海峡へ2
<<バクーン海軍航空隊>>
「一体どうなってやがる!?陸軍は何をしているんだ!」
陸軍部隊の突然の反乱とも取れる行動によってバクーン軍は大混乱に陥り、控えていた海軍航空部隊が急遽先陣を切って海峡に侵入した連合艦隊に航空攻撃をしかけ始めることになった。
だがそれはあまりにも無謀とも言える攻撃となる。
海峡に侵入した艦艇数があまりにも多く、その対空砲の弾幕密度は瞬殺とはいかないが突入するのは自殺行為と思えるくらいの弾幕だった。
ミャウシア海軍の駆逐艦戦隊と防空軽巡洋艦の優秀な対空火力がバクーン機を次々と撃ち落としていく。
ニャトランタ級防空軽巡洋艦とミッチェナー級駆逐艦、ミャミャダン級駆逐艦には第二次世界大戦レベルの技術水準としては高等な砲射撃指揮装置が搭載されていた。
機械式計算機の射撃盤ではなくレーダーとアナログコンピュータを組み合わせた近代的な砲射撃指揮装置を搭載していたので、VT信管はなかったもののその対空火力は他より断然勝っていた。
だが攻撃を完全には防げず商船が急降下爆撃で炎上する。
また水路以外は機雷原なので回避行動が満足にはできない艦隊に雷撃隊が盲撃ちでも当たるとばかりに射程ギリギリから航空魚雷を捨てるように投下する。
離れた距離で離脱する雷撃機も凄まじい対空砲火で被弾して落ちる機が続出する。
そして航空魚雷は駆逐艦やフリゲートのに砲撃によっていくつか破壊されたがまたこれも何隻かを屠った。
航空攻撃が始まってから少し遅れるようにミャウシア海軍航空隊が救援に駆けつけた。
仮設泊地周辺の飛行場の航空機は飛行場に控えて移動を待っていた待機部隊以外は航空母艦に積まれて今海峡を通過中で満載のために離着艦ができずに遊兵となっていた。
だがそれでもバクーン海軍航空部隊を黙らせるくらいには数で圧倒できた。
その頃、殿を努めていた戦艦と重巡洋艦の戦隊は砲撃戦を続ける。
「前方の戦艦に火力を集中しろ!」
「左舷から魚雷きます!」
各艦の艦橋では怒号が飛び交い未だ海峡に全ての船団が侵入できていないのでバクーン海軍の猛攻を必死で食い止め続ける。
旗艦ではチェイナリンが双眼鏡を片手に割れた窓越しに戦闘の推移を見守っていた。
元海軍兵なので海戦についての知識はあるが海上戦闘のプロとはいかないのでここは指揮を艦長や艦隊指揮官に任せる。
だがそれでも海峡通過に思いの外時間がかかってしまっているため被害が蓄積していくことに焦燥感を感じる。
そんな時だった。
「中佐、電文です!」
それはNATO軍からの通信だった。
NATO軍ではいきなりの事態に対応が遅れたが最終的な意思決定が行われていてバクーン側の違法な攻撃に対する対応案がまとまり、グレースランドやミャウシア海軍へ通信を入れたのだ。
それはミャウシア海軍、グレースランド政府、ザイクス政府が求めるのならバクーン軍への武力行使を行うというものである。
チェイナリンはこれはやむを得ないことだとして要請を打診する。
当然他の国も要請を出して、NATOも含めた4勢力が合意したとしてNATO軍の多国籍軍艦隊が武力行使に動くことになった。
まずアメリカ海軍航空隊によるバクーン海軍航空基地への空爆が始まる。
「こちらナイト2-1、間もなく目標にコンタクトする」
アメリカ海軍のF/A-18Eスパーホーネットが超低空飛行で目標の飛行場に接近する。
主翼にはBLU-107 デュランダル爆弾が搭載されていた。
これはフランスで開発された滑走路破壊用特殊爆弾でアメリカ軍でも採用されている爆弾だ。
ミャウシア軍攻撃の際はレーザー誘導爆弾で滑走路や人気が無さそうな重要標的を選別して攻撃していたが今回は超低空侵入からの同時攻撃で少ない手数で各飛行場の滑走路を一気にズタズタするつもりだった。
またバクーン軍のレーダー網は電気機械が優れている割にミャウシア軍やグレースランド軍に比べて脆弱だった。
しかも奇襲をあまり考慮してないのか攻撃が起こるまで全くもって気づくことはなかった。
F/A-18Eが上空に姿を表す。
轟音と共にBLU-107をバババっとばら撒いていく。
低空で投下された爆弾はパラシュートが開き減速すると底からロケットブースターを点火して一気に地面に突入してめり込む。
そして爆発が起きると修復困難な巨大な大穴を滑走路に開けた。
飛行場は当分使えそうになかった。
バクーン軍は対空砲で迎撃を始めるがその頃には攻撃隊は射程圏外の遥か彼方だった。
同時に潜水艦による魚雷攻撃も行われた。
目標は戦艦だった。
<<フランス海軍リュビ級原子力潜水艦テュクワーズ>>
「1番から4番に魚雷装填。全て有線誘導。目標、4隻のバクーン軍戦艦」
魚雷発射管にF17魚雷が装填される。
技術的には自衛隊で言うところの80式魚雷と同レベルの魚雷であり、在庫が払底すれば2000年代に開発された最新式のF21魚雷に換装される。
「魚雷発射!」
4門の魚雷発射管からそれぞれ別々の戦艦を狙った魚雷が発射される。
近代の魚雷は魚雷それ自体が一種の移動式ソナーのようなものであり、魚雷のソナーで索敵して有線で操作することもある。
今回は戦艦に近づいてからアクティブソナーに切り替えて正確に誘導する。
魚雷は戦艦の真下まで来ると近接信管が作動し爆発を起こして戦艦に甚大なダメージを与えた。
ズドオオオオン!
手加減があったのか撃沈航行不能に至る艦はなかったが早々に戦闘不能になるほどの大破具合だ。
バクーン軍はいきなりの魚雷攻撃でパニックになる。
魚雷は十分警戒したはずなのに魚雷と思われる攻撃が4隻の戦艦に命中しいずれも大破級のダメージだったからだ。
主戦力が一気に損耗したバクーン軍はそれ以上連合艦隊へ攻撃を続けるのが困難になってくる。
そしていよいよ連合艦隊の攻撃に絶えられなくなってきたバクーン艦隊はやむを得ず後退した。
こうして殆どの空域、海域で戦闘が収束した。
だが戦いはまだ続く。