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アルカディアンズ 〜とある世界の転移戦記譚〜  作者: タピオカパン
猫の国ミャウシア連邦
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模索する人々(挿絵あり)

<<ミャウシア東方地域>>


平原をかける多数の装甲車両の一団がヨーロッパやアメリカで見られるようなとても大きくなだらかな丘に向かって進んでいく。


挿絵(By みてみん)


それはミャウシア陸軍の主力中戦車の一つ、パウツ中戦車の一群であった。

その車体にはたくさんの歩兵が相乗りして共に移動している。

戦車は全部で30両ありその後方には遅れて多数の歩兵が付いてきていた。

戦車部隊がなだらかな丘を超えるとその先にはいくつもの集団からなる軍団が斜面の麓に構えていた。

その手前にはドイツで出現した巨大モンスターとはまた違う形の巨大生物が群れをなして固まっている。


「前方4km先に敵集団を確認。全車停止しろ」


戦車隊の隊長の命令ですべての戦車が丘の上で隊列をなして停止した。


「なかなか数が多いですね」


砲手が車長兼部隊長に双眼鏡を覗きながら言う。


「あの人たちも必至なんでしょ。序盤に出てきたのはほんの一部だったし。でも剣や槍で戦う蛮族、いくら集まっても所詮ねえ?」


部隊長も双眼鏡で覗きながらのほほんと答える。


「隊長。歩兵大隊が追いつきました」


声がして後ろを振り向くと先程の歩兵達が追いついて待機に入る。

大隊長と思わしき人物が近寄る。


「敵の主力みたいだけど例の怪物が仰山いるとこを見てしまうと少し足踏みしてしまうね」


「ですね。とりあえず予定通り再度戦車隊が前に出て怪物の対処に当たりますのでその上で皆さんには雑兵刈りをお願いします」


「承った」


大隊長はそういうと下がっていく。

話し合いは終わり行動を開始するときが来た。


「前進開始!」


ブロオオオオオン!


固い装甲を纏った鉄の乗り物が煙を吹いてエンジンの回転数を上げる。

エンジンの回転数が上がり、ギアを入れると履帯が特有の音を立てて動き出す。


カカカカカ、キュラ、キュラキュラキュラ。


27トンの車体は地面の凸凹に合わせて少し揺れながら進む。

その速度は後ろの歩兵を大きく引き離さないよう非常にゆっくりしたものではって動いているも同然であった。


そして敵との距離が3000mを切ったところだった。

敵集団の手前で待機していたおびただしい量の怪物と形容して差し支えない巨大生物が一斉に突進を開始した。

その体長は大きいもので18mにもなる。

全然速くはないがその迫力は想像を絶するものだった。


「全車、敵との距離が2200になるまで前進!」


部隊長が指示し部隊は前進を止めない。

そして怪物との距離が2200を切ったところで部隊長はさらに指示する。


「全車停止。第1小隊は右半分、第2小隊は左半分の怪物に照準を合わせ砲撃準備せよ」


停止した各戦車の主砲の77mm砲が前方の怪物を射線に捉え、車内では装填手が77mm砲弾を装填する。


少しだけシーンと静まり返り、各戦車の乗員が緊張した面持ちてたたずんでいるとそれを打ち消すように号令がかかる。


「撃ち方始め!」


ズド、ズド、ズドオオォォォォォォン


パウツ中戦車の77mm砲が爆音を轟かせ煙を吹く。

砲口から77mmのAP-HEが発射され音速の2倍以上の速度で目標である巨大生物に向かっていく。

弾頭が巨大生物に命中するとそのまま皮膚を貫き、体の中へめり込んでいく。

そしてある程度進んだところで徹甲榴弾の炸薬が炸裂し凄まじい勢いで内蔵を加害していく。

巨大生物は悲鳴をあげるとドスンと倒れてうめき声を出しながら動かなくなる。


戦車隊はバンバン巨大生物を撃ち倒していく。

車内ではバコンと主砲を撃つとカランと音を立てて空の薬莢が出てきて装填手が次の砲弾を込めると車長の号令でまた主砲を撃つ。

それを何回も何回も繰り返し巨大生物の数を減らしていく。

また砲塔から邪魔になった薬莢が次々と捨てられていく。


砲弾は80発搭載されているが30発撃ったあたりで巨大生物は数えるくらいしか残っていなかった。

最後の一匹が倒れた時、戦車との距離は500mにまで達していてすぐ後ろには敵の槍部隊が突撃してきていた。


「うおぉぉぉぉぉぉ!」


敵の槍部隊はファランクスのような隊列をなして槍を構えた状態で突撃してくる。

その後には剣や弓を持った機動力の高そうな歩兵が付いてくる。

古代や中世でよくあるタイプの密集隊形や斜線陣の突撃だ。


しかし、近代化された軍隊が相手ではただの的にしかならない。

巨大生物が全滅したあたりで前進して戦車の脇まで来ていた歩兵大隊は小銃や重機関銃を構える。

そして有効射程に入ってきた敵に対して発砲が始まった。


「撃てえぇ!」


ダダダッ、ダンダン、ダダダダダダダン


戦車の機銃や歩兵の機関銃、小銃から繰り出される弾丸はファランクス部隊を凄まじい勢いで削っていく。

戦車の主砲で数人まるごと吹き飛ばされたりもする。

遂にファランクスの槍が届かぬまま槍部隊は全滅する。

後方や側面の軽歩兵がまばらに突っ込んでくるが焼け石に水でしかなかった。

数が多かった槍部隊よりあっけなく溶けていく。

それらはしまいには恐怖に満ちた顔で逃げ始めた。


更に後方にはある程度の大きさの移動式バリスタが見える。

恐らく本来は先程の巨大生物用の弓砲台なのだろう。

最後の切り札とばかりに押してノロノロ迫ろうとしてくる。

だが今度は戦車が榴弾を放ちバリスタを粉砕する。


戦闘は収束し、ミャウシア軍兵は走り回って捕虜を捕まえる。

戦闘というより虐殺でしかなかった。


「敵さんも考えましたね。ありったけの怪物を差し向けてかまってる隙に肉薄しようなんて」


「確かに。でも結果がこれじゃ敵に同情してしまいそうです」


「効力射で先に追い散らせばここまで酷い戦いにはならなかっただろうに」


「一網打尽にしたいからあえて砲兵隊を使わずガチンコ勝負をしろというのが司令部のお達しだから怖いですよね」


上官たちの冷徹さを少しいぶかしるような前線士官たちの会話が続く。

その頃捕虜を追いかける兵士たちのモラルも低下気味だった。


遂に逃げ切れないと思った泥まみれの敵兵が立ち止まって手を振る。


「両手を上げろ!」


ミャウシア兵が命令する。


だが手を振り続けて必死に叫ぶ。

言語が違うので言葉は通じない。


「おいコイツ何言ってんだ?」


敵兵は更に語気を強めて言葉を叫ぶ。


「何言ってるか分かんねえよ!」


タァァァン


兵士が小銃で撃つと敵兵はぐったりと倒れる。


「あらまあ」


「結局何て言った?」


「ママぼくの駆け足凄かったでしょ!って、ははは」


「はははははは」


「ははは、ウケる」


それを咎めるものは誰もいない。


「小隊に戻るか」


死体を置き去りにして移動しようとした時だった。

すぐそこの林からカサカサ僅かな音がする。

兵士たちは銃をかまえる。


林から出てきたのは馬に乗る6人のミャウシア人だった。

そのうちの一人が声を出す。


「私はミャウシア海軍航空隊所属、フニャン・ニャ・チェイナリン中尉。司令官と話がしたい」



ミャウシア連邦党中央軍事委員会


「なんて無様な結果だ。海軍はミャウシアの恥と知れ!」


「なんだと!あたし達は南国の海でバカンスしているわけじゃないのよ。ザコを蹴散らしているだけのお前たちを基準に語るな!」


「我が軍を侮辱する気か!」


「いいかげんにして!」


一人の声に議場が静かになる。

声の主はミャウシア最高評議委員会書記長のゥーニャだった。


「海軍の偵察計画を承認したのは私よ、文句なら私に言いなさい。今回の失敗は敵の力が我々の予想の遥か上をいっていたことにある。詳しいことがわかるまで軍事力の行使は自粛することとするわ」


「待ってください。それは陸軍もですか?」


「その通りよ」


「我々には何の問題もない、これは海軍の失態でしょう」


「頭でっかちめ、委員長はそこは不問だといっているのよ。貴様らが奴らと遭遇することを懸念しているのがわからんのか」


「ちぃ」


「とにかくこれは決定よ。派遣軍の進軍を停止し、防衛線構築に全力を挙げなさい。会議は以上よ、良き睡眠を」


議場を後にする軍人たち。

陸軍の軍人たちは当然立腹していた。


「何もわからない青二才め」


彼はミャウシア陸軍軍閥の中で最も権力を握るタルル将軍だ。

そのタルル将軍は陸軍省に戻ると別の会議を始めた。

民族や部族、各軍を代表する軍閥将軍たちの実質的な方針決定会議だ。

書記長であるゥーニャの意思はほとんど反映されなかった。


「やはり進軍だろう。東に多少強い敵がいるようだがそれもたかが知れよう」


「我がペイシャル族の精強な軍団をもってすれば粉砕できる」


「いやここは我が部族が...」


陸軍は海軍以上に民族や部族の派閥争いが激しく、異世界召喚の混乱で中央政府の統制が効かなくなりつつあった。

軍閥の将軍たちは陸軍での権力を獲得するために競うように進軍を進め功績を得ようとしていたのだ。


「だがあの小娘はどうする?査問会にかけられたら面倒だよ」


「そこは私が何とかしましょう」


一同が一人を見る。

声を発したのはニー参謀総長だ。


「皆さんの熱意に水を差すようなことが無いよううまく丸め込んでおきます。委員会とのパイプ役は本来私の仕事ですから」


「そうか、では我々は存分に戦わせてもらうぞ。手柄の一部は貴様の取り分だ」


タルル将軍はにやけた表情でニー参謀総長に言う。


密談が終わりみな部屋を後にしたところでニーは部下のニュイ少将と歩きながら会話を始めた。


「軍閥の皆さんの熱意は正直感動しました。せいぜい派手にコケてもらいましょうか」


「ですが綱渡りにもほどがありませんか?失敗すればタルル将軍にもゥーニャ書記にも懲罰を受けるかもしれません」


「成功すれば?」


「確かに見返りは大きいです。タルル将軍は単純ですから操りがいがありますが、問題は敵です。わかっていることが少なすぎます。そんな相手の出方を予想して計画を立てるなど...」


「確かに。でもここは任せてよ、そのために僕は猫をかぶってきたんだから、猫だけにね」


二人は通路を歩いていく。



<<ベルギー首都ブリュッセル>>


イギリス軍とミャウシア軍の戦闘から1週間が過ぎた頃、異世界に召喚されたベルギーの首都ブリュッセルではNATO加盟国とそのオブザーバー国の国防相が各軍の参謀を帯同させて国防会議が開かれていた。


「未だ接触できていない国、特に北大西洋条約機構の主軸であるアメリカが未参加ですが、異世界で初の会議を開きたいと思います。各国とも情報共有し今後の方針に道筋を付けられることを望みます。また会議の内容は同時通訳で各国に届けられます」


「まずはじめに我々が知り得た異世界の情報を出し合いましょう」


これまでに各国で起こったことが資料として回された。


「なかなか衝撃的な内容が多いですな」


「おそらくどれもが事実でしょう。我が国にも得体の知れないモンスターが出現して犠牲者が出ています」


「それどころ我が国の南国境線から先は別の人類が住んでいるのを陸軍が確認しています。」


「・・・」


「それはそうとイギリス軍は先日敵勢力と交戦したと聞きますが、どうなったのですか?何か詳しい情報が得られたのであればぜひお聞かせください」


イギリス「実は南西の大陸国家に侵攻を受けました」


一同が驚く。


イギリス「敵は威力偵察を目的としていたと思われ、威嚇に動じなかった部隊に絞り迎撃しました。結果、艦船2隻を拿捕し56機の航空機を撃墜しました」


「最悪のケースですな。聞く限りやむを得なかったと見えますが、今後もその勢力は敵対行動に出ることが容易に考えられる」


「拿捕、撃墜したのですから当然捕虜も?」


イギリス「無論です。302名を捕虜としました。そのことで皆さんに捕虜から得られた情報を提供したく思います」


資料が渡される。

また一同から驚きの声が聞かれる。


イギリス「最初の項目は彼らの身体的特徴からです。外界と接触がある国は相手がヒトでないことに理解が進んでいると思いますが、その一例です」


「外見はヒトと酷似しているが獣の耳に尻尾、平均身長は140cm、捕虜の7割はメス・・・」


資料には写真が添付されていて、ヒトとは違う生き物だということがよくわかる。

だがこういう生き物は小説などの空想上の話としてしか考えたことはなく誰もがその存在に違和感を覚える。


イギリス「事実です。出生時の男女比率が大きく偏っているとの趣旨の証言がありますし、捕虜は私も見ました。耳や尻尾を自在に動かす様子も見ています。そしてこの間に彼らの言語を言語学者や民俗学者の協力により解明することができました。捕虜が協力的だったのもあります」


参加国の代表たちの話は続く。


「つまり大陸西端にミャウシアという巨大国家が君臨していて、第2次世界大戦レベルの国で当時のアメリカを遥かに超越した国力と軍事力なのはとてつもない脅威だ」


「我が国の長距離偵察機の偵察でもこの国の存在を確認していました。この時レーダー波を逆探知したのでそれなりの国だとはわかっていたがまさかそれほどとは」


「報告書には捕虜から得られた情報からミャウシアの総人口は6億人を数え、資源を自給自足している。軍事力に関しても海軍は大型艦艇を多数保有し、総トン数は1000万トンを優に超える。陸軍も現時点で500万の兵力と数万輌以上の戦車を保有、両軍の航空機は数万機以上にもなる大兵力である、と書いてあるが信じがたい規模だ」


「平時でこれほどの戦力なのか?総力戦になった場合この数倍の兵力に膨れ上がってもおかしくないということか?とても我々では手に負えない兵力だぞ」


ミャウシアの世界は軍拡競争にしのぎを削った後に世界大戦へ突入していた関係から軍備が平時を遥かに上回っていたが、今の時点ではまだその事実は調査中のため報告されていない。

いずれにせよ現状はこの大戦力なのだ。


「アメリカ軍に来てもらわなくては!」


「いやアメリカも我々同様国力と国土を数割失っている。超大国として期待することはできないだろう」


「ではどうするのかね?彼らが本気になれば周辺の中世や近世レベルの国では太刀打ちなんて不可能だ。東進を続けてヨーロッパ諸国がある半島まであっという間だ」


「半島の付け根を絶対防衛線として常備軍を配備させるのはどうでしょうか?」


「鉄のカーテンに比べればマシだが防御線にしても400kmはあるぞ。500万もなだれ込んだら簡単に押し込まれる。冷戦時代のように予備役兵を大量動員できる体制を再構築すべきだ」


「元を正せばイギリスが攻撃しなければ講和を主題に議論できたのだ。迎撃態勢を先に考えなければならない事態を招いた責任は重いと思いますが」


イギリス「では侵攻を許せというのか。出来もしないことを難癖つけられては敵わない」


「暴論です。避けようはなかったでしょう。報告書のイギリスの対応も順序として間違っていない」


「そもそもこれだけの兵力だ、我々を見下して威圧して来るのは時間の問題だと思うがね」


「でしょうな。硬軟織り交ぜた対応しかないでしょう。相手がロシアや中国のように狡猾でないことを祈るばかりです」


「では絶対防衛線を設定し常備軍を配置する案と軍事力を誇示しつつ平和的な外交アプローチを取る方針で議論を進めてもいいでしょうか?」


議長国の提案に大体の国の代表が頷く。

NATOの今後の方針を決める会議は続く。


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