アメリカの事情
アメリカ暫定政府
現時点でアメリカ合衆国大統領継承権一位のカーニー元下院議長、現大統領代行はホワイトハウスに代わる暫定政府庁舎で書類にサインを行っていた。
大統領はデスクに上に盛られた書類に目をやる。
「非常事態令は延長するとしてこの膨大な関連法案通過にようやく目処が付くわけか。後はラッセル議員に投げてしまおう」
「そのほうがいいでしょう。全部に目を通すのはいささかオーバーワークなってしまいます」
「となると次にて手を付けるのはやはり・・・」
「安全保障とエネルギー資源です。指針を決めていただかないと近いうちに行う施政方針演説の中身が殻になります」
「そうだな。安全保障会議を招集する。全員呼んでくれ。」
「わかりました」
その後安全保障会議が密室で行われることになる。
「国防長官代行、現在の周辺国の状況を説明してください。逐一報告は受けていましたがこの度正式な対応を決めるために詳しく分析することにしました」
安全保障担当臨時主席補佐官は淡々と司会を務める。
「はい。まず我が軍の配備状況から・・・」
国防長官代行は説明する。
「・・・であります。次に周辺国の状況ですがここから東北3000km先にアジア諸国の領域があり、その中間点はオセアニアの住民が住む長大な群島があります。情報によると各国も混乱を収束させているようですが、与党などで内紛が勃発し政治空白が続いている国もあるようです。その他の各国とも無線通信を確立し同様の状況であることを確認しています」
「その中で特に日本に関してですが、非常事態に関する法律の整備が不十分なことと首相代理候補がほぼ全滅に等しく継承順位下位の長官の指導力不足で党首選から始めている有様で、追い打ちをかけるように野党の妨害で何一つ前に進まない事態に陥っているようです」
「我が国に影響はありそうかね?」
「今のところ影響はありません。しかし安全保障上好ましくはないのでいずれ何らかの形で影響が顕在化するはずです。現在、大使館を通じて与党幹部と接触して情報収集を続けるよう手配中です」
「また、ヨーロッパに関してですがミャウシアという未知の国家と交戦状態に入ったようです。現在、我が軍の欧州軍残存部隊には待機を命じておりますが相手の軍の規模が凄まじく最悪の事態を想定して欧州各国が我が国に支援を申し出て入ります。ここは欧州軍に戦闘準備を命じていつでも動けるようにすべきかと。また航路開拓の実施を早めたほうがよろしいでしょう」
「そうか。ではそうしてくれ。それと中国とロシアはどうかね?我々同様にこちらの世界に転移していると聞くが...」
「それですが大使館からは大混乱以外の大した情報は入っていません。現状ではヒューミントもシギントも機能不全ですので」
「まあ、そうなるだろうな。世界大戦をやった後だ、出方を見極めようとも思ったがおそらくは向こうも大混乱なんじゃないかとは察していたよ」
「はい、軍、情報局の無線傍受でもそれを裏付けています」
「ではしばらくは偵察と情報交換だけに絞って刺激は避けるとしよう」
その後も安全保障の話が続き、国家運営の話に移った。
国務長官代行が状況説明する。
「次にエネルギー資源の問題です。エネルギー長官代行、お願いします」
「はい化石燃料に関しては、現在この世界に一緒に転移したと見られるリグから石油やガスが産出可能である様子で生産が進められていますが、調査によってその埋蔵量はそこまで多くないことがわかっています。また油田、ガス田はかなり浅く、その下は天然の岩盤と見られます」
「天然の岩盤?」
「はい。この星の本来の地殻と考えられます。どうやら我々は地殻の一部ごと剥ぎ取られてこの世界に連れてこられたようです。」
「なんと」
全員がどよめく。
「現在、石油会社や学術団からなる調査団を作り資源調査を開始していて、他の団体からも同様の報告が上がっています。少し話がそれましたが、石炭も石炭層が地上に露出した場所から露天掘りしていますが層が浅く狭いので埋蔵量に限界があります。シェールガスにいたってはほぼ絶望的です。これらの資源は経済が回復し、消費を増やせばそこまで長続きしないかもしれません。そろそろ外界と接触し、今後の展望に道筋をつけてもよろしいのではないでしょうか。大陸に資源があるかは別ですが」
カーニー大統領は頭を抱える。
大陸と接触すべきかまだ悩んでいた。
軍からの報告によれば大陸は北と西に2つあり、知的生命体が文明を築いているそうだ。
正確なことはわかっていないが文明レベルは中世以前の水準だという。
今も国内のことで手いっぱいで余り相手にしていなかったが、そろそろ対応を考える頃合いなのだろうとも思えた。
「大陸の調査を行うにあたって専門家の意見は?」
そこで担当のスタッフと共に安全保障担当臨時主席補佐官が説明する。
「先日に述べた通り西にある大陸にはごく小規模な都市が点在している以外は何もわかっていませんのがここは軍による上陸作戦を実施し、万全の態勢で臨むべきかと考えています。主権の侵害という問題も今回の非常事態を勘案すれば妥当性は十分あります。もちろんこちらが力を誇示すれば相応の摩擦は考えられますがそれは対応次第の話なので何よりも今回は安全に重きを置くべきでしょう。防疫スタッフや各分野の調査・対応スタッフの人選はすでに行われています」
「うーむ。ではその形で進めてもらって結構だ。○○党の反発が予想されるがまあいいだろう。上下両院はこちらが抑えているうえに非常事態の情勢下なら支持率への影響も軽微だろう」
「では国家安全保障局と専門スタッフとでプランを検討します」
「統合参謀本部長代理、やってくれ」
「わかりました」
ここで統合参謀本部長代理のアーノルド空軍大将が発言する。
そこでバトンタッチする様に国防長官が大統領に提案を行う。
「大統領、国防総省から提案があります」
「なんだね?」
「現在陸軍省と海軍省では低強度紛争に対応する部隊の臨時再編を行う計画案を検討しています。ぜひ計画の承認を」
「わかった、追認しよう。国防長官、後で詳しい報告書を」
「わかりました」
こうして国家安全保障会議は何時間も続き、様々な決定が行われた。
これらは翌月の施政方針演説で発表され実施されることになったが事態はそれよりずっと早く動き続ける。