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アルカディアンズ 〜とある世界の転移戦記譚〜  作者: タピオカパン
猫の国の動乱
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和平プロセス2


<<ザイクス軍軽空母艦>>


NATO軍、ミャウシア軍、グレースランド軍、バクーン軍、ザイクス軍、の政府及び軍代表の代理の高官が両軍の艦隊に脇で停泊するザイクス軍の軽空母艦の格納庫に集まった。

会議のように席が整えられておりここで話し合われることが最終的な停戦、休戦合意の土台となりその後で代表者の署名となる。


全員が一同に会したところで着席し話し合いが始まった。


ミャウシア軍の代表代理はフニャン中佐だった。

ニャマルカム大将との事前の打ち合わせでチェイナリンには意見調整や交渉能力、知識、大局観が十二分備わっているとして大将よりミャウシア海軍の全権代表の権限が与えられていた。

対する連合軍側の代表者としてNATO側は派遣艦隊の軍士官、グレースランド側はエリザ王女、バクーン側は国軍総司令官の子息で陸軍の重鎮将軍、ザイクス側は遠征艦隊参謀が出席した。

その他にも通訳や多数の軍士官が同伴している。


この会議で取りまとめたいことは停戦・休戦協定だが問題はその内容だった。


この会議で司会のような立ち回りだったのは一番中立的だったザイクスだった。

そして初めに主張を展開したのはバクーン側だった。


「我々がミャウシア軍側に求めるのは3つ。1つ目に武装解除すること、2つ目に賠償金の支払うこと、3つ目に今回の戦いで主導的立場だった軍高官の引き渡すこと、この3つです。それを約束していただかない限り休戦には応じられない」


この発言に一同が少々どよめく中、ミャウシア軍の代表者となったチェイナリンは特だん表情を変えない。

その内容は降伏条件も同然であり、概ね対等な両者の間で持ち出して通る様な条件ではなかった。

だからチェイナリンはこの提案の真意があるのかないのかをまず見極めようと思った。


「貴国の要求に対し我が軍としては将来的に2つ目の要求の部分的な履行を行う用意があります。ですがそれ以外の要求には応じることは大変困難と言わざる終えません」


チェイナリンはとりあえず適当にあしらいつつミャウシア側に応交渉の姿勢があることは見せ出方を伺った。

バクーン側の代表である国軍司令官の息子、つまり国王の孫で王位継承権2番の太子で見た目好青年なバクーン軍将軍はチェイナリンをじっと見ていたがここで返しの発言をする。


「それでは我が国としては貴軍との停戦交渉をすすめることはできない。我々はこの戦いであなた達によって多大な犠牲を払わされた。その償いのための対価は巨大なものだと知るべきです。でなければここにいる一同は納得できないと考えてください。」


チェイナリンは太子をじっと見る。

もともとチェイナリンは無口タイプでリアクションはどれも変化がたいへん乏しいのでよほどのことでない限り表情を崩したりしない。

だからそのままの表情でいろんなことを考えていた。


そこで思ったのが少なくとも太子は頭が固いわけではないように見えることだ。

ほんの僅かだが交渉の余地がある話しぶりだった。

実際交渉をおじゃんにされる可能性が十分にあっただけに今までのバクーンの態度より柔軟だ。

おそらく太子はバクーンの国王などの君主達の主張を代弁しただけでより実務的な話し合いをする用意があるように思える。

武装解除や戦争犯罪人引き渡しを全面に掲げていない。

なら太子が妥協してくれそうな案を先に提示して硬軟織り交ぜた対応でいく。


「我が軍がバクーン王国に対して行った攻撃は人道的にも道義的にも良くないことはたしかに事実です。その被害も非常に大きいものになってしました。その償いもまた大きくならざるを得ないのは言うまでもないのでしょう。現時点でこちらが検討している具体的な補償としましては貴国に外貨預金が一切ないのですぐに履行はできませんが、推定されている貴国の国家予算の二十分の一以上を無償援助としていずれかの後に提供する用意があります。有償援助に関しても相当額を検討中です。補償以外についても時を見て相応の対応を行うつもりです」


チェイナリンはこちらの手札をかなり見せることにした。

すると太子は控えていたものに耳打ちすると今度は耳打ちされ返す。


「そちらの考えはわかりました。その上でもう一度お聞きしますが武装解除や戦争犯罪人の引き渡しについての検討はされないのですね?」


チェイナリンはこの返答で太子の考えが見えてきた。

できる限りの賠償の獲得を目的としてある程度の形ある落とし所の確定だった。


「先程も申し上げましたがそれは困難です。現実的に考えて今の段階でそれを議論できる余地は大変少ないです。貴国にとって我々に感じる脅威度と不信、負の感情が計り知れないものであることはお察しします。ですがその問題の性質上今後の戦局に大きな影響が出る事柄ですので、今は無闇に手を付けるべきではないと考えています。その点をどうかご理解いただきたい」


少し間が開く。


「わかりました。ミャウシア全権代表から具体的な内容が聞けてありがたく思います」


その後も会話が続くがかなり淡々としていて意見の対立が見られたが予定調和感があった。

そして一旦バクーン側との意見交換が終わる。

チェイナリンは無表情のまま耳の良い亜人でも聞き取れない程度の安堵のため息を出した。

正直なところバクーンと何時間でも論争して会話がループすることを覚悟していただけに腰砕けだった。


もちろん賠償に関する後半のやり取りでは額のつり上げては逐一うまいマウントのとり方をするなどガッツリと噛みつかれはしたが話が破綻することはなかった。

おかげで概ね想定していた賠償額に近い額と戦争犯罪人の引き渡しと公式の謝罪に関するいくつかの言質を取らせてあげざるを得なくされるなど満額回答になった。


チェイナリンは自分に交渉のセンスがないのかと少し不安になってしまうが、もともとこちらも材料は小出しだったのでお互いに着地点が決めて果敢に交渉すればこうなることは分かっていたことでもあったので仕方ないことだと割り切る。


バクーン代表の太子はどうやら物分りのかなり良い人物に思えた。

もしくはニー参謀総長の様な情緒や命、力、富を恐ろしいほどに感情がないかのごとく客観的に計算して収奪するサイコパスのどちらかだった。


その後、グレースランド代表のエリザ王女との談話に移る。


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