出会い
「あと少しで城壁が崩れるぞおお!」
軍勢は集めた大砲で城壁を一気に崩しにかかる。
すべての城壁が頑丈なわけではない。
戦いでもろくなったり薄い部分はあるので、そこを執拗に狙い一点突破を図る。
それと同時に手薄になった場所からも侵入経路を構築する二段構えだ。
戦いが一気に激化する。
タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦 「セント・ジョーンズ」
「司令部からです。暴徒の鎮圧するため強襲部隊を支援せよとのことです」
「よし、明確な回答が貰えてホッとした。艦砲射撃用意!」
UH-1Yヴェノムの編隊
「いよいよ目的地が見えたぞ。全員準備はいいな?」
「サー、イエッ、サー!」
城塞
壁がついに崩落し歩いて渡れる橋頭保が出来上がる。
うおおおおおお!
軍勢の兵士たちが雪崩うつように侵入を始める。
守備兵たちは集中攻撃を加えるが抑えきれなかった。
そのまま一気に押しつぶされるかに見えた。
ドオオオン!
城壁付近で爆発が起こる。
それは「セント・ジョーンズ」からの艦砲射撃だった。
タイコンデロガ級巡洋艦は主砲にMk.45が2門搭載されており、砲撃能力は高い。
4km以上離れたところからの砲撃なので狙って撃っても誤差は大きいため精密射撃ではなく制圧射撃で軍勢の城内侵入を遅らせるつもりだった。
ドオオオン、カラン!
ドオオオン、カラン!
ドオオオン、カラン!
ドオオオン、カラン!
大砲から3秒間隔で砲弾が発射される。
砲撃の度、大きな薬莢が主砲の付け根の排出口から吐き出されカランと音を立てた。
軍勢は大混乱に陥り城内への進入が中断してしまう。
「馬鹿な!あんな常識外れの砲撃があるか!」
軍勢の指揮官は新手の敵の戦闘力を甘く見すぎてしまったことを自覚する。
おかげで城壁周辺の自軍は混乱による無秩序化で戦いどころではなくなってしまっている。
「伝令を出せ、兵力を北門に集中させろ!」
指揮官は米艦から見て城塞のある山によって死角になってる北側から攻めようと考えた。
軍勢はチリジリになりながらも北側へスライドするように移動を始めた。
だが仰角を変えれば死角でも砲撃可能なので根本的な解決にはなっていないが、地図もなく観測機もない彼らでは砲撃困難だった。
軍勢は北側へ移動すると先ほどの攻撃で損失してしまった大砲の代わりに梯子や移動櫓などで城壁への進入を果たし城門をこじ開けることに成功する。
戦いがいよいよ城内へと移る。
城内
ハクエンは天守のような場所から城壁の様子をうかがっていた。
敵兵が城門から城壁内の居住街へなだれ込んでいく。
まだ居住街に残る者もいるため彼らが敵兵の餌食になる。
女子供も関係なく切り殺されていく惨状にハクエンは絶句する。
そこへ指揮官のコウがハクエンのもとに駆け付ける
「はぁ、はぁ、敵は真っ直ぐここへ来ます。船の用意は済ませましたのでお急ぎください!」
その言葉に頷こうかハクエンは迷った。
だが今までの逃避行と先ほど見たものが頭をよぎり、ハクエンは決断したのだった。
「いらないわ」
「何をおっしゃるんですか、殿下、いけません!?」
「私はここで果てるわ。敗残兵をまとめてあなたが船で脱出なさい」
「.....責任を感じておいでで?」
「...かもしれない」
「なら私も残ります」
「ばっ、何を言っているのあなた!?さっさと...」
「私は殿下に尽くすために戦ってきました。他の兵だって皆殿下に尽くしたいがために残っています。殿下がそうお望みならお供するのが我らのお役目です、殿下」
「...」
「そう、下世話なマネして悪かったわ」
ハクエンは真剣な表情を少し崩してちょっとニコリとする。
「あなた、オロオロするだけが取り柄じゃないのね。見直したわ。でも逃げるつもりはない。我がままだけど私もあなた達に付き合わせてちょうだい」
「そんな...いいんですか?」
「ええ、それに...」
ドン、ドン、ドン!
下のほうでは大きな丸太を持った数人の兵士が城の門を叩き破ろうとしていた。
「もう逃げる時間を使ってしまったみたいだし。別にいいでしょ?」
「...殿下の御心のままに」
「うむ」
ハクエンの決心が固めその時だった。
遠くから何か音がする。
ハクエンとコウはすぐに狐耳を動かしてあたりを見回す。
低音すぎて音源が特定できないが少しして城が取り囲む山の裏側から音がしているのだと気づく。
「何?」
ハクエンは何なのか全く分からないが音はどんどん大きくなりそれがババババと爆音を轟かせていることを察した。
そして次の瞬間山肌の裏からUH-1Yベノム 輸送ヘリの編隊が姿を現した。
見たことがない異形の存在にハクエンは息をのむ。
UH-1Yの編隊
「暴徒が町中に入ってきているぞ」
「なら命令通り、攻撃開始だ。暴徒を制圧して一般人を保護する!」
「撃ち方始め!」
ダダダダダダダ!
ブローーーーーーー!
パシュン、パシュン!
UH-1Yの1機からガンナーがM2ブローニング重機関銃とM134ミニガンであたりを機銃掃射し、めぼしい軍勢の兵士をなぎ倒していく。
同時にUH-1Yのパイロットも狙いを定めてハイドラ70ロケット弾で攻撃を加える。
「ば、化け物だああ!」
「引け、引けえええ!」
「逃げるな馬鹿者おおお!」
ヘリが空から死を振りまき軍勢はまたしても大混乱に陥る。
兵士たちは次々7.62㎜NATO弾と12.7㎜NATO弾、爆片で被弾して倒れ、短時間であたりが屍だらけになってしまった。
一方、城壁周辺では2機のAH-1Zバイパー 攻撃ヘリが20mm M197機関砲やハイドラ70ロケット弾、ヘルファイア対戦車ミサイルで軍勢の主力に猛攻を加えていた。
射撃手がグラスコックピットのモニターで移動櫓や人だかりを確認し、それらに対してヘルファイアミサイルを発射する。
シュコン!
発射して数秒後に目標は爆炎に包まれ吹き飛ばされた。
さらにガトリングの20㎜機関砲で攻撃を加えた後、ハイドラを発射して追い打ちをかける。
上空を複数のヘリが飛び交い、ローター音と砲撃音がこだました。
その様子をハクエンは見入っていた。
ハクエンはヘリコプターの圧倒的な戦闘力に驚嘆する。
しかも自分たちではなく敵を攻撃する様子から敵ではないという期待が沸き上がった。
もしかしたら援軍なのかもしれないと。
だがそんな中、城内に押し入ってきた敵兵がついに甕城の楼閣まで達してしまう。
ハクエンのもとに敵兵が迫る。
コウは剣を抜き敵兵の一人を一太刀で切り伏せた。
コウの部下も応戦する。
ハクエンは窮地に陥った。
それをヘリからアレンが見ていた。
「城の上部で戦闘が起こってるぞ。降下する。準備いいな?」
懸垂下降が行われた。
楼閣周辺の城壁にロープが下ろされ海兵隊兵士たちが次々城壁の上に降下を始める。
城壁にも敵兵が上がり始めていたので早速戦闘が勃発する。
タタタタン!
タアン!タンタンタン!
アレンたちは楼閣に向けて移動する途中、遭遇する敵を射撃して即仕留めていく。
軍勢の身なりと守備側の身なりは異なっていたので見分けるのは簡単だった。
ちなみにアレンたちの武装は意外にもM16A4小銃が多かった。
どちらかというと一般部隊だったのでフルサイズ小銃のM16A4をメインで装備していた。
今回は強襲可能な部隊がアレンたちだけという状態だったから任務に就いただけなのだ。
軍勢の兵士は音がすると味方が一瞬でなぎ倒される状況を見て士気が底をついて怖気づいて逃亡するものが続出する。
アレンたちは楼閣の下まで来ると扉の脇に集まる。
そして扉があくことを確認して中に手榴弾を投げ込む。
爆発音がした直後アレンの部隊は中へ突入した。
待ち構えていた敵部隊は手榴弾によって負傷者と混乱が生じ応戦するどころではない。
それを畳みかけるようにアレンの部隊は銃撃して制圧する。
この戦術はCQBという市街戦や屋内戦の基本戦術であり、原型は第二次世界大戦最大の市街戦となったスターリングラード攻防戦でソ連軍の〇シーリー・チュイコフ中将が編み出した戦術が基礎となっている。
下の階で爆音や銃声が轟くも楼閣では軍勢がハクエンたちを取り囲み押しつぶそうとしていた。
コウはかなりボロボロになり部下たちはほとんど死んでいた。
一旦間を開けていた敵兵たちは一気に襲い掛かる。
そしてコウたちを抜いてハクエンに迫る敵兵が現れる。
ハクエンは仲間の骸から剣を拾い太刀を食い止める。
そこから敵兵の剣を最小の力で剣先を反らしその隙に一気に敵兵ののど元を切って倒して見せた。
コウはそれを意外そうな目で見る。
「...はぁ、はぁ、兄様が押し付けた稽古も、無駄じゃなかったようね...」
だがスタミナをかなり使ってしまい次はまともに対応するのは無理だと自覚する。
コウが押されて下がるとハクエンと二人で楼閣の一角に押し込まれ包囲される形になる。
ここでハクエンはついに観念したように少し安らかな表情をとる。
「コウ、ここまでついてきてくれて本当にありがとう」
「何をおっしゃいますか、殿下」
「ふふ...」
ハクエンは少しだけ笑った後、深呼吸して大声を上げる。
「聞けえ!我こそは慧王皇帝の娘、ミョウハクエン!兵どもよ、富と名声が欲しくば首を打ち取って名を挙げてみせよ!我は戦わずしてこの首を渡す気にあらず!」
最後の最後で気高く強がって見せる。
だが内心は怖くて怖くて仕方なかった。
自分でもよくわからなくなって、諦めや恐怖、生きたいという感情がごっちゃんごっちゃんになているのだった。
ハクエンが言い放った後敵兵たちが大声を出して走り出した。
ハクエン目を瞑ってしまう。
そこへ部屋に円筒状の筒が飛んできて大きな音と強烈な光を放った。
パアアァァァン!
あたりが光に包まれ全員の視界が奪われる。
ハクエンは目を瞑った後で無数の爆音が轟く状況が怖くて無意識に尻もちついてしまう。
しかし途中で細くしていた眼を見開いてあたりを見回すと、そこには銃ようなものを持って爆音と閃光を放って敵兵をなぎ倒す者たちの姿があった。
ハクエンの手前にいた敵兵が倒れ全滅したところで白茶色の武具のような服装をした一群の一人が自分によって来た。
近寄ってきたのはアレンであり、しゃがんでそっとハクエンに手を差し伸べた。
ハクエンは気が動転していてアレンをぼーっと見ていたが落ち着きを取り戻すとあることを思い出し、差し伸べられた手を手に取る。
そしてハクエンは言った。
「......待っていました。あなたが運命なのですね...」
アレンは無言のままハクエンを引っ張り立ち上がらせた。
ハクエンは続ける。
「私の名はミョウハクエン。見知らぬ者よ、我はこの身を、持てるものを全てあなた様に差し上げます。...どうか、どうか我らをお救いください...」
途中から顔を赤くし涙目になったハクエンはアレンにそう言った。
コウも兵士たちも唖然とした状態でそれを見ている。
アレンはハクエンの言葉を聞き終わった後、間を開けてから一言発言する。
「What?」
「...わ、ワット...???」
ハクエンの表情は目を点にして訳がわからないと訴える表情に変わった。
お互い何を言っているのかチンプンカンプンだった。