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アルカディアンズ 〜とある世界の転移戦記譚〜  作者: タピオカパン
猫の国の内戦(前編)
55/136

市街戦1


ミャウシア南部 ニャパス市郊外


「ニャゴーニ!(撃てえぇぇ)!」


ズドオオオン!


ズドオオオン!


ズドオオオン!


大砲が一斉に発砲し、轟音が轟く。

ミャウシア解放軍の野砲で対戦車砲兼用野砲の大型の砲脚を持つタイプだった。

ちなみにミャウシア人の体格の関係から大砲類は77mm砲や99mm砲、122mm砲が多用される一方、155mmクラス以上の榴弾砲は砲弾の重さから敬遠される傾向があるようだった。

装填するのは女の子や男の子なのだから当然の傾向である。


挿絵(By みてみん)



バコオオオン!


野砲が発砲しマズルブレーキで砲身が後ろに飛び出す。

仰角が浅いせいか勢い余って本体が10cmあまり宙に浮く。

砲身がマズルで戻る時に安全弁が開いて勢いで薬室から薬莢が飛び出る。

猫耳の女の子が落ちた邪魔な薬莢を蹴り飛ばすとすかさず手に持っていた99mmの完全弾薬筒を薬室に突っ込みグーパンチで押し込む。

すると安全弁がカチャン!と音をたてて閉まった。

そして猫耳の砲撃手がトリガーの紐を思いっきり引っ張ると主砲が爆音をたてて砲弾を撃ち出し、また砲身が後退する。


野砲の砲身の先の遠方に見える工場群から複数の黒煙が発生しているのが見える。


「はい、突入準備は完了しています。....第1軍団の旗色が悪い?わかりました、予定時刻を繰り上げる」


砲撃陣地には空挺部隊を支援するフランス軍将兵の姿があった。

その中で指揮官と思われる人物が無線でやり取りをしたあと将兵を集める。


「作戦の繰り上げだ。敵機甲軍団に対応中の友軍の旗色が良くない。市街攻略に時間をかけられそうにないため我々で攻略する」


「しかし市街は籠城している敵によってハリネズミの状態です。軽装歩兵の我々だけだと損害が大きくなってしまいますが上はなんと?」


ナナオウギが上官に質問した。


「当然力押しだ。我々のいる東側は手薄で上手くやればまだ空挺が完了していない我々でも突破は容易にできるだろう、ということだ」


「でもそこそこ死傷者はでざるを得ないですよね...」


ナナオウギは直属の部下の猫耳の美少女に目をやる。

上官も目線がそちらに移りなんとも言えない表情になった。

上官達の視線が集まっていることに気付いた虎猫のミーガルナはギクッとする。


ちなみにミーガルナの武装は通常のミャウシア兵とは異なっていた。

武装は極めて現代的なものでM4カービンライフルを装備していた。

装備は当然供与である。

これは実験部隊の側面を持っていて、将来的に武器を供与する場合の相性チェックだった。


武装に関してM4カービンが選ばれたのは重さと大きさからだった。

彼女たちがメインで使っているニャナガン2688小銃も重量が2.85kgと第二次世界大戦のボルトアクション小銃で多少は軽い部類に入る三八式歩兵銃より更に1kg軽かった。

大きさに関してもニャナガンは地球人にしてみればコンパクトな小銃だが彼女たちにしてみれば普通の大きさだった。

むしろそれより大きいと取り回しが不便になってくほどだった。

そんな彼女たちのにとって、地球人のカービンライフルは実質的にバトルライフルに少し足を突っ込んだアサルトライフルのようなものだった。

そのためコンパクトで軽く在庫の多いM4カービンが選ばれたのだ。


「全員移動開始!」


号令がかかり兵士たちが荷物を持って移動を始める。


「隊長、あたし...」


「え?あ、な、何にもないから...」


ナナオウギは不安そうに先程の件を聞き返してくるミーガルナに釈明しながら歩き始める。

そして各部隊が突入ポイントに集結する。


市街戦を行う場合、手順としてまず市街を包囲もしくは半包囲する。

野外戦と違い一方向からの集中攻撃は敵の集中防御を受けるため得策ではない。

よって多数の小隊や中隊規模の兵力をまんべんなく前進させ、手薄な建物や住宅街から侵入して市街に取り付くのが一番効果的なのである。


兵士たちが市内に入るための道の側溝や斜面に固まる。

そして徐々に距離を詰めていくがだだっ広い場所ばかりで前に進めなくなる。

突撃しなければ市内に入れそうにない。


「まずいよ、これ。第二次世界大戦じゃあるまいし、突撃するのはちょっと...」


そして急激に銃撃音が増し始めてくる。

別の部隊は攻撃を始めているのが無線で聞こえる。

どうやらそちらは敵の火点が多いらしく前進は困難な模様だった。

となればこちらは手薄かもしれない。


そんなことを考えている時、ミーガルナが話しかけてきた。


「隊長、第2連隊本部が突入しないのかと言ってきています」


突入したいのは山々だけど何分敵の気配があまりしないのが難点だった。


「やるけどもう少し様子を...」


「あたしが見てきます」


「え?」


「あたしが騎兵として斥候の連中を連れて見てきます」


ナナオウギは反対しようと思ったがそうもいかない。

このまま手をこまねいてるわけにもいかないのだ。

無人機で偵察できればと思いつつ渋々了承する。


「...全員突入用意!」


ミーガルナが集めた小隊をまとめる。

それを見たナナオウギは苦い表情をする。

ミーガルナを始めとする虎猫のニャーガ族や他の少数民族やアウトローな兵士ばかりだったからだ。

ナナオウギはここに来て初めて他種族の人種差別を目の当たりにする。

第二次世界大戦とかでは当たり前のもので彼女たちも例外ではない。

ナナオウギは本当にしょうがないのかと疑問を感じながらそれを見ていた。


そして合図するとそれらの兵士たちが土手道から住宅街へ走り出す。

すると銃撃が始まった。

火点は思ったより全然多くはないことがわかるがそんなことより突入部隊のほうが気がかりだった。


パスン、パスン、パスン!


ブオオン、ブオンブオン、パスン!


生々しい銃弾とその音が突入部隊を襲う。

走っている足元の土が爆竹を投げつけたように煙を上げて音を立てる。

ついに一人、また一人とコケるように倒れ込む。

そしてミーガルナも倒れ込む。


ナナオウギはぎょっとした顔をするとすぐに指示を出して後方の44mm対戦車砲に火点を砲撃させる。

砲兵が火点に榴弾を撃ち込む。

機関銃が顔を出していた窓は壁ごと粉塵に包まれて見えなくなる。

味方も続々と撃ち返し、後続の突入部隊も身を隠しやすい角度から市街へ攻めていくと倒れた兵士もついでに回収していく。


だがミーガルナが倒れた位置は道のど真ん中で銃弾が常に飛び交っていて近づけない場所だったため誰も回収できなかった。

ナナオウギは発煙筒を投げ込むと完全に視界が切れたところで仲間のフランス軍兵士とでミーガルナを引っ張ろうとする。

するとミーガルナは途端に立ち上がる。

ナナオウギたちは反射的に走り始めミーガルナを引っ張って物影に飛び込む。


「大丈夫なのか?」


ナナオウギはミーガルナを少し抱えている状態だった。


「だ、大丈夫です。足を撃たれてコケてしまい死んだふりを...」


ナナオウギはすぐにミーガルナの足を見た。

血が出ているが銃弾がかすった切り傷らしく大きな怪我ではなかった。

それでも痛みや反動で人を転ばせるのには十分だったようだ。


だが少し血相を変えたナナオウギはミーガルナが自覚していない怪我があるかを見る。

その様子にミーガルナは何か感じ取っている様子だった。

何もなかったのかホッとした様子になるとミャウシア軍のヘルメットをミーガルナにかぶせると頭をポンポン叩く。


「後方に下がって手当を受けといて。後任の引き継ぎを忘れないでね」


「こ、こんなのは大した怪我じゃないです。私は戦えます!」


「でも何かあったら不味いし、少しの間後方に下がっても...」


「隊長、お願いします。」


「...」


「...」


「わかった。大げさだったかもしれない。手当を受けたら中隊本部へ行って待機し、交代を待て」


「了解であります!」


「?」


ナナオウギはミーガルナの発言の仕方に釈然としなかったがあまり気にせず前線の様子を見る。

一方、ミーガルナはすぐに戦況確認のために市街の方向に顔を向けたナナオウギを見て少し嬉しそうな表情を浮かべていた。


本格的な市街戦が始まる。

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[気になる点] 安全弁がかチャン!⇒安全弁がカチャン!
2020/01/10 22:52 コーウェン
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