空中艦隊2
フニャン、アーニャンの作中の呼称を苗字から名前に変更しました。
それに伴いアーニャンのフルネームをアーニャン・ミラクリスからアーニャン・ミラベルへ変更しました。
またミンクスのフルネームも作中に一切書いてありませんでしたが、フルネームはミンクス・アナスターニャです。
設定の補足の項目を猫の国の内戦の後に移動してイメージにかなり近いキャラ図追加しました。
本当に申し訳ありません。
アルフェリア帝国首都近郊
先の戦いを終えた空中艦隊が海岸線の上空を進み続けていると遠方に古くて優美な建築様式の建物で構成された古都のような姿の都市が見えてきた。
見た目はギリシャのアテネのようでもあり都市の中心に大きな宮殿がそびえ立っていた。
ここは南半球にある大陸の北岸域の国であり、この星に存在する巨大な内海の東端側に面している。
この内海は幅が1万km以上あり西端側はミャウシアとも面していた。
大陸の西側の島にアメリカが転移していた。
「軍港まで距離10」
「速力を落とせ、係留フック準備」
艦隊が速力を落とし帰港の準備に入り始めた。
やがて空中艦隊の母港がすぐそこまで近づいてくる。
「取り舵4度」
「前進微速のまま定針」
空中軍艦から宙ぶらりんの鎖が垂れてきた。
鎖の先端は錨などではなくフックのような形状の止め金具がついている。
この艦はこれを使って係留されるようだ。
「まもなくタッチします」
ガシャン。
船体に振動が走った。
係留フックが軍港の係留装置に掛かり、がっしりと空中軍艦をキャッチしたのだ。
今度は係留フックが巻き取られ始め、空中軍艦が高度を落としていく。
そしてほとんど巻き取られたところで空中軍艦の船体は固定具に着底し軍港で控えていた要員がしっかり固定する作業を始めた。
司令官や艦長など階級の高い士官たちが掛けられた舷梯を下り下船していく。
その先には位の高そうな人物たちが待ち構えていた。
「敵の動きはどうだ?アルグスタス」
軍服というよりも民族服と言っていいような服装の高官は艦隊司令官であるアルグスタスに少し高圧的に質問した。
「此れはグレイナバル執政官ではありませんか。執政官自ら出向かれるとは珍しい。そうですな、ドゥーロス軍なら尻尾を巻いて退却しました。当分強気には出ないでしょう」
アルグスタスはセリフの丁寧さに反して上官が相手にもかかわらず作り笑顔もせずに冷めた表情で淡々と答えた。
「ふん。相も変わらずの態度には感服すら覚えるぞ。平民上がりだったらかわいがってやったものをな」
「生憎ですが世間話は苦手でして」
グレゴリオはそう言って執政官の嫌味を受け流した。
「それより執政官殿がお越しになるからにはそれなりの理由がお有りでしょう。皇帝陛下の勅命では?」
「そうだ。陛下は全軍を上げて外征事業に着手することを決められた」
「...いささか荒み足ですがよい知らせがあったのでしょうな」
「ああ、貴様と同時に出航していた調査部隊が大陸南部から戻ってきた」
「...」
「敵らしい敵は一切いない未開の土地だったそうだ。いるのは獣のような耳を生やした人間、創作に出てくるような亜人という奴だな」
「なるほど。新天地は確保したということですか。そうせざるを得ないということはケイホーンもこの世界に?」
「ああ、あそこに見える雲はすべてケイホーンのものと判明した。どうやら異世界に飛ばされたのは厄介者も同じらしい。ふんぞり返るように居座っている。おそらく今まで同様に加速的に肥大化するだろう」
執政官とグレゴリオは少し高台にある軍港から海の水平線の先を見る。
そこには異界いっぱいの雲が広がっていて海に向かって風が吹いていた。
二人の後ろでは舷梯で下船する乗員たちが列をなしていたがその中に先の戦闘で飛行隊のリーダーだった少年の姿もあった。
少年はまるで列に紛れるように目立たず歩いていたがグレゴリオはそれを見逃さなかった。
「ティオン、どこへ行く?」
「はは、バレちゃったか」
「お前も貴族のはしくれだ。グレイナバル執政官にご挨拶しろ」
ティオンは少しめんどくさそうに挨拶する。
「どうもこんにちは、ティオン・アルグスタスです」
「...ああ」
「...じゃあ、僕はこれで。おじさんたちの難しい話に水を差すと悪いからね」
「ティオン」
そそくさと逃げようとしたティオンをグレゴリオが呼び止めた。
ティオンは振り返り二人を見た。
「お前は難しい話をどう思う?」
「...」
ティオンは表情を鋭くした後、質問に答えた。
「さあね、僕は政治に興味ないよ。でも争いは争いを呼ぶって言うしね。飛ぶ機会があるなら僕は歓迎するよ」
ティオンはそう言ってその場を立ち去る。
「あの通り掴みどころが無い奴でして」
「ふん、お前が言えたことではないな」
執政官はため息をついた後、本題を告げる。
「グレゴリオ・アルグスタス、大陸遠征軍の指揮下に入り南方調査に出向け。遠征軍の指揮官は経験の浅い貴族ばかりだ。貴様にはと思ったがあいにくたたき上げの貴族軍人は貴様しかおらんのでな。後は任せたぞ」
「承知しました」
執政官は護衛官たちを引き連れその場を後にする。
副官の女性は終始無言だったがここで口を開く。
「再出撃の準備に取り掛かります」
「任せた」
グレゴリオは短く副官に指示を出すと歩き出した。
副官の女性は歩き去る司令官を見送ると視線を海の彼方の雲に向けた。
「また嵐が来そうですね」
女性は雲を見ながらそうつぶやいた。
彼らもまた地球人同様に他の世界からこの世界に連れてこられた人々だった。
彼らの最大の特徴は何といっても空中浮遊を可能とする動力機関を持っていることだ。
空中軍艦も飛行ユニットもその動力機関を持っていて空中浮遊を可能としていた。
これを彼らはシテナロン機関と呼んでいるがその原理は彼ら自身もほとんどはわかっていない。
遥か古代の遺物を参考に作っていて特定の機構と動作を再現すると無から周囲の物質を押し出す推力や重力に反する浮力を得たりすることができるという具合の経験則を元にしているからだ。
また彼らは抱えている特殊な事情を抱えている。
それはケイホーンという異常現象だった。
彼らの世界にはケイホーンという巨大な嵐が年中通して同じ場所に居座っていたことだ。
その規模と威力は凄まじく、嵐の深部へ近づくにつれシテナロン機関も動作不良を起こす特異性を持っているため、最深部に到達できた者は今のところ誰一人いなかった。
そしてケイホーンは年を追うごとに肥大化を続けていて彼らの生活圏まで侵食し始めていた。
そのケイホーンが彼らと一緒にこの世界に転移してきていたのだ。
それが彼らの現状だった。
下船したティオンは軍港内の見晴らしの良い場所に腰を据えると空を眺めていた。
「異世界も風が吹くし雨も降るんだね。僕らの世界と案外変わらないけどあんな星はなかったな」
視線の先には青空に薄っすらと月より大きな惑星が浮かんでいた。
「この世界には何があるのか、期待できそう」
そう言った後だった。
「さっさと歩け!」
怒鳴り声が下から聞こえてきた。
ティオンは声の方向を見た。
そこには数人の列とそれを連行する兵士の姿があった。
連行されているのはウサギのような耳と尻尾を生やした亜人の女性たちだった。
「...」
ティオンはそれをじっと見ていた。
そんな中連行されていた最後尾の女性が上方をチラッと見た時、視線がティオンを捉えた。
二人の目線が数秒合い続き互いの顔をしっかりと認識した。
そして女性は兵士に押されてみるのを止めて何事もなかったように歩き出した。
ティオンはしばらく連行される様子を見た後、一言呟く。
「外の世界は広そうだね」