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アルカディアンズ 〜とある世界の転移戦記譚〜  作者: タピオカパン
猫の国の動乱
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異種族の二人2


ナナオウギとチェイナリンは川の近くにある斜面で二人して横になっていた。

チェイナリンは河川水が気道や肺に入ってしまったことで肺炎みたいに咳が止まらない様子だった。

ナナオウギはチェイナリンの背中をさすりながら寄り添う。

ナナオウギ自身も川を流される途中に打撲を負い、体中に痛みが走っている状態であった。

二人共創痍満身の状態でありとても移動などできず誰かが助けに来るのを待つことしかできなかった。

もちろん敵が来ることもあり得る状況なのでまさに神頼みであった。


「ゲホッ、ゲホッ...」


チェイナリンは苦しそうに咳き込み続け自身の口の中に血の味が混じっているのを感じ取る。

ナナオウギはそんなチェイナリンにできることがないのをとてももどかしく感じる。

そんな感じで時間が経ち夜になり気温が更に下がってきた。

濡れた服で冷たくなってきたことで小さな体のチェイナリンは体を震わせて凍える。

そこで自分の尻尾を体に回して猫が寒い時にする尻尾マフラーで少しでも体温をあげようとする。


「これを着て」


ナナオウギは自分の着ていたフランス陸軍のCCE、センターユーロ迷彩のF2ジャケットを脱いでチェイナリンのパイロットスーツの上に着せようとする。

しかしチェイナリンはその様子を見て着せようとしたジャケットをはねのける。

初めは意図がわからなかったがチェイナリンがジャケットとむしり取るとナナオウギの懐に潜りその状態でジャケットを二人にかぶさるようまわす。


「ゲホッ...私だけ...特別扱いしなくていい...」


ナナオウギは顔が真っ赤になってしまう。

救命した時の自分の発言を聞かれていたかもしれないと思うとチェイナリンをこっ恥ずかしくてちゃんと見れずにいたがチェイナリンの大胆で気のあるような行動に戸惑いを感じつつも寄り添いたい気持ちもこみ上げていた。


「フニャンさん、川で流されていたこと、覚えていたりはするの?」


「...」


チェイナリンはナナオウギの懐にうずくまったまま返事しなかった。

ナナオウギは気に障る発言だったかと思い少し後悔してしまう。


「...あんまり覚えていない」


チェイナリンが返事する。


「そっか、大変だったもんね」


心停止すると脳の血流が止まって意識がなくなると聞く。

やっぱり聞かれてはいないかとナナオウギは少し安心した。


「...でも、ナナオウギさんの手の温かさはずっと感じていた気がする」


「...そっか」


ナナオウギはそう返答するだけだった。

ジャケットをかぶせて密着して防寒に努めたおかげで少しは寒さが楽になり落ち着きが出てくる。

そしてチェイナリンの咳も一段落した。

そこでナナオウギは夜空を見上げる。


「チェイナリンさんは夜空に興味があったりする?」


「....ある」


「俺、宇宙が好きでこの星に来てからの天文観測の記事をできる限り欠かさず見ているからもしかしたらチェイナリンさんの知らないこと答えられるかもだけど」


「....」


チェイナリンは黙ったまま空を見上げる。


「私達は夜空に強い関心があるけど専門的には余り聞かないようにしてた」


「私達?」


「地球人は夜空の星や月を崇めたりしないの?」


「そんな宗教観があるのか...。確かにないな、神聖そうではあるけどそこまでではない」


「地球人は昼間に活発そうだからやっぱり夜はそんなに大事じゃないのね」


「そうだね。ミャウシア人にとって夜はそんなに大事なんだ」


「昼の活動は避けがちになる。この星の太陽は日差しが全然強くないけど私達の星は日差しが少し痛いの。だから夜が私達にとってのびのびと過ごせる時間。でもこの星に来てからは昼も過ごしやすいから生活リズムが狂いがちになってる」


「なるほど。そうだったんだ」


たしかにミャウシア人は夜戦がべらぼうに強いがそもそもそんな種族で夜行性ならうなずけた。


「だから私達は元来夜空の月や星を学術的に推し量るのはやましいことととしている」


「じゃあ...」


「でも天文学はそんな私達の世界でも発達したし、周りの人がよく思わなかったけど私は宗教と分けて星空のことを学んでみたいとずっと思っていた。だから、よかったら私に教えて、お星様のこと...」


「じゃああのものすごく輝いている星ってどれくらい離れているか知ってる?」


チェイナリンは漠然と考えるが惑星が億単位で離れていることは聞いたことがあり、当てずっぽで言う。


「100億k○(ミャウシア人の用いる単位でナナオウギは知っている)?」


「残念11光年離れてるんだ」


「光年?」


「光が1年で進む距離で...あそっか、ミャウシアの星の一年は地球と違うか。えっと、8兆8000億k○かな」


「桁が...」


チェイナリンはスケールの違いに驚愕する。


「だからあの星まで100兆k○は離れてるんだよ」


「星は皆そんなに離れてるの?」


「アレはすごく近いのだよ。夜空に見える星はたいていその十倍から百倍離れてる」


「すごい...」


「しかもあそこに見える薄暗い小さな靄はアンドロメダ銀河って言ってあの星の20万倍以上遠くにあるんだよ」


チェイナリンは星々をじっと見る。


「...もっと教えて」


「いいよ」


普通の人なら興味が沸かないような話題だったが何も知らないまっさらな状態のチェイナリンには神聖で神のように祀っていた星々の真の姿に感動を覚えていた。

二人共かなり不器用なので話題はそれで十分だった。

ナナオウギはチェイナリンにムダ知識をどんどん詰め込んでいく。


「でね、星には寿命があるんだよ。いずれは死んでいく。特にあの一番輝いている星はもう直死ぬんだよ」


「なんでわかるの?」


「星の光を詳しく調べるとその星の大きさと年齢がわかるんだよ。それにあの星の周りにある虹色の星雲も元々は星の一部で死ぬ間際だから剥がれちゃったものなんだ」


「死んだらどうなるの?」


「大きい星は爆弾みたいに爆発するし、小さい星は萎んでいく」


「じゃああのお星様は爆発するの?」


「そうだよ。しかもあの星はウォルフ・ライエ星って種類の星で太陽の200倍も重い星だから爆発はこの大地が焼きただれるほどの威力だって記事には書いてあった」


「大変...」


「まだ先のことだし」


「でもこの世界も直に終わりを迎えるんだ...」


ナナオウギも確かにと思う。

数千年や数万年なんて進化する時間すらない。

何気に未来が確実に絶たれることがわかっているとんでもない世界に転移したと思った。

だがここで転移自体のことを考えると物事はもっと深そうに感じた。

きっと専門家たちもそこには気付いているだろう。

そう遠くないうちに地球へ帰る方法などの問題も噴出するはずだ。

そう考えるとまだ大丈夫に感じた。


それにナナオウギにはまだこの星でやりたいことがたくさんあると思った。

そしてチェイナリンを見る。

チェイナリンは見られてることに?な顔をして猫耳を動かしながらいぶかしる。


「でもいつか故郷に帰れる日が来ると思うからそんなに心配しなくてもいいよ。それまで一生懸命生きてればいいかなって思う」


「...」


チェイナリンは考え込む。

それにナナオウギは畳み掛けるように聞く。


「ねえフニャンさんは皆からなんて呼ばれている?愛称とかある?」


「愛称?」


「うん」


「........チェリンって皆は呼んでくれる...」


「チェイナリンでチェリンか。いいね」


フニャンはナナオウギを見る。


「これからもよろしくね、チェリン。あと俺は名前のまま翔太って呼ばれるよ」


「....私こそこれからもよろしく、....翔太」


二人の距離がまた近くなった。

しばらく二人で丸くなっていると翔太が話しかける。


「チェリン、この戦争の行方をどう思う?」


「....」


「俺はこのままお互いに延々と殺し合い続けるのかなって、そう思ってしまっていた。でもこの状況を止めようと必死になっている君に会えてそうじゃないって分かって嬉しかった。一緒に手を取って歩むことだってできるんだって。だから聞かせて欲しいだ、今後のこと。チェリンはこれからどうするの?」


「...」


チェリンは考え込むように俯いたまま返事しない。

だが少し間してチェリンは答えた。


「わからない」


そして更に間を開けて続ける


「でも、このままでいいはずがない。だから蜂起して戦争も民族浄化も止めようって、そう思ってやっているのに全然うまくいかない...。こうしてる間にも前線では大勢が戦って死んでいっているのに、私は無力でどうしようもなくて...。ごめんなさい...」


チェリンは猫耳を前に倒した状態で少し涙目になる。


「チェリン...」


翔太はチェリンをそっと方に手を回す。

チェリンも少し頭を翔太の懐に向ける。


「そんなことない。それだけ真剣に取り組んでいるならきっと上手くいく。それに立派な大義なんだ、こうやってもがき続けることにだって意味がある。それに焦ったり諦めらりするにはまだ早いよ。まだやれることはあるはずだ。チェリンならきっとこの戦争の先にたどり着けるはずだから」


「...翔太」


チェリンが翔太を見る。


「ありがとう」


翔太はチェリンの眼差しを愛おしく感じ、照れる。


「えっと、...だから、その、一緒に今後のこと考えてみたりとかさ、いい案が出るかもだし...」


翔太は急激にボキャブラリーが貧困になっていきカーッとして頭が回らなくなっていた。


「うん」


締まらなくなって無様になりつつあった翔太だったが元気づけられたチェリンはそんなことは一切気にせず翔太の提案に快く返事する。


「は、はは...。じゃあ、何から考えようか?」


二人の会話は続く。

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