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アルカディアンズ 〜とある世界の転移戦記譚〜  作者: タピオカパン
異世界召喚
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第三次世界大戦


西暦20XX年の地球 


世界は混迷の度合いを深めていた。

中国とロシアなどの西側諸国を追い抜く様に経済を発達させていた旧東側はある出来事から挑戦するように急激に軍備を拡大させていた。

未申告の保有核弾頭数の増加、アジアにおける民主主義の崩壊による独裁国家誕生ラッシュとそれを更に支援し中東やアフリカへ輸出し囲い始めた中国やロシアに対し、アメリカを始めとした西側諸国も軍備拡張と臨戦態勢をとる。

そして独裁国家達もまた中国やロシアに身を寄せ西側諸国に挑戦するように軍備拡大に走り、核兵器を開発し保有を目指す国が次々と出現していく。

それに呼応するように防衛的に周辺国も核開発及び軍備拡大に邁進する悪夢のような負の連鎖が世界を包み込んでいく。

国家間の枠組みは崩壊し、世界はまさに少しの小競り合いが人類の存亡をかけた全面戦争に突入してしまうレベルで緊迫し神経質な状態に陥っていた。



<アメリカ合衆国 ホワイトハウス>


「糞、インドネシア政府軍が大敗してジャカルタ陥落が時間の問題になってしまった!」


「大統領、申し訳ありませんが更に悪いニュースです。マレーシア政府は中国の圧力に屈しカリマンタンへの進出を認めました」


「なんだと!?」


「情報局でもこの動きは掴めませんでした。こうなるとジャワ島周辺は中国軍の勢力圏も同然です。既に我が軍の潜水艦隊が中国軍とロシア軍の潜水艦と遭遇、追尾合戦に発展してしまっています。」


「ダーウィンの海兵隊は動かせないのか?」


「無理です。拠点も外交カードも残っていません」


アメリカ合衆国大統領は国家安全保障会議に出席する主席補佐官や国防長官や国務長官と対応を検討する。


「大統領!バルト三国で大規模な暴動が発生しました。例に漏れずロシア系住民を自称する集団が武装蜂起しエストニア首都タリンが陥落しました。エストニア軍は完全に押されておりリトアニア軍、ラトビア軍も苦戦しています。ん?....ああ、わかった。大統領、続報です。カリーニングラードのロシア地上軍に大規模な動きが見られるそうです。恐らくポーランドとウクライナに対しなにか仕掛ける可能性が考えられます。」


「あぁ、次から次へと!」


アメリカと欧州は本格的な武力行使に躊躇していた。

実際中国とロシアはハイブリッド戦争を仕掛けてるだけで正規軍で実力行使している訳ではない。

勿論こちらもできる限り工作しているが本気で本腰を入れる東側に後手に回らざるを得なかった。


現時点で東欧諸国とASEAN諸国が中露の手中に落ちつつありギリシャやエジプトなどが中国の債務の罠にハマり軍の駐留を認め、西側諸国の包囲網は狭まってきていた。



<中華人民共和国 北京>


「こちらの工作もそろそろ完遂しそうだな。新しい世界秩序の構築までもう少しといったところか」


「はい、〇〇主席。」


「ではその後のロシア崩しの策でも考えるとするか」


「それでしたら顧問団をすでに揃えております」


「おお、仕事が早くて何よりだ」


「ですがまだ片付けるべき問題も」


「何だね?」


「合衆国大統領が苦し紛れにコケ脅しでしょうが全軍にデフコン1の完全臨戦態勢の指示を出し、此方の動きを封殺する最終手段を取るかもしれないと諜報部が」


「それは流石に不味いな。三下途上国の小競り合いでなし崩しの衝突になるかもしれん。だが計画を遅らせるのも気に入らんな。外交部にできる限り時間を稼がせろ」


「かしこまりました」


緊張状態に拍車がかかり始めたがそれは最悪の形で訪れてしまった。



<日本>


「でありまして、我が国として自衛隊を派遣する意思は毛頭ございません。」


「アメリカから再三要求を突きつけられていると聞きますが?」


「ですから専守防衛に反しますので我が国としては自衛隊を派遣するのではなく人道支援を主として資金を拠出する方向で調整しております」


「用途を絞った資金拠出は事態に何ら影響を与えられない無駄な行為だと批判がありますが?」


「我々はそのように認識しておりません。まずは話し合いで解決しそのための資金を出すことが最善と考えています」


内閣官房長官が記者から質問を受け付けそのような当たりざわりのない答弁を続ける。


欧米は既に東側の工作によって頻繁する紛争に対処するため多数の兵力を各国に派遣しているが日本はまるで家に籠もるかのように不干渉を貫いていた。

平和ならいざ知らず、今は世界大戦の足音さえ聞こえてくるこのご時世である。

本当にそれでいいのかという声は止まない。

しかし政府は国民を代表する組織であり、国民の多くが世界情勢にあまり理解を示さないとなれば政府としても世論を気にして大っぴらに動くことはできない。


そんな日本の国際戦略への無関心さや他人事感に嫌気が差す人物がいた。

青年がその中継放送をノートパソコンを通して不満そうに視聴している。


「そんな悠長なこと言ってられんの?今にも戦争が起きそうなご時世だっていうのに」


彼はそう言うと手を動かしなおして荷物をまとめる。

どうやら荷造りしていたようでアパートの一室は空っぽだった。


「これでよしと」


彼は荷造りを終えると最後にパスポートと見られる手帳や書類の束をチェックした。

どうやらこれから国外に発つようだ。


「何も問題はないな」


そう言って彼は突然敬礼した。


「七扇翔太。これよりフランスに行ってまいります!フランス軍に入隊し、必ずや全面戦争の阻止に貢献してみせます!...なーんつって」


彼は名は七扇翔太といい、元陸上自衛官だった。

陸上自衛隊を辞めてフランス陸軍の外人部隊に志願するらしい。


「おっと。そろそろ行かないとな。万が一遅刻でもしたらあいつらに大笑いされちまう」


七扇はキャリーケースを引いてアパートの一室を出た。

彼はそのまま空港へ直行する。


空港へ向かう道のりの傍ら、彼はスマホをいじっていろんな記事を閲覧していた。

主に国際情勢だ。

若いくせに意識高いと言える。


だが彼をそうさせるほどこの世界がきな臭い状況に追い込まれているのも事実だ。

七扇はおさらいする様にスマホで近年起こった出来事をチェックしていく。


その基点となるのが世界恐慌だった。


あの日、全世界規模のサイバー攻撃が発生し、世界を震撼させた。

そのサイバー攻撃はサーバーダウンや低レベル情報の奪取などという些細な攻撃ではない。

半導体企業やソフトウェア企業、大学の一流技術者達でさえ一切考えつかなかったような極めて高度で致命的なシステムの脆弱性を駆使するサイバー攻撃だった。

金融システムを中心とする世界中の電子システムの管理者権限が正体不明のクラッカーに掌握され、システムに繋がるコンピューターにウイルスをロードしたり誤動作を実行してシステム全体を洗いざらい破壊した。


これによって世界中のほとんどの金融システムが一定期間停止して市場の資金繰りが崩壊。

未曽有の世界恐慌へと発展する。

そして経済破綻や地域紛争の果てに例の熾烈な大国間の覇権争いへと繋がっていったのだ。


七扇は空港へ到着するといったんロビーでくつろぐ。

しばらくして彼の前に二人の青年が現れた。


「おっす」


「ご無沙汰っす」


「おお」


待ち合わせしていた面子が揃ったようで一同は空港内の飲食店で食事をとった。

窓からは国際線の旅客機が見える。


「大竹に有持も見送りしてくれるなんて嬉しいよ」


「そうりゃあ、同期のよしみが海外で傭兵になるって言うんだから気にならないわけないだろう」


「おい、語弊!」


大竹という男性は七扇と同期で悪ふざけの好きそうな性格のようだ。


「大竹先輩はこうは言ってますですけど、やっぱり幹部自衛官なのに辞めてまで海外の戦争に参加しようとする七扇先輩が気がかりなんですよ。俺もですが」


有持は親しい後輩キャラらしく、フランス軍に志願する七扇のことが気になっているらしく、この見送りの会もそうした背景がある。


「心配は嬉しいけど俺は大丈夫だよ。こう見えても語学は得意中の得意だからな。フランス語も日常会話ならもう話せるくらいにはマスターしてんだよ?」


「それは結構なことなんですが、そうじゃなくて...」


「海外に行ってまで戦う必要があるのかって話よ」


大竹が有持の話に被せて七扇に問いかける。


「まあ、前にも言ったと思うけどこのままだと世界は後戻りできないほどの戦争になるんじゃないかって思ったからさ。だからこんな俺でよかったらというか...。誰かのために戦いたかったんだ」


「誰かって?」


「誰でもだよ。日本だけじゃない、戦争を止めてほしい願っている世界中の人のためにだよ。俺一人が前線に出たって戦況は変わらないかもしれないけど、それでも日本でくすぶってるより地域紛争に派兵されてる外人部隊に入って、少しでも状況を好転させたいんだ。大国同士の覇権争いが民主派の国々に優位に運べば相手も手を引いて争いを沈静化させられるんじゃないかって。そのための力になりたいって思ったんだよ」


「...なんていうか。バカと言えばいいのか」


「ああ、バカで結構だよ」


「...いや、これはお人好しと言うべきだな」


大竹は怪訝な表情を浮かべ続けていたが吹っ切るように表情を緩める。


「先輩らしいですね。確かに紛争が治まれば先輩のやったことも無駄じゃなかったことになりますからね」


有持も七扇のやろうとしていることに理解を示した。


「ありがとう」


「それじゃあ、海外に旅立つ七扇の健闘を祈って」


大竹がそう言うと3人は乾杯する。

3人は飲みながら会話を弾ませる。

やがてフライトの時間が迫り、送別会はお開きとなった。


「じゃあな、また会おうぜ」


「それじゃあ、また」


「二人ともありがとうな!」


七扇は二人にお礼を言って別れ、搭乗の手続きに入る。


だが七扇の懸念していた国際情勢が急激な勢いで悪化していくことになるとは誰にも予想ができなかった。



<<大西洋のとある海域>>


<アメリカ海軍 オハイオ級戦略ミサイル原子力潜水艦 ネバダ>


西側最大級の原子力潜水艦にして24発のトライデント大陸間弾道ミサイルを発射可能な怪物である。

そのオハイオ級原子力潜水艦が戦闘態勢のままどことも知れない海中を微速航行していた。


「これは...」


ソナー室の士官がヘッドホン越しに何かを聞き取る。


「こちらソナー室。CIC、どうぞ」


「こちら艦長だ。何だ?」


「先程左舷から一瞬小さな音がするのを聴知しました」


「敵か?」


「一瞬ですので詳細は何もわかりません」



<ロシア海軍 ヤーセン型原子力潜水艦 ヤーセン>


ネバダのすぐ近くに停船するロシア海軍のヤーセン型潜水艦がいた。


「間違いありません、オハイオ級です」


「まさかこんな辺鄙な海中に潜んでいたとは」


「それなら我々も攻撃位置に移動する最中だ。人のことは言えんさ」


「ですがどうしますか、艦長?」


「いっそ撃沈でもしてしまうか?」


「艦長!司令部の命令がありません!」


「冗談だ、だがかなり迫真の脅しはかけてみるか」


「オハイオ級、4km前方を通過します」


「アクティブソナー打て!」



オハイオ級原子力潜水艦ネバダ


ピコオオオオン!


「左舷後方からアクティブソナーを聴知!」


「何だと!」


「更に注水を聴知!完全に攻撃態勢に入っています!後方の音源、推進機を始動させ移動開始。これは、ヤーセン型潜水艦です!」


「……!」


「艦長?」


「1番から3番に魚雷を装填」


「反撃するのですか?」


「そうだ。デフコン1はすでに発動され各軍臨戦態勢に入っている。相手は既に普通ならありえないレベルの挑発を通り越した攻撃態勢にある。であれば相手は我々が攻撃位置につくのを予想してここで待ち伏せていたと見るべきだ。恐らく本気で攻撃するつもりなのかも知れない。なら今急いで反撃を行い事態の打開にかけるべきだ!」


「了解、魚雷装填!」



<ヤーセン型原子力潜水艦 ヤーセン>


「向こうは大慌てだろ」


「でしょう」


「こちらソナー。目標がアクティブソナーを打ちました」


「敵さん焦ってるな」


「無理もないです」


「目標更に魚雷発射管に注水を行った模様!」


「このタイミングで魚雷発射管に注水だと、まさか?」


「目標、魚雷発射!Mk48が2発こちらに向かってきます!」


「直ちに1番から3番を放射状に発射!発射後ワイヤーカットし最大戦速で深度550へ潜行!急げ!」


ヤーセンは魚雷発射後取舵いっぱいで徐々に潜行を始める。

けれど交戦距離が比較的近かったため55ノットで接近してくるMk48を潜行してやり過ごす時間が足りないことが判明する。


「デコイ発射!」


ヤーセンはデコイを発射するがこの時既にMk48 2発は慣性航行からパッシブ捜索とアクティブ捜索の二手に別れ追尾を開始していた。

そしてアクティブ捜索に移行したMk48はヤーセンをシーカーでしっかり捉えてしまっていた。


「魚雷距離500!400、300、200、100....」


ヤーセン艦内で死へのカウントダウンが始まる。


ズゴオオオオオオン!


Mk48の弾頭が炸裂しヤーセンは爆圧で船体に穴が空き、一気に浸水する。

水深390mでの命中したがこれはMk48魚雷の可潜深度ギリギリであり、あと少しで回避できるところであった。


一方ネバダもヤーセンが発射したフィジーク魚雷を回避するのはとても無理であった。

デコイを発射して時間を稼ごうとするもロシア海軍自慢の新型魚雷であるフィジークはすぐネバダを再補足し追尾を再開。

数十秒後、ヤーセンに続いて2つめの爆音が海中にこだまするのであった。



数時間後、事態は急激に悪化の一途を辿り始めた。

2隻の撃沈は両者の意図を勘ぐらせる結果を招き、偶発的な武力衝突が起き始めていた。



<<大西洋洋上>>


2機のMig-31がノルウェー空軍のP-3C哨戒機に接近していた。


P-3Cはロシアの戦闘機が放つレーダー波をキャッチしており接近には気付いていたがここでロシア軍がまさかの対応が行うとは考えていなかった。

ロシア空軍のMig-31が突然ミサイル誘導用レーダーを照射し始めた。

P-3C機内に警報が鳴り響くとパイロットは急いで現空域からの離脱を開始する。

だがここでMig-31のパイロットはレーダーロックしたP-3Cに対し操縦桿のボタンを押してミサイルを発射した。

Mig-31のハードポイントに据え付けられていたR-33長距離空対空ミサイルがブースターを点火して発射される。

数十秒後、P-3CはNATO防空管制組織のスコープから消滅した。


軍末端部隊の武力衝突が始まり始めた頃、各国政府は事態を沈静化させるか芋づる式に戦闘を拡大させ通常戦力による力による現状変更を行うかの岐路に立ちどちらを選択するか最終判断を行っていた。

そして西側諸国としては盟主であるアメリカ合衆国大統領の最終判断に沿う空気ができている。

ホワイトハウスの地下壕で討議が続けられるもさすがのアメリカも事態の沈静化が望ましいということで意見の一致を見ていた。



だがその望みはむなしくも崩れ去り、様々な出来事が重なり合って非情な決断へと繋がっていく。

それから数時間後、決定が下された。


「攻撃を開始しろ」


太平洋、大西洋、北極海の海中から多数の熱核弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイルが発射される。

地上ではミサイルサイロから長距離弾道弾が発射され、移動式ミサイルも順次打ち上げられるのだった。


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