変わった遭遇
バクーン王国 首都
ここは狸のような耳や尻尾を生やした種族の国であるバクーンの首都だ。
ちなみにバクーン人は狸のような耳や尻尾を生やした種族ではあるが男女によってその動物的な特徴に違いがある。
男性の場合は女性より尻尾が小さく目立たないなどである。
そのバクーンではミャウシア内戦と並行して別の戦争が展開されていた。
王宮の一角の部屋では外を行進する衛兵を窓から眺める人物がいた。
バクーン王国の太子であるホメイニホだ。
太子が穏やかな表情で外の様子を見ていると兵士が部屋のドアを叩き、太子の入れという合図の後に入ってきた。
「報告します。ミャウシア、グレースランドを発信源とする暗号電報を傍受しました」
「それで?」
「同意を現す符牒です。ですが内容は添付されていないようです」
「わかった。下がっていいよ」
「はっ」
兵士が部屋を出る。
「さーて。どうなるかな」
太子はそう言って窓の外をまた見る。
バクーン軍占領地
「お待ちしておりました。ヒミカ様」
「お久しぶりですね。将軍」
バクーンの王太女であるヒミカがバクーン軍の占領地に視察で訪れていた。
名目上は督戦的な意味合いだが実質的にはただの激励であり、形式的なものだった。
そのはずである。
ヒミカと将軍の談話が続く。
「ここが方面軍の司令部なんですね。てっきり野外キャンプをしているのかと思ってしました」
「はっはっは。戦場ではそうなのですがここは戦場ではないのでないですからな。敵がいないのであればこうして腰を据えて指揮を行うのが一般的なのですよ」
「ふーん、なるほど。...そういえば将軍、腰を据えて軍の指揮に当たっているとおっしゃいましたが、その件で私、お父様から言伝を預かっていたんでした」
「いや、これは言葉の...」
将軍が言い終える前にヒミカは畳みかけるように伝言を伝える。
「敵の拠点はいつ落とせる?できませんでは後がないぞ。....だそうです」
将軍は顔色悪そうにヒミカの言伝を聞く。
「お父様は方面軍の進捗に大層、心配なされているようです。今回の視察でお父様にいい報告ができればいいのですが...」
「...ぅ」
「...と、まぁ、お父様の件はここまでにしましょうか。私、司令部をちょっと見て回りたいんですけどよろしいですか、将軍?」
「も、もちろん!」
将軍は慌てたようにヒミカを案内しようとする。
とは言っても本人もそこまで詳しいわけではないので副官に案内させる形式だ。
司令部にしている宗教か何かと思われる宮殿を一行は見て回る。
するとヒミカが施設の外にある廠舎のような建物に気づく。
「あれは?」
「捕虜収容所施設です」
副官が答える。
「そう。じゃあ、案内して」
「皇女であらせられるヒミカ様が赴く必要などない卑しい所です。もっと視察に相応しい場がたくさんございますのでそちらのほうを...」
「厚意は嬉しいけど私はあっちに行きたいの。いいよね?」
将軍はヒミカの機嫌取り躍起になっているようだが逆効果だったようで念押しもされてはもはや逆らいようがない。
一行が建物に入ると牢がいくつもあって中には複数種の異種族が拘留されていた。
「へー、これがこのあたりの異種族なんだ」
ヒミカは嘲笑っているのか本当に何も含みがないのか判別するのが難しい好奇心のような反応でつぶやく。
「この捕虜はどうなるの?」
「本国へ移送して調べるために占領地で得た捕虜や捕縛した異種族が集められています」
副官が抵抗なく答える。
やっていることは倫理観が問われるような非常にダークなことだった。
ヒミカは無表情でそれを聞いていた。
嫌悪感や優越感などの意図はその表情からは読めない。
そんな様子で牢の中の異種族を見ていたヒミカはある牢に入っていた個体に反応する。
「この子は?」
ヒミカが名指ししたのは獣の耳が付いたヒトの上半身とウマの胴体が合わさったいわゆるケンタウロスと同義の種族の女性の捕虜だった。
「ここから数百キロ、東の戦線で抵抗している勢力の捕虜です」
バクーン軍は南半球の大陸の北岸一帯への侵攻を行っており、この捕虜は現在視察している戦線の更に東で拘束され、ここに移送されたようだ。
ヒミカは牢の前に立って捕虜を見る。
何を考えているかは定かではないが注目しているようだ。
捕虜は上半身は美少女で下半身はポニーくらいの馬の胴体のケンタウロスの少女で汚れた軍服のような戦闘服を着て少しやつれていた。
そのケンタウロスの少女もうつろな瞳でヒミカを見返す。
しばらくしてヒミカが発言した。
「この子、預かっていい?」
副官と将軍が驚く。
「ヒミカ様、よろしいのですか?!」
驚いている将軍は確認のためにヒミカに問いかけるが否定文を入れないなど多少は学習しているようだ。
「もちろん。見張りの兵は付ける。だから牢から出してちょうだい」
副官が将軍を見る。
将軍は引きつった表情でやれというニュアンスのジェスチャーをとる。
副官は看守を連れてきて牢の鍵を開けると兵がボルトアクション小銃を構えながらケンタウロスの少女を立たせて出るよう促す。
ケンタウロスの少女が牢を出ると改めて二人は対面した。
また、その状態で見ているとヒミカが少しだけ笑顔を見せる。
その様子をケンタウロスの少女は不思議そうに見るのだった。