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アルカディアンズ 〜とある世界の転移戦記譚〜  作者: タピオカパン
猫の国の内戦(中編)
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ミャウシア空軍2


ミャウシア空軍の航空基地格納庫


この航空基地は整備拠点としての性質があるのか、多数の整備用格納庫が建設されていた。

その格納庫では多数の整備員や技術者とみられるミャウシア人がジェット機とその手前にいる地球人の技術者を取り囲んでいる。


ジェット機は1950年代にアメリカ海軍向けに開発されたA-4スカイホーク艦上攻撃機で背中にコブがあるF系以降の機種だった。

これもまた飛行機の墓場から引っ張り出してきたものだ。


こういうのは再生と維持に費用が掛かかりがちだが、ミャウシア人達で自前できる部品の他、工賃と工期に関してはミャウシア人達の紙切れに近い人件費で補われる。

もちろんF-4E改の改修や現在進められている一部のF-14Dトムキャット艦上戦闘機の未改修での再生はほとんどミャウシア人が関わらない費用自体が巨額だったが他に与えられる機体はなかった。


F-16はNATOがとことん使い潰すつもりだし、F-35は生産ライン自体がこっちの世界に一緒に転移せず現時点で生産不能だったし、与える気もなかった。

F-15A/B/C/D/SJ/SDJに関しては再生もしくは改修、供与の計画が進んでいる。

こちらはロシアがミャウシア反政府軍をさらに支援するなら前倒しされることになっている。


話は戻って、アメリカ人とみられる地球人は通訳を介して集まっているミャウシア人たちに機体をどう整備するのか説明を行っている。

それを取り囲む整備士や幅広い工学系の技術者のミャウシア人たちは猫耳をピクピク動かしながら真剣に聞いていた。


「見ての通り、この機体は先に供給したF-4戦闘機よりずっと小型である。そのため機体は大きめのフレームを最小限の数だけ用いて組み上げられている。よって整備口は大きく部品とエンジンは少数のボルトだけで固定されている。それによって整備に不慣れな諸君でも簡単に整備することができ...」


技術者のアメリカ人は淡々と英語で説明していく。

それをセンターユーロの迷彩服を着た東洋系の兵士が翻訳していった。

通訳はナナオウギ下士官である。

彼はある程度流ちょうに英語をミャウシア語に変換していく。

時折彼の目線は技師達の後方、講義を検閲していたミャウシア空軍の一部首脳陣達に向く。

首脳陣の中に制服を着たチェイナリンとミラベルの姿があったからだ。


チェイナリンは将軍同士の話し合いをまとめながら講義を見ていた。

ナナオウギからは距離があるのでチェイナリンが自分に視線を合わせているかわからない。

だがナナオウギは何故かはわからないが見ていることを期待してしまうのだった。

しばらく技術的な講義が続いた後、チェイナリンを含めた空軍首脳陣は格納庫を後にする。

それをナナオウギは少し思うところがある感じでチラ見して見送った。

けれどもチェイナリンの副官ポジションにあたると思われるミラベルが一人だけ残り、格納庫の壁沿いに壁に背をつけて腕を組みこちらを見ながら立ち続けていた。


それから数時間して講義を終えたNATO関係者達は地球人の身長に合わせて建てられた特別な来賓用の宿舎へ向かう。

NATO関係者達が可動扉から格納庫を後にするなか、出入り口近くにたたずんでいたミラベルがNATO関係者の最後尾にいたナナオウギに声を掛けた。


「ひさしぶりな」


「やあ、アーニャンちゃんだね。久しぶり。元気だった?」


「まあな。さっそくだけど、うち時間作れる?」


「時間って..。簡単に言ってくれるね」


ナナオウギはそーきたかと言いたげに苦笑いする。


「まあな。別に悪いことする訳でもないんだし、いいじゃんか」


「あらら、ガバナンスもあったもんじゃないな。他の武官の同席はダメなの?」


「それは無粋やわ。何とかならんの?」


ミラベルは前回会った時にナナオウギに連絡方法を記載したメモ書きを渡していた。

以来、軍には内緒でチェイナリン達とやり取りをかわしている。

これ自体ガバナンス上よくないのだがナナオウギはあることを期待して乗ってしまうのだった。


「そう言われても。というか何か用でもあるのかい?」


「それはもちろん、助けてもらった件でいろいろお礼がしたくてさ」


「うれしいけど気持ちだけ受け取っておくよ。そういうのは軍規に大きく触れちゃうからね。それに俺自身、見返りなんてのが性に合わないしさ。気持ちで十分だよ」


「ふーん。結構なお利口さんなんやね」


「まあね」


「でもそれじゃあ示しがつかんしなぁ」


アーニャンは右手で顎をしゃくる。


―なんやねん。隊長に会いたくないんか、われ。


ミラベルは一番関係の深い地球人であるナナオウギと、上官であるチェイナリンの間にパイプを確保するのが目的で連絡方法を教えたつもりだったが、これはその後チェイナリンとナナオウギによるちょっとした自己紹介や感謝の気持ちを伝えるための文通のようなものになり果てていた。

チェイナリンはミラベルの行為に最初、こういう独断はあまり良くないと口頭注意したがナナオウギからの手紙が来てからはノーリアクションで態度を変えて返事を書いてしまうのだった。

内通しているようなものなので良くないということは二人とも承知していた。

だが承知しつつも二人とも利益相反にならない程度に軍事機密には一切触れない形でついつい返事を返し続けてしまった。

そのためこれが情報交換ではなく個人的な文通になるのに時間はかからなかった。


一方のミラベルはチェイナリンに注意されてから連絡は絶つものと考えていたがそうはならなかったので、チェイナリンとナナオウギのエネミーラインでの逃避行の内容を聞き、もしやと思い二人の文通内容を盗み見てみることにした。

すると内容はお互いに好意を自覚していない恐ろしく口下手なコミュ障同士の遠距離恋愛である。

しかも文が短くてほとんど自己紹介まで至っていない。

その時のミラベルは凄く猫っぽい表情で手紙を読むと二人の面白さのあまり、お節介を焼きたくてうずうずしてしまうのだった。

そして空軍創設にあたって副官としてチェイナリンの代理で一部の企画や計画策定の裁量を任されていたのを利用し、ナナオウギがここに派遣されるよう仕向けたのだ。


―隊長みたいに融通が利かない奴やな。しゃあないからあの手で行くか。


「じゃあ、また今度にするわ。それはそうと宿舎に帰る前に翻訳して欲しいもんがあるんだけどちょっとだけ付き合ってくんない。翻訳できるのうちくらいなんだし、それくらいなら一人でもいいでしょ」


「うーん......わかった。少し待ってて」


「決まりやね」



別の格納庫


同じ基地内の別の格納庫ではこれまた違う航空機が駐機されていた。

機体は半分以上分解され、部品や翼、駆動装置、エンジンが台に置かれたりつるされたりしている。

それらを技術者とみられるミャウシア人達が研究するように調べている。

分解されてる機体はアメリカ軍のF-5EタイガーII戦闘機とT-38タロン練習機だった。


そんな技師に話しかける将校がいた。

チェイナリンだった。


「どうですか?」


「技術的には機体の製造は可能かと。ですが陸軍のNY戦闘機や海軍のME艦上戦闘機などに比べ、構造部品数以上に駆動部品と電子部品が大幅に増加しています。しかも電子部品に至っては我々が見たことも考えたこともないテクノロジーでできています。こちらは一つ一つの素材を研究して理解しなことには我々の手で作り出すのは不可能です。地球人の話通りであるならば、このコンピュータと呼ばれるものに関しては完全にお手上げです。エンジンは治金技術次第といったところでしょうか」


「そう。やはり電気を使う機械は彼らから供給されないことには無理ですか」


「設備と指南があれば別ですが。けれどノウハウを伝授されても今の国情では産業がガタガタを通り越して壊滅的状態なので思い通りにはいかないでしょうね」


「...」


チェイナリンは難しい表情をする。


アメリカはミャウシア暫定政府軍に多少設計変更されたF-5戦闘機とそのエンジンであるJ85のライセンス許可、ミャウシアの微生物由来の燃料で駆動するJ85の開発許可さえ出そうとしていた。

ここまでNATOがミャウシアに肩入れするのは暫定政府軍に負けられると後々のミリタリーバランスに致命的な影響があるという危惧がその理由だった。

このような武器供与は犬耳の国、グレースランドにも行われていた。

また燃料である石油燃料などはグレースランドが産出し生産したものが石油資源のないミャウシアへ供給されている。


彼らの世界はミャウシアの世界と違い、石油がそこそこは存在していたようだ。

ただしこの石油は化石由来というわけではないらしい。

それらを含めたこの世界の科学的なことについて、この頃には科学者は様々な議論を巻き起こしていた。


「ところで将軍。パイロットスーツとイヤホン、座席とペダルはいかがでしたか?急造ですがそれなりの完成度に仕上がったと思うのですが」


「うん、良かった」


「それは良かったです。地球人はデカいし変な耳を持ってるくせに尻尾がないので作り直す必要がありましたからね」


地球人にはケモ耳もなければ尻尾もないし、身長140cmの軍人もいないのでミャウシア人専用装備が作られていた。

ちなみにミャウシア人の間でも乗り物の発明以来、座席に尻尾を収容する課題に幾度も直面していたこともあり、尻尾は邪魔なのではという議論は少なからずあったが、尻尾は不可分のものとし工夫してきたらしい。


「まあ、そんな感じで技術面も何とかしてみせますよ。そうじゃなきゃ反政府軍には勝てませんからね」


チェイナリンの考えるように顔を少しだけ下に向けた。


そう、技術をものにできなければこの戦争を継続するのは困難だとチェイナリンは自覚する。

諜報によれば反政府軍はロシアと呼ばれる地球人国家から相当量の兵器を供給されているらしい。

供給兵器のリストにはAK-74M小銃、、コンクールス対戦車ミサイル、T-55M戦車、T-62M戦車などの現代兵器の名前がずらりと並んでいた。

自分たちの持っている既存兵器では一切相手にならない代物ばかりだ。

こんなところで躓いていては政府軍がこの先生き残るのは厳しい。

この国の指導者の一人となっていたチェイナリンは少し焦りを覚えるのだった。


そんな重い雰囲気をまとったチェイナリンに思いもよらない人物が声を掛けてきた。


「チェリン?」


「え?」


チェイナリンははっとするように振り返ると目の前にナナオウギが立っていた。


「....翔太」


ポーカーフェイスのチェイナリンも流石に少しだけ驚きの表情になる。


「....ど、どうしてここに?」


「いや...翻訳して欲しいものがあるって聞いて連れてこられたんだけど...あれ?」


ナナオウギは凄く照れくさそうに困惑する。

ミラベルはちょっとだけ離れると言ってナナオウギに先に格納庫に入るよう指示したのだ。

もちろん翻訳の件は嘘だ。

ミラベルは時間差で格納庫に入ってくる。


「ごめん。翻訳の件は今じゃないみたいなんよ。悪いけど今日はここまでってことで。悪いねうち、もう宿舎に戻ってええみたいよ。あれ?隊長ここにいたん?」


ミラベルの話をチェイナリンとナナオウギは言葉が見つからないように口を開けて黙って聞いていた。


「二人で何か話でもしてたん?ああ、そういえば隊長はあれ以来ナナオウギくんと会ってないもんな。そりゃ積もる話もあるよな。ならうちは他の用事がまだあるからお先に失礼することにするな」


「え?あ、ちょと...」


ナナオウギが言い終える前にミラベルはそそくさと格納庫から去ってしまうのだった。

ナナオウギはしばらくドアを見た後で視線をチェイナリンに戻した。


チェイナリンは尻尾も動かさず表情を変えずにナナオウギを見続けていた。

しばらく沈黙が続く。


チェイナリンはナナオウギがこの基地に来て通訳や翻訳に関わっているのは知っていたし、先ほど格納庫で居合わせていた。

しかし立場が立場なだけに自分からアプローチをかけるのは遠慮していた。

どこかの段階で声をかけたいという気持ちは強かったのだが、その姿勢は最悪すれ違ったままナナオウギが帰還するだろうくらい消極的というか臆病なものだった。

それだけにこんなところで出会うことは全く想定していなかったようだ


「将軍、地球人と何しているんですか?」


先ほどまでチェイナリンとそばで話していた技師が首をかしげながら問いかけてくる。


「い、いやこれは...」


チェイナリンは技師を見て返事した後、ナナオウギに慌てて話しかける。


「ど、どうですか?我が軍の整備場は?地球の技術をできる限り模しているんですよ?」


「え、あ、はい。そうですね!てっきり自軍の空軍基地なのかと勘違いしてしまいそうなくらい先進的だと思いました!」


「それは良かった」


また二人は固まって沈黙する。


「そ、そろそろ行きましょうか?」


「そ、そうですね!」


「こちらへ」


チェイナリンの提案にナナオウギが即答した後、二人は格納庫から逃げるように出た。

その様子をミラベルは興味津々の様子で遠くから覗き見しながら呟く。


「くっくっく、この手に限る」


チェイナリン達はしばらく歩くがどこへ行く当ても特にあるわけでもなく、無意識に人気がないところへ逃避行するようにうろうろ歩く。

結果、二人はエプロンとエプロンの間にある芝生地に出ていた。


「...」


沈黙というわけではないがだだっ広い景色を眺めながら二人はお互いになんて話しかけようか懸命に考えていた。

それをナナオウギが打ち破るように話しかけ始めた。


「...この芝生って座っても大丈夫?」


「うん」


二人は芝生の上に座り込む。

またしばらく滑走路方面を眺めナナオウギが続ける。


「やっぱり飛行場って広いね」


「...そうかな?」


「そうだよ。俺は陸軍だからね。だから空を駆け巡るっていうのが全然イメージできないし凄いことやっているなっていつも思ってた」


「...そうかもしれない」


「そういえばジェット戦闘機はどうだったの?最近乗り始めたんだよね?」


「とっても速い。とっても。プロペラ機とは全然違う。カウンタートルクがないのはありがたいかな」


「カウンタートルクか。何のことなのか全然わかんないや、ははは」


ナナオウギがリードする形で二人は談笑する。


「へえ、きりもみって怖いんだね」


「うん。動揺しているとなおさら機体の立て直しが難しくなるの」


「こういう風に落ちるの?」


「そう、そんな感じ」


ぎこちない会話だったが二人とも口下手なので大した問題にはならず、会話は進展する。


「そういった経緯で俺はフランスっていう国の軍隊に志願したんだ。それまでは日本軍(自衛隊)に所属していた」


「ニホン...翔太の故郷」


チェイナリンはアメリカを盟主とする軍事同盟勢力に日本という地球国家があることは知っていた。

ナナオウギがその国の出身であることをこの時知った。


「あの頃は世界大戦前夜みたいでとにかく世界が混沌としてたんだ」


「私たちの世界もそうだった。世界大戦が起きて、虐殺による民族浄化を掲げる帝国によって国が存亡の危機に立たされていた」


「そうだったんだ」


「...」


チェイナリンはグレースランド王女のエルザが話していたことを思い出す。

グレースランドの世界も危機的状況だったさなかに異世界転移が起きたと話てくれたのだ。

チェイナリンはこの世界に飛ばされた人々は概ね似た状況の中で飛ばされたのだと推測する。

しかし理由は全く分からず頭の中に留め置くことにした。


「ならこの世界に転移したのは神様の善意だったのかもね」


「善意?」


「そうさ。おかげでこうして俺はチェリンと話ができる。それに転移が無かったら正直死んでもおかしくなかったからね。異世界転移の時、墜落した旅客機に乗っていたんだ。あのまま俺は旅客機と共にミサイルでバラバラにされる運命だった」


「旅客機...もしかして海の上に不時着していたジェット機このこと?」


「知っているの?もしかして...」


「2機のプロペラ機に乗っていたのは私とアーニャンだよ」


「そうか。あの時、助けを呼んでくれたのはチェリンだったんだね。ありがとう、おかげで助かったよ。感謝している」


「翔太と同じ。困っている人がいるなら私は助けてあげたい。ただそれだけのこと。あなたが私とアーニャンを救ってくれたように」


チェイナリンは感謝の気持ちを伝えるナナオウギに少しだけ微笑む。

二人はお互いの関係性を認識したのか強い絆のようなものが芽生えて始めたようだ。


その様子をミラベルは双眼鏡を使い、猫っぽい顔で興奮するように凝視する。

けれど別方向にある基地施設の隅ではウーがチェイナリン達の様子を不満そうに眺めているのだった。


一方でその頃、ミャウシア暫定政府軍と反政府軍との戦闘が繰り広げられている前線では大きな動きが始まろうとしてた。


後半が完全にプロットから脱線してキャラクターが勝手に話作ってて困惑。

次回から戦争回のはず。

すいません。

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[良い点] 更新乙です こんな格言を知っているかしら?『地獄への道は善意で舗装されている』 ところで世間ではロリとヤると空を飛べるようになるなどという風説が流れているんだとか ヤバいですねえ 果たして…
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