敵防空網制圧作戦2
アメリカ欧州軍司令部
指揮官や戦術士官達が作戦室に集まり話し合いの場がもたれていた。
「偵察によっておおよその敵戦力を割り出すことができました。解析の結果、この高原にS-300PMUのものと思われる監視サイトが設置され、列車砲の周囲を囲むように9K33 オサーが配置されているようです」
士官がスクリーンの航空偵察画像を切り替えて敵の状態を説明していく。
S-300とはロシア軍の長距離地対空ミサイルシステムであり射程は弾頭によっては200kmと非常に長大だ。
新式であれば欧米の航空部隊でも撃墜されかねない大変危険な地対空ミサイルである。
一方の9K33 オサーは短距離地対空ミサイルでありS-300より相対的に性能が低く撃破しやすいが、これはそもそも役割が違うためで旧式か否かというわけではない。
「恐らくこのS-300を早期警戒レーダーとしても使っているらしく、例の航空基地と連動していると思われます」
例の航空基地とは偵察衛星とミャウシア内の諜報員によってすでに確認されていたジェット機の運用を想定した反政府軍の航空基地だ。
チェイナリン達のニェボロスカ基地と同じようなものである。
「現にこの基地から発進したと思われるマッハ0.9で飛翔する飛行編隊が列車砲上空まで飛行して戻っていくのを警戒管制機が捕捉しています」
「なんてことだ。相手はロシア軍なのか?」
「ミャウシア軍の諜報ではあくまで装備を運用しているのミャウシア人であってロシア軍の技官はサポートとのことです」
実は政府軍と反政府軍と別れてはいるがつい最近まで一つのモザイク国家を形成してただけにスパイというかそもそも軍に反感を持っていたり買収されている軍人がいて、諜報員を介して低レベルの情報が筒抜けている状態だったりする。
もちろん政府軍内の情報も反政府軍に筒抜けだった。
「ロシアは意地でも反政府軍を勝たせたいようだな」
「現状のミャウシア軍航空部隊では空から攻めるのは不可能だ。地上部隊だけで撃破できるか?」
「不可能かと。列車砲は山岳の反対側からロケットアシスト弾を使った長距離砲撃を行っており、その間には未舗装の険しい山道しかありません。敵はこの山岳の要所に部隊を配置していると思われ、地上部隊での攻略は困難を極めるでしょう。たとえ山岳戦に勝利したとしても攻撃する前に列車砲も防空網も後方へ下がてしまいます」
「彼女たちには打つ手なしか。我々が対応しなければ政府軍は総崩れになりかねない。統合参謀本部へ報告する」
ミャウシア政府軍のとある司令部
非常に広い部屋の真ん中にはミャウシア南東部の地図盤が設置されていて、盤の上にはたくさんの駒が置かれていた。
またその周りには長いテーブルと多数の座席が置かれ、それに士官や将官達が座っている。
いく人かは座らずに立って地図盤や座席の近くに立っていた。
いわゆる作戦室である。
陸海空の司令官や参謀など幅広い軍種の将兵が一堂に集まった作戦会議が開かれ例の件が話し合われていた。
チェイナリンも参加者の一人だった。
本来は陸海空共同で綿密な作戦を立てる会議などはほとんど行われていなかった。
第二次世界大戦の各国軍も基本は各軍が分立していたし、同じ文明レベルだったミャウシアの軍隊もそうだった。
けれども軍がめちゃくちゃになってから再建するにあたり、地球人の正規軍を参考に統合軍としての性格の強い軍隊へ作り変えることが唱えられている。
統合軍と言えばアメリカ軍がそうであるのだが、どちらかといえばロシア軍の軍管区に近いものだった。
自分たちの権限やポストが無くなることを危惧する者は一定数いるのでこの改革に対して断固反対する者もちらほら出ている。
けれども統合軍化は既定路線として進めていて、その推進者の代表格がチェイナリンだった。
ポストに興味がないチェイナリンは海軍と政府の信任、自軍の空軍を味方にあくまで合理的な形に持っていこうとしている。
もちろん一番抵抗している陸軍の保守派に配慮しながらだ。
そのため、新しいやり方に慣れてもらおうと今回の案件と関りがある陸海空の部隊指揮官や参謀を集めて対応を協議するための会議を開いた。
今回の会議の意見調整役は将来の統合軍司令官が担うことになるので予行演習になると思われている。
今回は陸軍の良識的な将軍に任せてある。
いずれ統合軍ポストの半分以上は陸軍大将が当てられることになるだろうし陸軍航空隊を取り上げられる陸軍の顔を立てなくてはならない。
「では空軍司令官であるフニャン将軍はNATOに攻撃を打診するのが最善だとおっしゃるのですね」
「はい。すでに彼らに情報を提供し協力を打診しました」
「本当に我々だけでは対処不能なのですか?」
「はい。戦闘機や爆撃機を無数に出せば可能かもしれないですがそれはいたずらに兵を失う結果を招きかねません。現状では我が軍の航空部隊はほとんどが作戦任務に就いていて、余力がほとんどない状態にあります」
「低空侵入などの方法があるのでは?」
「敵も低空侵入は織り込み済みのはずです。やれば大損害は避けられない。そもそもダメージ交換を前提にした戦い方ができないと申し上げているのです」
「将軍の考えはわかりました。ですが彼らは私たちに協力してくれるのでしょうか?ここ最近は全く航空部隊をこちらに飛ばしていないようですが」
「敵に地対空ミサイルが配備されてから彼らは損害を抑えるため攻撃を控えるようになりましたが、その他にも反政府軍に対する大規模な攻撃作戦を計画しているのでそのためにも兵力を本国側に戻しているのでしょう。ですが我々が大損害を被るのは彼らも得策ではないと考えるはずです。おそらく協力してもらえるかもしれません」
そこへ兵士が入室してきた。
兵士はチェイナリンに近づき耳打ちする。
「回答が得られました。NATOが主導して敵の防空網を破壊するそうです。2時間後に連絡将校をよこしてくれるそうです」
作戦室内が少し騒めくが動揺するのではなく皆意見がまとまっていく様子だ。
議長である三毛髪女性の陸軍将軍も議論の余地は少ないと考えたのか早々に決断する。
「...結論は出たようですね。フニャン将軍の案に異論がある方はいますか?」
特に異論は出なった。
もともと空軍が主体になる戦いなだけにチェイナリンの意見は重要だった。
「ではNATOが主体となって攻撃を行う方向で作戦案を練ることとする」
ミャウシア政府軍は攻撃の際、自分たちに何ができるのか検討を始める。
一方、反政府軍の方ではとある人物がこの件に関わろうとしていた。
あんまり躍動感のない話が続いてます
すいません
もしかしたら話を少し書き換えるかも
あと有持自衛官のエピソードを書き換えてグローブスとの関係をもっと複雑にしたいと思います