上陸作戦4(挿絵あり)
<<ミャウシア領ニャパス市郊外>>
ミャウシア南部、ニャパス市近郊の牧草地帯ではミャウシア解放軍の一個連隊程度の兵力が展開し、何かを迎え入れる準備をしているような動きを見せていた。
そしてそこから見える空の向こうから多数の輸送機群が徐々に霞んで見えるように現れた。
「降下用意!」
「立てえ!立てえ!」
「スタンバイ!」
機内ではミャウシア語で降下準備の掛け声が轟いていた。
ミャウシア人以外が聞けばニャやニーの発音を多用したいかにも猫語といったような言語だった。
機内では猫耳の兵士たちがわたされたロープにパラシュートを開くためのピンをくくりつけ一列に並んでいた。
ちなみにピンは彼女たちの身長ではワイヤーに手が届かないのでNATO軍兵士が順番にくくっていた。
立ち上がった猫耳の兵士たちがワイヤーに括り付けたロープをたわませ握って移動できるようにする。
列を詰めていくと指揮官達が輸送機の両サイドのドアを開ける。
ドアからは輸送機の主翼のエルロンが倒してあって低速でも揚力が稼げるような体制に移行しているのが見える。
ナナオウギは指揮官ポジションでドアの前に立ち降下に備えていた。
そして輸送機が障害物の殆どない放牧地上空に到達した時だった。
ベルが鳴る。
「行けえ!」
ミャウシア兵たちが次々とドアから駆け足で外に飛び出していった。
飛び出した兵士たちの背負っているパラシュートパックから勢い良くパラシュートが伸び出てくると完全に開ききってゆっくりと降下を開始する。
それが数珠繋ぎのように列をなしていくのだ。
ナナオウギは一人ひとり降下していくのを確認していく。
降下は続いていくがある程度までいくと降下を中断しそのまま輸送機が飛び去るとまた旋回して降下ポイントに戻りまた降下を再開する。
残りの空挺兵が僅かになっていく。
何事もなく降下が終わりそうに見えるがそうはいかなかった。
そしてナナオウギの小隊が降下を終えるところだった。
最後尾の女性兵士が外に飛び出したもののパラシュートが開かずドアからロープで横に宙吊りになり風圧で錐揉み状態になってしまった。
「ニャアアアアアア?!」
宙吊りになった兵士が外で喚く。
ナナオウギはドアから顔を出して誰なのかを確認する。
その兵士はナナオウギ直属の部下のミーガルナ・チェリッシュ一等兵だった。
「ミーガルナ一等兵!暴れるな、そのままおとなしくしてろ!」
ミーガルナはナナオウギの命令を聞きおとなしくなると冷静になった様子でジタバタしなくなった。
ナナオウギは少し頭を抱える。
彼女は会って間もないのにおっちょこちょい面があることに気付いていた。
何かしらやらかしてしまったのかと想像するもパラシュートの管理は本来その部門の担当の仕事なので偶然かと合点し対応を考える。
話し合いの結果、周辺空域を上昇旋回しながらロープを巻き取って回収することになった。
エアバス A400M輸送機がどんどん高度を上げていくなか残った搭乗員と一部兵員で宙吊りになったミーガルナ一等兵を引っ張って回収に務める。
こうなるとなかなか骨の折れる作業になる。
ミャウシア人は30kgで軽いといっても空挺装備、風圧で重いのなんのである。
ナナオウギは一番手前で作業を行っていたが目下のミーガルナはしょんぼりした様子だ。
とうの本人はまたやらかしたといった具合でやるせない気持ちでいっぱいだった。
そんな状態でロープを手繰り寄せてようやく回収までこぎつけるといった時だった。
パチン!
ロープが根本から外れた。
ミーガルナはそのまま輸送機の後方へ飛んでいく。
それを見たナナオウギはドアから身を乗り出し降下を始めた。
彼のパラシュートは自由降下傘のためそもそもワイヤーにロープをくくっていなかったのでそのままパラシュートが開かずに降下を始めた。
普通ならミーガルナのパラシュートが開くと考えるのだがナナオウギは直感か何かから飛び出してしまった。
そしてその目に飛び込んだのはパラシュートが開かず高速で落下するミーガルナだった。
ナナオウギの直感は当たっていた。
ロープはパラシュートを引っ張り出さずに千切れたのだ。
ミーガルナは訓練どおり予備落下傘の紐を引っ張る。
すると予備のパラシュートが風圧で広がっていく。
しかしここでもまさかの事態が起こる。
パチン!
ピンが壊れ予備のパラシュートが分離して彼女の遥か上空へ飛び去った。
あまりの出来事にミーガルナはリアクションせずに固まる。
残りのパラシュートはゼロだった。
その一部始終を見ていたナナオウギは体の姿勢を変えてミーガルナへ近づこうとする。
スカイダイバーではないので大変ぎこちない動きでだましだまし接近を試みるが恐らく接触のタイミングは一回限りだと思った。
高高度だがそこまで高いわけではないので自分の技量を考えれば良くて1回接近できるか否かだ。
失敗すれば彼女は墜落死である。
失敗するわけにはいかなかった。
ここでミーガルナの方もナナオウギが近づいているのを確認するが行動は起こさなかった。
パニックに陥っていたものの本能的に上官なら動くなと言いそうだと頭の中を過ぎったからだ。
ナナオウギ側も同じ姿勢を保って動かないのは接近しやすいのでありがたいことだった。
ナナオウギは徐々に距離を詰めていくがしたを見れば地表がかなり接近してきているのがわかる。
そしてナナオウギは最後の姿勢変更でミーガルナに接触を試みる。
遠目で見れば体当たりにしか見えない。
二人がぶつかった瞬間離さないように掴もうとするが互いに失敗してしまい、何も掴めず離れそうになった。
しかし最後のもがきでお互いの利き腕をつかみ合うのには成功した。
ナナオウギは思いっきり彼女の腕を引っ張ると抱きつく。
「ミーガルナ一等兵!腕を俺の首に回せ足は自由で構わない!」
ミーガルナは言われた通りの形でナナオウギに抱きつくとナナオウギは足も使って抱きつく。
ナナオウギはミーガルナの胸が直に当たっていてキツく抱きついていたので息が詰まりそうになるも気にする余裕はなかった。
この時、高度は既に1000フィートを切っていた。
ナナオウギは思いっきりパラシュートの紐を引っ張るとドローグシュートが飛び出しその後でメインパラシュートが開きパラシュートの展開が終わる。
既に高度は300フィート以下だった。
一瞬で地面に到達すると自由降下傘の特徴の滑走があるため、二人はパラシュートに引きづられるように着地した。
「っっっっ!!!」
ナナオウギはごもった声でうめき声をあげる。
ミーガルナがナナオウギをずっとキツく抱きしめ続けたため息が全くできなかったのだ。
それに気付いたミーガルナはしまったとばかりにすぐに離れた。
「っはー。...大丈夫?」
「も、問題ありません!」
ミーガルナはナナオウギの最初の質問に緊張して答えた。
何か言われそうで少し不安でもあった。
「そっか。じゃあ移動するよ。降下ポイントから相当離れてるから敵がいるかも知れない。丸腰だから周囲を警戒しろ」
「了解」
ミーガルナは始終怒鳴られていたので叱責されると思っていたが、何も言われなかったのでほんの少し釈然としなかった。
一方のナナオウギはミーガルナに少々顔を合わせづらかった。
ミーガルナは珍しく敵側民族のニャーガ族出身者でトラ模様の髪と尻尾を持っているが、彼女の最大の特徴は胸だった。
地球人基準で言えばEカップ以上ある巨乳だったのでそれで顔を締め付けられたため全く息ができなかった。
けれど悪い気はしなかったし、むしろあれだったので恥ずかさばかりがこみ上げていた。
そして二人は移動を始めた。
その頃、北極海に相当する大洋上を多数の船団が一直線に航行を続けていた。
その船団の外輪には護衛艦隊と見られる戦闘艦が配置されている。
そのうちの一隻は海上自衛隊のこんごう型ミサイル護衛艦ちょうかいだった。
「アメリカ海軍の哨戒ヘリから入電。前方の海上に未確認の艦隊を確認した模様」
「...ロシア海軍か」