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アルカディアンズ 〜とある世界の転移戦記譚〜  作者: タピオカパン
猫の国の内戦(前編)
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地対空ミサイル


ニャパス港


海が望める埠頭にはたくさんの手荷物が置かれていて、その上にナナオウギが座っていた。

更にその膝の上に前回ミーガルナが助けた小さな少年が座っていた。

ナナオウギは手を回してその子の喉を軽く撫でてやる。

ミャウシア人は喉や耳の当たりを撫でられるのが好きらしく、少年は目を瞑って気持ちよさそうにナナオウギに寄っかかる。

その様子にナナオウギも柔らかい表情を浮かべる。


「お姉ちゃんは?」


「向こうで用事を済ませてる途中だよ。その代わりおいちゃんが遊んであげるよ」


「じゃあ、アレまたやりたい!」


少年があるものを要望する。

するとナナオウギはちょっと困った表情をしたあと戦闘ベストのポケットから平べったい板のような物を出す。

スマートフォンだった。

少年はスマホを渡されると両手で楽しそうにいじり始めた。

そして尻尾をゆっくり波打つように動かす。


「なかなか可愛いな」


ナナオウギは日本語でそうつぶやくと少年の片方の猫耳が側面を向くが、知らない言語でパズルゲームに夢中なせいかすぐに興味を失い猫耳はまた正面を向く。


少年がパズルゲームに勤しんでいると遠くの海面から大きな水柱が上がる。

港はクーデター軍が使わせまいと無数の機雷が敷設されていて複数の掃海艦が機雷除去のために縦横無尽に航行していた。

その様子に少年はパズルゲームを中断して見入る。


「水!」


幼いせいか水柱の熟語が出ないのでありのまま知っている単語で叫ぶ。


「そうだよ。水柱っていうんだよ」


「水柱!」


「そそ、おいちゃんは詳しいんだ」


「じゃあアレは?」


「アレ?」


少年が水柱とは違う方を指差す。

だが何も見えない。

?と思っている微かに黒い点が見え始め、それが戦闘機だとわかると音も聞こえ始めた。


ブオォォォォォォォォォン!


ジェット戦闘機の編隊が低空飛行で港の上を通過していく。


「戦闘機?」


「戦闘機ってなあに?」


航空機は普通、何もなければ中高度か高高度を飛行するがこれは1000フィート以下の低高度である。

この場合、狙いは一つだがナナオウギはそこまで専門的にはわからず不自然に思うだけだった。


「ねえ、戦闘機ってなあに?おいちゃん!」


「ん、ああ、あのね...」


ナナオウギは少年に飛行機を教える。



ミャウシア中部上空


F-16戦闘機とグリペン戦闘機の編隊が飛行していた。


「爆撃準備よし。これより攻撃を開始する」


「了解」


パイロットたちが無線でやり取りをする。

するとプーっとレーダー探知の通知音が鳴る。

そしてそれからすぐにけたたましい警報音が鳴り始めた。


ピーコーピーコーピーコーピー!


「ヴィーゼル3、レーダー照射を受けている!」


「こっちもだ!レーダーには何も映ってないぞ!」


「AESAに反応がないがレーダー波は西北西から照射されている。防空システムだ!」


「攻撃中止、攻撃中止!」


「こちら管制、攻撃を受けたのか?」


「こちら攻撃隊。防空システムから攻撃を受けつつあります!」


「全機、作戦を中止し帰投せよ」


「了解」


ピピピピピピピピ!


「赤外線警報機が鳴り始めたぞ!」


「ミサイルを確認しろ!」


「だめだ、どこにも見えない!」


「視認した北西!3発来るぞ!」


キャノピーからほんの僅かだがミサイルらしきものが見える。


「ブレイク!ブレイク!」


戦闘機から燃料タンクと爆弾が投棄された。


無線で怒鳴り声が飛び交う中、戦闘機部隊ははまずフレアを撒き始めた。

一発目がフレアに釣られてあらぬ方角へ飛んでいく。

一発目を交わした戦闘機達は今度は高度を落としていく。

するとミサイルも下へ向かうが距離があるので未来予想に従って地面目掛けて飛んでいく。

2発めは途中で地面に落下した。

3発目は降下した速度で機動旋回を行いミサイルのエネルギーをスポイルして回避を狙う。


戦闘機内ではヘッドアップディスプレイのピッチスケールやフライトパスマーカーがめまぐるしく動き回る。

それだけ激しく機動旋回しているのがわかる。

シッチャカメッチャカに見えるが実際はミサイルの相対位置を見て狙って動いていた。


「Over G!Over G!」


戦闘機のコンピュータがハイGの警告を行う。

高Gでパイロットの息がとても辛そうに聞こえる。


3発目のミサイルが戦闘機の100m脇を通過していく。

周りにはミサイルの航跡が大きく生々しく映る。


「まだ警報音が鳴ってる!第2斉射を撃たれたぞ!」


地対空ミサイルの第2波が戦闘機部隊目掛けて飛んでいく。

この時戦闘機部隊は高度も速度も失っている状態であり次の機動回避困難だった。

だが次の手は地形利用だ。


戦闘機部隊が超低空飛行に移行し、地形に沿って飛ぶ。


「Pull Up!Pull Up!」


今度は対地接近警報機が警告する。

そのまま山間まで逃げて稜線に隠れるつもりだ。

だが高性能な地対空ミサイルなだけあって飛んできた2発のうち1発は完全に狙いをF-16に定めていた。


「だめだ、回避できない!」


「脱出しろ!」


「幸運を!」


F-16のキャノピーが吹き飛び、座席ごとパイロットが脱出する。

次の瞬間F-16の至近でミサイルが爆発し機体が砕ける。



グレースランド領NATO軍航空基地


トーネードECR電子偵察機が物々しそうに離陸を始めた。


もちろん任務は敵防空網制圧である。


ハードポイントにはAGM-88 対レーダーミサイルが搭載されている。

このミサイルはレーダーサイトや誘導指示機から発せられる電波を目掛けて飛んでいくミサイルである。

レーダーサイトと指示機さえ破壊してしまえば地対空ミサイル本体はただのコンテナと化すため、このミサイルの存在は作戦の要である。


攻撃部隊に先行する形でユーロファイター戦闘機が遠方を飛んでいた。

パイロットたちの緊張はこれまでにないほど高まっていた。



ミャウシア中部


F-16戦闘機の残骸がペシャンコ状態で地面にべばりついていて、火災済みなのか周囲が焦げた状態で煙が立ち込めていた。

その周りを猫耳の兵士たちが多数うろついていた。


「これが敵の航空機か。あたしらを散々爆撃くれやがって...」


「パイロットは?」


「生きてるよ。アザだらけにしてやったけどね」


「でもこれで奴らもでかい顔して飛んでは来れなくなったはず。いい気味だわ」


戦いがますます複雑化する。

そろそろ内戦前編終了。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 故某御大の作品にも構想だけはあった地対空ミサイルによる局地的制空権確保、その作品ではまともに機能する部隊を造ろうと思ったら、予算が1個飛行隊を編成できるほどかかるため劇中で没を食らってまし…
2020/01/13 23:04 コーウェン
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