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アルカディアンズ 〜とある世界の転移戦記譚〜  作者: タピオカパン
猫の国ミャウシア連邦
14/136

空爆開始


<<ミャウシア陸軍野戦飛行場>>


飛行場には数十機のレシプロ戦闘機が駐機場に並べられて出撃準備が整えられている。

この時点でミャウシア陸軍の一般的な単発戦闘機の航続距離では飛行場からヨーロッパ諸国までは行動範囲ギリギリであるためこの飛行隊はもっぱら地上軍の対地支援を主任務にしていた。

またNATO軍は迎撃に徹し決して先制攻撃を行わなかったためミャウシア軍の外敵への警戒は疎かになっていた。

そのためNATO軍の攻勢が始まった時にはミャウシア陸軍航空隊は完全に後手に回った。

まずNATO軍は地上軍を動かす前に航空部隊でミャウシア軍の航空戦力及び指揮系統を叩き潰した後で後方線への阻止攻撃を行い仕上げとして地上部隊への近接航空攻撃に移る予定を立てた。

その初期段階としてNATO軍艦隊によるトマホークミサイル及びMdCNミサイルなどの巡航ミサイル攻撃が敢行されることになった。



<<大陸沿岸海域>>


海中に潜むイギリス海軍のトラファルガー級潜水艦、アスチュート級潜水艦からトマホークミサイルが魚雷発射管から海中に撃ち出され、すぐ上昇して海面から突き出てくる。

突き出たミサイルはすぐにブースターに点火して海面から勢い良く飛び出して飛行を始め、水平飛行が始まった時周囲には十発のミサイルの群れが複数海面すれすれを飛行していた。


そことは別の海域でフランス海軍のアキテーヌ級駆逐艦のVLSからMdCNミサイルが垂直に発射されすぐに方向を変えてこれも海面すれすれの水平飛行を開始し、フランス軍艦隊各艦からミサイルが順次撃ち出されて大陸の方へ向かって飛んでいく。


これらの巡航ミサイルはミャウシア陸軍の前線司令部、通信施設、飛行場を標的にしていて、最初の一撃でミャウシア軍の作戦指揮能力の大半を奪うのが目的だ。



<<ミャウシア陸軍前線司令部とその周辺>>


この日もミャウシア軍の前線司令部に変わった様子はなく、誰も攻撃されていることには気づいていない。

その頃ミサイル群は丘や河川を識別し時には谷間をぬって徐々に目標へと近づきつつある。

その様子は非常に大きな間隔を開けて一列に飛んでいる戦闘機部隊にも見えなくもない。

けれど地上からだと航空機よりはるかに小さいミサイルは視認しずらくエンジン音だけが轟くような異様な光景だ。

そしてミサイルは山間から平地に突入し、カメラで建物を画像照合して目標を捉え始める。


ミャウシア軍の方では兵士たちが地球人では聞き取れないような微かで異様な音が聞こえ始めしきりに猫耳をピクピク動かして方角を確かめようとする。

しかし音源が低音で反響もしていて方角が全くわからない。


「あれは何の音?」


「飛行機の音かしら?」


全く見当がつかず気付いたときには手遅れだった。

ミサイルは標的の建物へ一直線で飛んでいき命中すると大爆発が起きた。


ドカアアアン。


ドカアアアン。


ドカアアアン。


次々と重要な建物が吹き飛んでいき、終いに通信用の鉄塔が爆発で根本から折れて倒れ周辺の兵士が下敷きにならなかったものの衝撃でコケる。

寝耳に水とばかりにサイレンが鳴り基地防衛に当たる兵士たちはすぐに対空砲陣地に入って操作して盲撃ちで対空砲火を浴びせるが、この時にはミサイルは全弾着弾し終えていて対空砲火は無駄弾に終わった。

結果、重要施設はすべて吹き飛び中に詰めていた多数の高級将兵は瓦礫に埋もれてしまった。

また野戦飛行場でも人が詰めているような施設に絞って攻撃が行われ、多数の死傷者を出していた。


そしてほとんど間を置かずに航空部隊による空爆が幕を開けた。


「こちらパンサー2、目標をターゲティングした」


「了解。投下」


F-16MLU戦闘機から爆弾が投下された。

これはペイブウェイと呼ばれるレーザー誘導爆弾で僚機がレーザーで目標をターゲティングしてそこ目掛けて軌道修正しながら落ちていく爆弾だ。

命中率は極めて高く現代の空爆の花形と言っても過言ではなかった。

ターゲティングしている戦闘機ではサーマルカメラ越しに爆発の映像がモニターに映る。


ズドオオオオオン!


2000ポンド、約1トンの爆弾が新しく作られた架橋に命中し、巨大な爆炎と共に長さ50m分が爆弾によってもぎ取られる。

橋のたぐいは重要目標であり片っ端からすべて破壊するのだ。


次は野戦飛行場だった。

巡航ミサイルで一撃加わり機能不全になったところを畳み掛ける。

なんとか上がって上空待機していたミャウシア軍のレシプロ戦闘機は護衛任務についたMig-21戦闘機やMig-29戦闘機によって一瞬で排除される。

コックピット内や電子機器が西側戦闘機に近いレベルまで近代改修されたMig-21ランサーは短距離ミサイルを発射してすごい勢いでミャウシア軍機を叩き落としていく。

またミャウシア軍は対空砲や機関砲で応戦するが完全に射程外から攻撃を加えていて当たる気配は一切ない。

それをいいことに格納庫や駐機戦闘機、通信施設、レーダー、めぼしい目標という目標をトーネード戦闘攻撃機やユーロファイター戦闘機が優雅に片っ端から吹き飛ばしていき終いにトーネードが持ってきたMW-1ディスペンサーで滑走路に丁重に地雷をばら撒いて帰っていった。

野戦飛行場は修復不可能なレベルで破壊され尽くした。


補足すると地雷散布やクラスターなどはヨーロッパ諸国だとだいたい禁止されていたが、召喚前に第三次世界大戦が迫ったことで再保有の動きが出てクラスター爆弾に関する条約がある程度有耶無耶化し使用のハードルが低くなっていた。


そして航空攻撃はまだまだ続く。



<<ミャウシア軍占領地域>>


NATO軍の空爆が始まって数日が経過する。

NATO軍航空部隊は一切損失を出さないまま戦果を積み重ねていた。


「投下」


十数秒後、弾薬集積所に爆弾が命中し巨大な火の玉が出現しその後黒いきのこ雲が姿を表す。

この爆発は周囲数キロにわたって木に止まる鳥が驚いて飛び去るほどの爆音を轟かせた。

後には巨大なクレーターと最初の爆発で周囲に飛んだ弾薬がまた爆発してできた小さなクレーターが囲む凄惨たる風景が出現する。


「投下」


今度は補給部隊の車列の先頭車数台が爆弾の爆発に巻き込まれる。

健在な車両からはミャウシア軍兵士が次々下車して周囲の物陰へ走って行き隠れる。

NATO軍航空部隊は無人になった車両でも攻撃を続行し、反撃能力が無いと見て機関砲による攻撃も行った。


ミャウシア軍兵士の間では一度空から狙われたら車両や建物は絶対全て破壊されるという共通認識ができ始め、そのあまりの攻撃能力に恐怖心さえ芽生えてしまっていた。

その頃ミャウシア陸軍の司令部では重苦しい空気が立ち込め将軍たちの怒鳴り声が響いていた。



<<ミャウシア陸軍司令部>>


「でありまして敵軍の航空作戦能力は凄まじく全く打つ手がない状態が続いています」


「泣き言はいい!どうするというのだ、有効策を出せ!」


「そ、それは...」


「もちろん物量で攻め上がるしかないでしょう」


タルル将軍や他の軍閥将軍が参謀部や連絡官をどつき回す中清々しい表情で質問に答えたのはニー参謀総長だった。


「なんだと?」


将軍たちは参謀総長を睨む。


「各官の怒りは御もっともです。今作戦が委員会の追認で成り立っている以上、これ以上の兵力の投入が不可能なことは百も承知していますが、皆さんもお分かりのはずですよね?。我々の勝機はそこにしかない。敵は非常に数が少ないですがキルレートは怪物並みです。今の所我が軍は敵機を一機も落とせず、前線配備した航空隊もほとんど動けずに駆逐されてしまいました。しかし地上軍の攻撃には手を焼いている様子です。なにぶん寡兵で大群を潰すのは骨が折れますからね。であれば補給線を逐次潰されてますがまだ健在な地上軍を前進させ増援を随時送り込めば敵は対処しきれずに押し込めるはずです」


「簡単に言うが中央委員会は絶対増援を認めないぞ」


「それが何なのでしょう?各軍区司令部を掌握できないような連中に我々の行動を制約できますか?いいえ、できないはずです。そうでしょう、タルル将軍?」


「そうだが後々面倒事になりはしないか?」


「大丈夫です。今回も手はうっておきますよ」


「そうか。ならやるとするか。陸軍省指揮権を行使し、大規模な群の派遣を行う!」


各軍閥がおおーという表情をする中参謀総長はニコニコし続けた。

かくしてミャウシア軍は何波にも増援と補給物資、工兵部隊を送り込んでNATO軍を追い込み始めることになった。



NATO軍航空部隊による航空作戦は二週間目に入っていた。

現時点までの作戦参加機は200機、出撃回数はのべ5000ソーティ、投下した爆弾は7000発で機関砲弾も多数消費された。

その戦果はそこそこで以下のとおりである。


破壊率

旅団以上の司令部 90%

航空戦力 95%

架橋 100%

主な物資集積所 80%

給水施設 100%

本国からの補給阻止 70%以上


これにより前線のミャウシア軍の物資不足と士気の低下が深刻化しかねない状況だった。

司令部の類は機能不全に陥り、本国とのやり取りが全然進まないので行動を起そうにも四苦八苦してしまう。

そして補給に関しては最悪だった。

橋をすべて破壊され補給部隊も見つかり次第消し炭にされてしまう。

このまま推移すればいずれ完全に物資が枯渇してしまうのは明白だった。

また給水施設をすべて破壊されてしまったためわずかで小さな給水装置以外ほとんど河川水や井戸水で全軍の飲み水をカバーしている状況のため徐々に戦病者が増加し始めていた。


更に追い打ちをかけるように阻止攻撃がひと段落したところで戦闘部隊への攻撃もちらほら行われ始め、特に戦車や火砲などわかりやすい目標がすさまじい勢いで破壊され自軍の間で棺桶扱いされるようになってきていた。

なので一度攻撃が始まると戦車や装甲車の乗り捨てが横行する。

打つ手がない状態に兵士たちはただ怯えながら、空を我が物顔で飛んでいるF-16戦闘機とJAS39グリペン戦闘機を見つめるしかなかった。



<<欧州連合軍司令部>>


「まだ空爆が始まって間もないので敵の疲弊は微々たるものですがこの状態が続けば総崩れになるのも時間の問題でした。しかし敵はこの戦いに本腰をいれてしまったようです。現在ミャウシア本国から多数の後続部隊、補給部隊、航空施設設営部隊が派遣されその総数は前線含め30万以上になる見込み込みです」


「30万だと!」


司令部議場がどよめく。


「航空部隊だけで撤退に追い込めそうですかな?」


「残念ながら。潰すべき目標が多すぎて攻撃が追い付かなくなるでしょう。誘導兵器の在庫もそれなりに減って来ているので航空阻止だけではいずれ限界にぶち当たるはずです」


「では地上軍を動かさざるを得ないということですね」


「その通りです。今なら前線部隊に大打撃を与えて後続部隊に臨むことができるはずです」


「ですが当初の撤退へ追い込む目論見は完全に崩れてしまったということはここで我々が総攻撃に出ればミャウシアはさらなる措置に踏み切る可能性があります。お互いに引っ込みがつかなくなれば兵力で大きく劣るこちらはジリ貧です」


「いや賽は投げられたんだ。どの道やらなければやられるだけです」


「しかし...」


「こちらも同感です。コンセンサスは総攻撃で問題ないはずです。各国首脳に採択を求めましょう。もう時間がない」


「やはりそうなりますか」


NATO軍では各首脳のGOサインの元、大規模な地上戦に突入するのであった。



<<ミャウシア軍最前線>>


ミャウシア軍は燃料不足を心配しながらも着実に前進を続けていた。

今のところこの部隊は目立った航空攻撃を受けていなかった為、勢力としては健在なままだった。

しかしそれもNATO軍とぶつかるまでのことであった。


「斥候からの報告で敵の地上部隊が大規模に動き始めたとの報告が入りました。敵との距離はおよそ70kmです」


「数と行先は?」


「把握できていない模様ですがそこまで数は多くないようです。ただ移動速度がすさまじく速いため逃げきれずに捉えられる偵察部隊が多数出ています」


「ふむ、偵察機も当てにできず偵察部隊も捕まってしまう始末か。仕方ない、いったん停進して敵を迎え撃つ。各連隊に伝達しろ」


「はっ」


ミャウシア軍部隊は先日からの攻撃で敵を侮るのを完全にしなくなったため慎重に行動するようになっていて、迎え撃つ判断もおおむね正しかった。

しかしそれは地球の軍隊相手では全く意味をなさなかった。



<<NATO軍地上部隊>>


「前進!」


号令がかかり各車のエンジンが音を立て車体が動き始めた。

停車していた数十台の装甲戦闘車輛が発進する姿は軍事マニアから見れば圧巻である。


まずミャウシア軍と正面衝突する役目はウクライナ軍やルーマニア軍が担うことになった。

更にミャウシア軍に強烈な左フックを食らわせるように迂回進軍する役目はドイツ軍、フランス軍、ポーランド軍、その他各国の装甲連隊である。

最も重要な左フック攻撃は一線級の装備を持つ軍隊が担うのだ。


そして前進が始まって12時間後、ルーマニア軍の機甲部隊がミャウシア軍と交戦可能距離に到達し、最初の砲声が轟き、戦いの火ぶたが切って落とされた。

独特のフォルムのTR-85M1戦車の100㎜砲がミャウシア軍戦車を捉え、砲撃を開始する。


地球国家群は召喚後初の大規模な地上戦に突入した。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] シックハック⇒四苦八苦、かな…?嫌、これはわざとかな?
2019/12/12 13:01 コーウェン
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