暴動
アメリカが転移したと思われる島のとある大都市
町の路上には至る所で人だかりが発生していた。
そして人々は異常なまでの殺気を帯びている。
「我々は州軍です。暴力行為を止め解散しなさい。これよりこの区画を封鎖する。直ちに退去しなさい!」
殺気立った人々の行く手を遮るように州軍部隊が汎用機動車両であるハンヴィーをバリケードのように駐車して封鎖線を構築し、拡声器で暴徒に解散を迫る。
ハンヴィーの銃架にはM240機関銃やミニミ機関銃が取り付けられM2ブローニングなどの重機関銃を取り付けてるのは皆無だ。
「軍が出しゃばるんじゃねえええ!」
「出て行けええ!」
「警察を叩きのめしてやる!」
有色人種多めの暴徒集団は放火や略奪、挙句の果てに暴行事件などを働きまくり、世紀末のような状態を呈していた。
封鎖線に陣取る州兵部隊に投石が相次ぐ。
都市全体がそうであるわけではなく低所得者や有色人種が多い地区で多発していて、警察はこの件に対処していない。
なぜなら各警察署は暴徒に囲まれていて出るに出られない状況に追い込まれていたからだった。
そのためほぼ全域が無法地帯と化していた。
原因は相次ぐ警官による黒人射殺事件に対する抗議運動で、それが異世界転移の混乱と合わさっていろんな人を巻き込んだ警察では手が付けられないレベルの暴動に発展してしまったのだ。
後にこの事件は第二次ロサンゼルス暴動と呼ばれ、この暴動を機に転移したアメリカが存在する”島”全土に騒乱が飛び火した。
M2A2ブラットレー歩兵戦闘車の車列が市街の通りを高速で走り抜けていく。
それらの車列に追い抜かれるようにアレン・ベイカー中尉はM16小銃を抱えて市街を歩いていた。
先日の転移直後の大陸での戦闘からすぐにアレンたちに本国への帰還命令が出て国に戻っていた。
アレンは部隊と共に路地に入ると分かりやすい標的を発見し小銃を構える。
「動くなああ!持っているもの地面に置いて両手を頭の後ろに組め!早くしろ!」
標的は倉庫のシャッターに大穴を開け、そこから物資をピックアップトラックに積み込んでいた。
アレンはどうせトラックも強奪品だろうと決めつける。
標的は海兵隊の存在に驚き、指示された通りの行動をとった。
そしてすぐに兵士に拘束されて手錠をかけられる。
「〇ォールアウトみたいっすね」
「アレ核戦争後の話じゃん。あそこまで〇ッドマックスじみてないからまだいいよ」
アレンは部下とそんな話をする。
だがよくよく頭で考えてみると数日前核戦争やったばっかじゃんとデジャブを感じてしまうのだった。
そんな時離れたから銃声が何発も轟く。
アレンは部下たちに直ぐ指示を出す。
「ブラボーは左から回れ!アルファは右だ!」
指揮官であるアレンの号令に即座に反応した兵士たちは小銃を構えながら小走りで1ブロック裏手の路地に急行する。
そこではギャングなのか武装自警団なのかよくわからない勢力不明同士で銃撃戦に発展していた。
海兵隊は路地に駐車してあった乗用車を盾に銃を構える。
「海兵隊だ!直ちに武器を捨てて表へ出ろ!」
アレンはそう呼びかけたが嫌な予感がしてきた。
その予感は現実となる。
タタタタン!
銃声と共に盾にした乗用車にいくつもの穴が瞬時に空く。
「クソ、マジで撃ってきた!しかも全員フルオートかよ!」
次々銃撃が浴びせられる。
アメリカ国内で出回るアサルトライフルは1986年のフルオートウェポン規制法によりセミオートのみとなっている。
つまり相手は密輸銃か違法改造銃か合法改造銃のどちらかだ。
「撃ち方始め!」
とは言ったものの数でも性能でも練度でも圧倒している兵隊に勝てるはずもなく応射してきた犯人は軒並み射殺された。
隠れていた輩も銃を投げたり置いたりして両手を組んで投降する。
だが仲間の兵士も一人撃たれて負傷し搬送された。
その様子をハンヴィーに寄りかかりながらアレンは見送る。
「隊長、相手はギャングと銃器マニアの混ざりものでした」
「はあ?なんじゃそりゃ。普通相いれない連中だろ」
「もしかしたら自分たちの世界を作ろうとでもしたんじゃないですか?こんな天変地異で政府がなくなったと思い込んでゲーム感覚で国建てようなんてありそうじゃないですか」
「ああ、そんなのもありなんだな。世も末だ」
「ですよね」
そこへハンヴィーに装備されている無線機からコールが入る。
「C中隊、聞こえるか?6番街をすべて封鎖することになった。至急、急行してバリケードを構築せよ。オーバー」
アレンは無線を取ると返答する。
「こちらC中隊。了解した。直ちに向かう、オーバー」
「移動開始する!」
アレンがそういうと兵士たちは続々とハンヴィーに乗り込み銃架から周囲に機関銃を向け、車列は動き始めた。