治安出動・災害派遣・国民保護等派遣
陸上自衛隊のとある駐屯地
駐屯地の門を続々と車両の列が通過していく。
装甲車両はほとんどなく、高機動車や73式の各トラックなどの輸送車がメインだった。
荷台には迷彩服を着て89式小銃を抱える陸上自衛官達の姿があった。
その中の一人である有持浩二准陸尉は仲間から話しかけられていた。
「なあ、昨日のあの光っていったい何だったんだろうな?」
「知るかよ」
「だよな。誰も聞いてないの?ここがどこなのか?」
同乗する他の自衛官たちも加わる。
「知らね」
「聞いてない」
「やっぱ異世界なのここ?」
誰も現状正確に把握している者はいなかった。
曇りが続いていたため太陽が挿げ変わったことにも気づいていない。
「そもそも何の通達も受けないしな。災害派遣と治安出動の同時発令だってとりあえず情報収集から始める手探りだし」
「そもそも駐屯地の外ってどうなってんの?」
「見た感じ町も畑も見えるけど明らかに地形が違うとしか」
「結局誰も知らないのか」
トラックの後ろから道路の標識が見える。
駐屯地のあった町の名前が映っているが次の標識はこことは明らかに別の地名が書いてある。
完全とは言わないがかなりランダムに配置されているのが見て取れた。
標識の意味がない。
「お、市街地に入った」
車列が見知らぬ街に入っていく。
すると歩道に人だかりができていた。
時間を置かず車列は空き地に入っていくと駐車を始めた。
「降車、降りろ!」
自衛官たちがトラックから続々と降りていくと直ぐに整列し点呼し、終わると指揮官が自衛官たちに手短に話す。
「これより現場での災害救助、治安維持活動を行う。各部隊は本部の指示にしたふがって市街各所に展開することになるので行動計画は随時更新していく。では各部隊同開始」
自衛官たちが分隊、小隊ごとにどんどん散らばっていった。
町の至る所で張り上がる声が聞こえ、道端には警察官の姿も見られた。
「有持、いきなりモンスターなんて出ないよな?」
「さあな、映画とかラノベならあり得るけど見た感じ皆きょどってるだけで逃げ惑う人なんかいないぞ」
「じゃあいきなりバクりなんてことはなさそうだな」
有持たちの分隊は住宅街に入っていく。
するとここで住民が接触してきた。
「なあ、あんたたち自衛隊だよな?」
「そうです。○○駐屯地から出動してきました。何かお困りですか?」
「困るも何もない。ここは一体どこなんだ?」
いきなり命題に入るが答えは一切持ち合わせていない。
「申し訳ありません。それについては現在調査中でして今お話しできることがないんですよ」
「そうか、そうだよな。でも家族の安否が知りたいんだ、どうしたらいい?」
「そうですね...」
有持は無線を取り出した。
「本部、こちら第2小隊。住民と接触。安否情報についての問い合わせがあった。情報を照会できる場所があるか教えてほしい。送れ」
「第2小隊、こちら本部だ。先ほど県警と自治体が市街北西の体育館とグラウンドに避難所を設置した。そちらへ誘導しろ。送れ」
「了解」
避難所の位置を教えると住民はそそくさとそちらへ歩き始めた。
道中はしばらくそんなパターンばかりが続く。
「これなら災害派遣よりは楽そうだな。泥水に足を突っ込んだりクソ重いがれきの掃除よりどうってことない」
「ならいいけど」
有持はそんな簡単に終わるとは思えなかった。
その後分隊は市街を歩き続け担当区域の調査が完了し、腰かけられるところで昼食を取ろうかという時だった。
っっっ!!!
分隊の仲間が声をかける。
「なんかあっちから怒鳴り声が聞こえるんですけど、どうしますか?」
「ほんとだ。は-、治安維持活動とかアドリブでいいんだよな?...」
そういいながら有持たちの分隊は現場に向かう。
建物で視界が切れていたため曲がり角を進むと直ぐ現場に出たので騒動の当事者たちはいきなり現れた自衛隊の姿に驚く。
「災害派遣できました自衛隊です。すいませんが、何かお困りごとでもありますか?」
有持は唖然としている市民に切り出すように質問する。
すると口論を吹っ掛けていたとみられるグループが先に陳述し始めた。
「ちょうどよかった。自衛隊って犯罪者を逮捕できるでしょ?こいつら逮捕してくれよ!」
有持は心の中でうわああと思ってしまう。
一番めんどくさいパターンだと確信した。
「この人たちが何かしたんですか?」
「こいつらが勘違いしているだけだ!」
「とぼけるな!お前らが持ってるのは何なんだ?!」
それを聞いた有持は容疑がかかっている人たちを見た。
まず人相はあまりよさそうじゃなく若者中心のグループだ。
そして極めつけはパソコンとかテレビをワゴン車に詰める作業をしていて、皆が高価そうなのを手に持っている。
はっきり言ってしまえばこうだ。
どう見ても窃盗です、本当にありがとうございました。
「ちょっと職質させてもらっていいかな?」
「そういうのは警察官しかできないんだろ?まさかその銃で脅す気か?」
いきなり容疑者たちが殺気立ち始める。
わかりやすいなーと思いながら続けた。
「いや今町中に展開している自衛官はみんな警察権を持っていて、いうなれば代理警察官なんで。で、職質いい?」
「ダメに決まってんだろ。関係ねえって言ってんだろうが、ああ?」
警察24時か。
「答えないならこのまま事情聴取で連行しますよ。いいんですね?」
「自衛隊がこんなことしていいのかよ!ほんと軍隊ってろくでもねえ奴ばっかだなあ!」
有持はいよいよイラついてきてしまったので強硬手段に出た。
「しょうがない。全員、公務執行妨害で拘束します」
そういうと自衛官たちが容疑者たちを取り囲み始める。
しかし手錠の類はないので捕まえてもすぐ払われて押し問答になるだけで暴力沙汰の様相を呈し始めた。
そして自衛官たちが89式小銃の銃底で殴る構えにいたったあたりで有持はシグP220 9㎜拳銃を取り出して空に向けて発砲した。
するとさすがの窃盗犯たちは観念したのか抵抗を止めた。
身柄の確保を終えたあたりで周辺の住民も集まり始めたので退散する様に窃盗犯を連れていく有持はため息しか出なかった。