揺れ始める日本2
東京とされる都市の国会議事堂
日本が存在する島に国会議事堂も転移していた。
その国会内の委員会室では転移以降の残存与野党議員が集まって選挙に関する審議が行われていた。
「総理、総選挙を実施するお考えはないのですか?」
「田村内閣総理大臣」
「えー、現在総務省による大規模な住民票の作成と国勢調査を進めており、現時点では有権者の数も正確には把握できていないのです。しかも国や自治体の機能も完全には復旧しておらんのですよ。また、未知の感染症の有無の把握や治安対策の策定も道半ばなのが現状となっており、えー、ですから今の段階で、えー、選挙の日程の検討は行っておりません」
「富川忠雄君」
「しかしですね、総理。本来の日程では来月に衆院選挙が実施されることになってるんです。お分かりだと思いますが憲法上は議員の任期がきっぱり定められているじゃないですか。つまり緊急事態を根拠に選挙を延期することは憲法違反ということですよ、これは。何が言いたいかというと、行政が完全に復旧していなくても選挙の体制が整えばすぐにでも衆院選挙を実施すべきということです。それを総理は憲法違反の理由を根拠に選挙を妨害しているということなんじゃないんですか、総理!」
「田村内閣総理大臣」
国会の状況は野党が緊急事態に対処するための関連法案の審議をボイコットし、予定されていた選挙だけが争点なって論争されていた。
審議が終わり国会を出た首相は車に向かうが、国会の周りの道路は大勢のデモ隊に囲まれていた。
今までの日本であれば政治目的なデモ集会なんだろう思われただろうが、このデモは様相が全く違った。
人々は口々に社会保障を求めるなど貧困対策を主張しているのだ。
というのも経済活動は未だに暖機運転のレベルにあり失業率は目を当てられない状況だった。
貿易に関しても制限付きでエネルギー資源を地球出身の一部の友好国から供給されているだけなので、経済成長にはまだ時間がかかる段階だ。
しかし政治は待ってくれなかった。
車に乗り込もうとする首相を取り囲むようにマスコミが殺到する。
「総理、選挙は予定通り行われるんですか?」
「インフレ対策は実施されないんですか?」
「アメリカと関係が悪化しているというのは本当ですか?」
首相はマスコミを無視して車へ乗り込むと車を走らせる。
数十分後、首相はどこかの料亭で大物政治家と顔を合わせていた。
相手は同じ与党の加内幹事長だった。
「いやぁ、ご苦労だったね」
「ならお前も国会答弁に参加してみたらどうだ?」
「ふふふ、この歳ではさすがに弁が立たんよ、後輩の支援こそがわしの本領だよ」
「本性の間違いじゃないのか?」
「さっきから手厳しいな、まあそれだけストレスのかかる役職だ、気にはしてない。....だが」
少し間が空く。
「忘れないでほしいんだがお前を首相にしてやったのはこのわしだ。
わかっていると思うが天変地異でこの世界に飛ばされたわが党の残存議員で最大派閥はわしの派閥だ。ここでうちの派閥から総裁を出せばその他すべての派閥を敵に回すことになるから君に白羽の矢を立てたんだ。
それなりには我々の要望は聞いてもらうのが筋だと思うんだが、違うかね?」
「ふん、わかっている。
だが俺が言うのもなんだがこの政権はそう長くは続けれかもしれんぞ。
前総理は世界恐慌からの復興政策と大戦回避のための外交、それらの歴史的な失敗という負の遺産を残してこの世界には転移しなかった。
そのうえ例の天変地異の混乱の責任も合わせて残存議員の多い野党に突き上げを食らっている。
しかも国民はそれに呼応して世界恐慌以来の不満のはけ口を我々に求め始める始末だ。
これではスケープゴートもいいところだ。
時間を稼ぐにしても非常事態関連の法令がない以上は野党の要求する総選挙を回避する方法もない。
そんな状況で言い分も何もないだろう?」
「なに、これほどの緊急事態なんだ。
例の緊急事態関連特措法を急ぎ成立させれば、野党も国民も当分の間は反論できずに黙らせられるだろう。
野党とマスコミは憲法違反だとほざくだろうが、なあに、解釈変更という名の天下の宝刀にできんことはない。
であれば選挙対策は特措法の期限が迫ってから考えればいいんだ。
何の問題もない」
「だといいが」
「まあ何はともあれまずは復興政策だ。特にうちの経産大臣の官僚への根回しは自由にさせてもらうが構わんかね?」
「ふん」
「物分かりが良くて助かる」
加内幹事長の要望とはこれから成立させようとしている復興対策関連法案に自分の息をかけた企業を優先して使うよにしろということだ。
異世界への転移事件による混乱から復興するため、公的資金をつぎ込んで再建された各大企業を政府が意見できるちょっとした国営企業とし、それらを中心に官民一体の計画的な経済成長による短期間の復興を目指すプロジェクトが建てられていた。
だが新生与党の加内幹事長はそれを利用して企業からリベートを取って資金的に党内で幅を利かせたいような態度をとっているらしい。
おそらくどこかしらで規正法違反の犯罪が仕組まれていそうだったが新しく総裁に就任した首相の求心力は弱く、反対すれば政局に持ち込むと脅されている手前、どうにもできずにいた。
しかも警察機構の機能が低下していて、再建中の国税も金融も気づいていないようだった。
まさにやりたい放題だ。
更に野党は中身のない復興案批判をしつつ何が何でも衆院選を実施するよう圧力をかけてきていた。
こんな情勢下なので与党の支持層は瓦解し始めており野党の求心力が無視できないレベルに高まっていた。
また追い打ちをかけるように米国との軋轢が表面化してきていた。
先の大戦で日本が全く安全保障に全く関与しなかったことと、田代首相自身が経済の復興のために戦端を開いた東側諸国、特に中国に色目を使っていることに米国は苛立ったいるからだ。
世界大戦までもつれ込んだ両者の溝は決定的だったものの、転移の大混乱は向こうも同じで人民政府関係者はこちら同様にほぼ刷新状態で関係のやり直しの機運は確かにあった。
中国側はアメリカとの争いの仲裁を買って出てくれれば貿易で優遇していいというニュアンスの発言を繰り返している。
しかし判断を誤れば米国の逆燐に触れるだけに下手に動けないでいた。
つまり経済復興はさせたいが肝心の国際政治が酷くデリケートな状態で貿易に手を付けようにも手が付けられないのだ。
しかし、田村首相は実績や国家運営より政局の方がずっと関心がある古いタイプの政治家だったようで、とりあえず幹事長対策だけを念頭に据えるのだった。
幹事長との会食を終えた首相は官邸の執務室に戻ってきた。
首相は禁煙室にもかかわらずおもむろにタバコを取り出すとぷかぷかと吸い始める。
そんな中、部屋に設置された固定電話が鳴りだす。
首相は仕方なくタバコを灰皿において受話器を取った。
「ああ、私だ。...すぐ行く」
首相は執務室を出た。
日本動乱編、改変のため削除再投稿してます。
本当にすいません。
ここまでは改変が少ないですが今後は更に試行錯誤すると思います。
本当にすいません。
今までで一番話を考えるのが難しいです。
やったらストレス多い話になりそうだし。
かといって動乱編をやらないと日本が空気だし自衛隊を今後大きく動かす動機が薄っぺらくなりそうな気がするというか、日本が主体性を持って動くにはその手の教訓があったほうが良さそうと思ったのでいろいろ悩みます。
ホントにすいません。