るとは……」」」


 ねっとりした声が多重に響く。

 そもそもこの男が気に入らない。曲がりなりにも忍術が使えるほどの修行を積んでおきながら、盗賊などというつまらない事に忍術を使う、この男が。


「馬鹿にしやがって、この程度で分身殺法だと?」

「「「この程度……ですって?」」」

「本物の忍術を見せてやる……」


 俺はわざと短剣の直撃を受けた。

 次の瞬間、短剣の刺さった丸太がごろりと落ちる。


「「「変わり身の術!? まさか、貴様も忍者!?」」」


 しかし、その問いに答える者はいない。

 静寂が16の影を取り巻く……



   ●●●



「ぐあっはっはっは!!

 どうしたどうした!? 威勢よく乗り込んで来ておいて、防戦で精一杯か!?」


 ザガルの見た目通りのパワーと見た目に似合わぬテクニカルな剣技を、フレイスは無言でしのいでいた。

 鉄に匹敵する強度を持つ氷のガントレットを扱い、時に受け止め、時に受け流し、あるいは指の股で挟み取り。

 真っ赤に燃える炎の腕を操り、時に牽制の攻撃を放ち、時に目くらましに使い、あるいはガントレットに添えて。

 両腕をフルに使っていても、しかし有効な反撃を繰り出せずにいた。


「……確かに、アンタの剣の方がワタシの体術より上のようだね。」


 大きな激突音を響かせ、曲刀をはじいたはずみで数歩分の間合いをとった。


「なんだ、諦めて大人しく斬られる気になったかぁ!?」

「逆。ワタシより上って程度の剣技で、よくそれだけ威張れるもんだね。」

「なにぃ!!?」


 フレイスは改めて右半身を前にした構えを取りなおした。


「ワタシは戦士でも格闘家でもない、魔導士だってことさ!

 "凍結震脚アイスバーン"っ!!」


 右足を強く踏みしめ、氷が地面を走る。


「おぉっと!!」


 ザガルに氷が迫る瞬間、ジャンプして凍結を躱した。


「オレの手下どもをやった技か!

 だがこの程度の魔導に当たるかよ!!」

「いや、十分だね。」

「なにぃ!?」


 見渡せば、辺り一帯の地面が氷に覆われていた。


「こ、これは……!」

「氷の上で戦うのは初めてかい?

 考えてみな。この地面、どうやったら剣を振るう『踏ん張り』が効くんだろうね?」


 闇の中でフレイスの腕が、眼が、赤く燃え盛り、氷をきらめかせた。



   ●●●



「「「どこだ…… どこに消えた!?」」」


 分身した男が一斉に頭を振り、俺を探している。

 だが、月夜とはいえ夜中に見つかるほど俺は甘い忍者ではない。

 慌てる奴らを尻目に戦場をじっくり観察する。

 少し離れた場所から、剣撃の音とハイテンションなフレイスの声が聞こえる。


「あはははははは!!

 なんだいそのへっぴり腰は! 自慢の剣技はどうしたぁ!?」


 ……フレイスの方は問題ないようだ。

 そしてこちらも、戦場を俯瞰して見たことでタネが割れた。

 後は簡単に処理するだけだ。


「「「クソッ…… ヤツはどこだ? 早く見つけないと……」」」

「見つけないと、どうだっていうんだ?」

「「「なにぃ!?」」」


 さぞかし驚いたことだろう。

 『遺跡の中に隠れていた本体』が、刀を突きつけられているのだから。


「最初から本体はあの16体の中にはいなかったってわけだ。

 おっと、動くなよ。お前には聞きたいことがあるが、駄目なら駄目で殺しても惜しくはないからな。」


 男は身じろぎもしない。

 俺の言っていることが脅しでないことに気付いているようだ。

 それでも、男は絞り出すように声を出した。


「何故私の居場所がわかった……!?」

「上から見ればすぐわかるさ。

 あの分身ども、満遍なく周りを見てるようでいて、常に2体は遺跡の入り口を見ていた。

 つまりそこが一番警戒している場所だ。」

「くっ……!」

「お前の質問タイムは終わりだ。こっちの質問に答えてもらおうか。

 何故あれほど執拗に村から食料を奪った?

 村一つの備蓄丸ごとなんて、盗賊団の維持に必要な量を明らかに超えている。」

「そ、それは…… ぐぅぅぅ!?」


 俺の質問に男は動揺を見せた。

 その直後、急に胸を抑えて苦しみだした。


「おい、下手に動くなと…… なに!?」


 わずか数秒の間に、副頭目とおぼしき男は息絶えていた。

 周囲に人の気配は一切ない。


「毒物……いや、魔導のたぐいか?

 何者かの口封じ……?」

「こっちは終わったよ……あれ?そいつは?」


 遺跡入口からフレイスが入ってきた。

 右腕が返り血に濡れている。ザガルをったようだ。


「捕えた直後に急死した。

 フレイス、何かわかるか?」

「えーと……

 多分これは……あ、あった。」


 フレイスが服をめくると、首の下に魔法陣のような模様が刻まれていた。


「特定の条件を満たすと起動する呪いかな?

 結構高度な……それこそ一介の盗賊風情に扱えるものじゃないけど……」

「ここいらの盗賊は、剣技で一等冒険者を追い返したり、忍術で16の分身を操ったりできるのか?」


 俺の言葉にフレイスは首を振る。


「……そりゃそうだ。こいつらはただの盗賊じゃなかったね。」

「まだ、裏に何かあるってことか……」

「とはいえ、そこら辺はワタシたちの仕事じゃないよ。

 ワタシたちの仕事クエストはここまで。とりあえず、待機してる遺跡管理のギルド職員を呼んでこよう。」


 確かに、俺たちの仕事は終わりだ。

 しかし、今は冷たくなったこの男の使う忍術。どうにも、因縁を感じざるを得ない……



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