十一段目 今に見ていろ全滅だ
「遺跡に入れない?」
「はい、すみません……手違いでリストに入ったままになってたみたいですが、現在この『中規模集落遺跡23号』は、探索することができません。」
俺とフレイスは例によって冒険者ギルドに顔を出していた。
ここ数日は森で狩猟生活をしていたが、「戦闘の勘が鈍るといけないから」ということで手ごろな遺跡を物色しに来たのだ。
そこで、二等冒険者向けの遺跡リストからフレイスが選んだのがこの遺跡だったのだが……
「そりゃまた、どういったワケで?」
「ここは今、非常に悪質な盗賊団の根城になってるんです。
討伐に向かった冒険者も返り討ちにあってしまい、近々複数のパーティによる合同依頼として出そうとしていたところでして……」
フレイスは、ふむと頷いて顎に手をやった。
俺には次に何と言うか予想がついた。
「じゃあ、ワタシたちでぶち殺しに行こうか。」
「そんな、無理ですよ!!
返り討ちにあったのは一等冒険者がリーダーの6人パーティだったんです!
たった2人、しかも二等と三等じゃとてもじゃないけど……」
受付のお姉さんの言葉にフレイスの目の色が変わる。
「今、無理と言ったね?」
「え、ええ……言いましたけど……?」
フレイスの圧力に、若干引き気味だ。
「まともな冒険者なら無理な難事となれば、なおさら行かなきゃいけないね。
こういう時こそ名の上げ時さ。」
「フレイスならそう言うだろうと思ったよ。」
そんなわけで、盗賊退治へ行こう、ということになった。
●●●
「思ったよりひどい有様だな……」
俺たちは目的の遺跡近くの村に来ていた。
踏み荒らされた収穫前の麦畑。数軒分の火事の後とおぼしき残骸。死んだ魚のような目をした村人。
「盗賊の被害にあった村なんてこんなもの……と言いたいところだけど、ちょっと違和感があるね。」
「そうなのか?」
俺は当然ながら、盗賊に襲われた後の村を見るのなんて生まれて初めてだ。
フレイスの感想は何であれ聞く価値がある。
「何と言うか……荒らされすぎている。」
「荒らされすぎ?」
「ああ。盗賊の目的は多分食料だろう? こんな村に金目のものなんて期待できないんだから。
で、普通の村にはまともな武力なんてないんだから、ちょっと脅かせばろくな抵抗もなく食料が手に入るはず。」
「なるほど、だから本来なら放火なんてする必要もないってことか。」
「なのにこの村の荒らされよう……聞いてみた方が早そうだね。
すいませーん!」
フレイスが手近な老人を呼び止めた。
「盗賊の情報を集めている冒険者です。お話、よろしいですか?」
隻眼隻腕三白眼のフレイスの風貌に老人は軽い恐怖心を抱いているようだが、流石に即逃げられるということはなく話に応じてくれた。
「やつらは悪鬼じゃよ。やつらが最初に現れてから2ヶ月、すでに3度もこの村に来てる。」
「2ヶ月に3度も!?」
「やつらは手加減を知らないんじゃ。
既に村の蓄えは完全に空。今年を越せるかもわからないというのに、もし次に来たら、何を渡せばいいのやら……」
そう言って老人は目を伏せた。
その後、俺たちは数人の村人から話を聞き、村を後にした。
「村が異常に荒らされている原因はわかったが……」
「今度は何故そこまでするのかわからなくなったね。」
俺は聞き込みの内容を書いたメモを取り出した。
「一応わかったことは、人数が20人ぐらいなこと、頭目が大ぶりな曲刀をもった男ということ、ぐらいか。」
「20人の盗賊団を養うのに、ひとつの村から根こそぎ食料を奪う必要まではないはずなんだけどねえ?」
「ただの加減知らずの馬鹿、だと楽なんだけどなぁ……」
「一等冒険者を追い返すなんて、そんな真似ができる馬鹿ってのも厄介なもんだよ?」
気になる点はあるものの、ある程度必要な情報は得たので、俺たちは盗賊団が根城にしてる遺跡に向かうことにした。
●●●
まずは敵情視察。盗賊団の正確な面子を知っておく必要がある。
そもそも有利に立ち回るためには装備、能力、頭目の性格などといった情報が必須。
そんなわけで俺は今、単独で遺跡内部に忍び込んでいた。
ちょうど、屋根板の下では盗賊どもが酒盛りをしている。
「ぐあっはっはっは!!
しっかし、今思い出しても笑えてくるじゃねえか!
この前の冒険者どもの逃げっぷり!一等冒険者ってのも大したことがないわ!!」
あそこで豪快に笑って酒を飲んでいるのがおそらく頭目だろう。筋骨隆々の肉体に、青竜刀に似た曲刀をたずさえている。
「へっへっへ……いやあ、流石はお頭。まったく、その剣の冴えときたら天下一だ!」
「お頭のおかげで金も女も食い物も困らねえ、最高の親分でさあ!」
取り巻きどもは見たところ、取るに足りない三下奴といったところか。
こいつらは物の数ではない。
「ですが、ここらではちょっと暴れすぎましたね。
絞りとれる物ももう無さそうですし、そろそろ河岸の変え時かと。」
態度からして、あっちは副頭目あたりか?
痩せぎすの体躯に、陰険そうな目つき。会話の内容からして、実際に盗賊団を切り盛りしてるのはコイツかもしれない。
「……ん!?」
観察していると、副頭目とおぼしき男が急に立ち上がった。
「どうした?」
頭目の言葉に振り向きもせず、手近な槍を取るとまっすぐこちらに歩いてくる。
……ばれたか?
「てぇいっ!!」
気合と共に突き出された槍は、俺の眼前にいたネズミを貫いた。
「文字通り、ただのネズミか……気のせいだったようですな。」
「おいおい、驚かすんじゃねえよ。
まあいい、気を取り直してお前も飲め!」
「そうですな、いただきましょう。」
……流石に焦った。とっさにネズミに気配をなすりつけたから無事に済んだが……
いずれにせよ長居は無用、隙を見てこの場からは撤退することにした。
それに、あの副頭目の異常な鋭さ。ただの盗賊ってわけでもなさそうだ……




