飛行場の奪取3
ヨーロッパの軍港
軍港では日本から派遣されていた海上自衛隊のミサイル護衛艦(ミサイル駆逐艦)が出港準備進めていた。
日本周辺の情勢不安を理由に派遣部隊に撤収命令が下ったからだった。
米軍の地上部隊はこのまま作戦を続行するがアメリカ軍艦隊も一部が本国への帰還準備を始めていた。
こんごう型護衛艦が準備を終えて港を出港する。
現状では懸念程度で済んでいる。
その懸念対象が本格的に行動を起こそうとしているとは知らずに。
ミゥボロスク飛行場周辺
空挺部隊の戦いは山場を迎えていた。
飛行場の西側は大河なのでここから攻められることはないが南側の大河に流れ込む支流の中規模な河川は河川敷を含めて幅広い場所でも500m未満の幅しかない。
しかも工兵隊による架橋ができる程度に穏やかな川なので守備すべき範囲は何キロにわたる。
そのため、反政府軍は数にものを言わせるように多数の歩兵連隊を投入して突破を図った。
ナナオウギの部隊は特殊部隊ではあるが猫の手も借りたいこの戦線の防衛に当たっていた。
「距離600。敵の歩兵がわんさか来てるぞ!」
「ミーガルナ。連射しなくていい。川に近づいてくる相手だけをピンポイントで狙え」
「あいさ!」
ナナオウギたちはお互いに指示を飛ばしながらとにかく遮蔽物や蛸壺を駆使して拠点防衛に徹した。
敵はじりじりと川に近づきつつ重火器などの圧倒的数の火力を対岸のNATO軍部隊に叩きつけている。
けれどもナナオウギたちはしっかり隠蔽しつつも架橋やボートの運搬、自力による渡河は発見次第、銃撃を加えたり、稀にジャベリン対戦車ミサイルを味方の部隊が発射して排除するものだから全く突破できない。
だが、ナナオウギ達にとって最も脅威なのは敵歩兵が放ってくる5.5mm弾ではなく歩兵部隊の66mm迫撃砲や88mm迫撃砲だった。
ナナオウギ達の陣地に砲弾の風切り音が聞こえる。
「迫撃砲だ!隠れろ」
ナナオウギ達の近くに砲弾が次々着弾する。
ナナオウギ達は急いで蛸壺などに潜り込んでやり過ごす。
砲撃の精度は大したことがなかったので損害は出なかった。
けれども、次は修正射を撃ってくるはずだ。
「次の航空支援はいつだよチキショー!」
ナナオウギが航空部隊の支援が足りないことに愚痴っている中、仲間が無線で味方の迫撃砲小隊にカウンター砲撃を要請する。
しかし、敵の迫撃砲部隊がどこにいるかわからないのですぐにカウンター攻撃はできない。
見たところ砲弾はミャウシア陸軍の88mm迫撃砲のようだ。
ということは射程は3000m程度、おそらく2000mくらい離れたところにいるはずだ。
とりあえず撃ってこれそうなところを米軍の空挺部隊が小型ドローンで偵察することになる。
そうした中、シモンが1kmくらい先の木の先端付近に人影があることに気づく。
シモンはなぜ木の上に人がいるのか理解できなかった。
―川岸までくればいいのに。
シモンはそう思った。
ミゥボロスク飛行場周辺
機動戦を続けていたアメリカ海兵隊の地上部隊は作戦開始から3日目にミゥボロスク飛行場周辺まで到達していた。
LAV-25歩兵戦闘車からなる偵察中隊が反政府軍の陣地に近づく。
敵が対戦車砲や無反動砲を装備していれば攻撃してくるだろう距離に達するが攻撃してくる気配はなかった。
なぜならここは偽陣地という敵が潜んでいない塹壕陣地となっていたからだ。
偽陣地は防衛部隊がどんな防衛戦術を取っているかを敵に悟らせないための偽装だ。
攻撃側が偵察不足なら本物の陣地として誤認し、誤った攻撃方法で攻めてしまったり攻撃を断念させることに繋がるのだがNATO軍には通用しなかった。
それには理由がある。
装甲車部隊が塹壕に近づくと数人の歩兵が手を振って部隊を招き入れる。
地上軍を支援するために先行していた特殊部隊だ。
彼らによって偽陣地に主力部隊がいると見せかけるために配置された数人の牽制部隊が排除、捕虜になっていた。
もし増援が来ても彼らが防いで時間稼ぎしてくれる。
ここは幹線道路から大きく離れていて小川と湿地で進軍するにはあまり適していなかった。
そのため、ここを守る兵力は非常に少ない。
なのでこの偽陣地は兵力不足ために設けられた陣地でありここをすっぱ抜かれると飛行場を取り囲んでいる塹壕線まで防衛陣地がない。
偵察部隊がこの地点を確保して手作業で地雷除去を行っているとH-53 シースタリオン数機が重機を吊るして現れた。
急行した工兵隊とは別に後続の工兵部隊も到着し、持ってきた資材も使ってぬかるみをあっという間に埋め立て、小川に架橋し、またぬかるみを重機で埋め立てる。
所要時間は極僅かだった。
地上軍は飛行場周辺に突入する。
ミゥボロスク飛行場の南側周辺
シモンがナナオウギにもとに駆け寄る。
「分隊長さん、1km先に木によじ登ってる敵がいた」
「木によじ登った敵?」
ナナオウギは何のことだから一瞬わからなかった。
それよりもシモンの相変わらずのなんでも見通せる千里眼じみた視力にまた感心してしまった。
そして冷静に考え始めると木に登った敵兵が何なのかわかった。
「迫撃砲の観測員か!シモン、そいつ狙えるか?」
「できる」
シモンはボルトアクション小銃のタンジェントサイトの目盛りを動かす。
シモンは目盛りをミャウシア世界の数字である11に合わせると神経を研ぎ澄ませて狙いを定め始めた。
そして発砲する。
弾丸は敵兵の頭上から1m逸れた空中を素通りしていく。
パシン!という弾の風切り音に敵兵は驚くが流れ弾だろうとたかをくくってしまい移動しなかった。
シモンはボルトを引いて空の薬莢を排出し、ボルトを戻して次弾を装填すると再度狙いを定める。
再度発砲した弾丸は見事に敵兵に命中し、木から真っ逆さまに落ちていった。
「落ちた」
「よ、よくやった」
ナナオウギはシモンの報告に顔をほんの少しだけ苦笑いするように答えた。
ナナオウギは隊長に砲兵スポッターの存在と排除を報告するとそれを無線で敵砲兵を探している味方に伝達した。
しばらくしてスポッターがいた地点の後方でアメリカ軍の手のひらサイズの超小型ドローンが敵の迫撃砲を発見する。
アメリカ軍空挺部隊の迫撃砲小隊などがM224 60mm迫撃砲を使ってカウンター砲撃を行う。
口径は小さいが敵の88mm迫撃砲を超える長い射程があるので反撃可能だ。
試射を行い、次いで修正射撃、そして効力射を迅速に行って敵が陣地転換する前に迫撃砲部隊の砲や人員の損害を与えた。
敵は迫撃砲をバラして陣地転換するのに前のめりになって逃げ遅れてしまい、慌てふためきながら60mm迫撃砲弾の破片によって次々負傷していくのがドローンによって観測された。
これでなんとか敵の砲撃をしのぐ。
しかしこんな消耗戦は長くは続けられない。
味方にも若干の焦燥感が見て取れるようになる。
そうこうしていると今度は複数の44mm対戦車砲を1門につき数人のミャウシア兵が手押して現れた。
敵の対戦車部隊は44mm榴弾を対戦車砲に装填し発砲すると数秒に1発という高速装填を行いながら砲撃してきた。
敵も出せるものは全部出してきたようだ。
近くに着弾した砲弾の爆風とそれによって飛んできた土がミーガルナの顔にかかる。
ミーガルナはキャッっと叫んで思わず伏せた後、こんちきしょうとばかりにM249ミニミ軽機関銃を構えなおして突出する敵に銃弾を浴びせる。
万事休すかとも思われた矢先、事態はようやく好転する。
味方の攻撃ヘリが敵部隊に攻撃を開始した。
数分間にわたる攻撃で周辺の敵の重火砲のほとんどが破壊され、敵の圧力が弱まる。
そしてナナオウギたちの後方から友軍の装甲車部隊が姿を現した。
アメリカ海兵隊の軽装甲偵察大隊がナナオウギたちが防衛を担当する防衛線にようやく到達したのだ。
他の防衛線でも一部の歩兵部隊が増援として到達した。
もはや火力押しもできなくなった敵の歩兵師団は現有戦力では突破困難と悟ったのか川岸から後退して防衛体制に移行し始めた。
ミゥボロスク飛行場
「撃てぇ!」
M1A1エイブラムス戦車からなる戦車中隊が敵のいそうな塹壕という塹壕に120mm砲弾を撃ち込んでいた。
周囲に戦車砲の爆音が轟き続ける。
飛行場ではアメリカ海兵隊の主力部隊が猛攻を加えていた。
飛行場の敵守備隊は兵力不足から空挺部隊を挟み撃ちするような攻勢には消極的だったので、空挺部隊との間の戦闘は小競り合い程度で済んでいたが、ここにきて激しい地上戦を展開する。
守備隊には対戦車ミサイルと携行式対空ミサイルを少数だが与えられていたようなので偵察に来たLAV-25の1両が陣地に迂闊に近づきコンクールス対戦車ミサイルで撃破され、数人が死傷する損害を出してしまっっていた。
それを救助しようと装甲部隊が敵の防備が固い部分に殺到したために不本意な激戦に突入したというのが事の発端だった。
けれども無勢に多勢ということもあり、大規模な塹壕を有する守備隊はその日の夕暮れには降伏に追い込まれた。
こうしてミゥボロスク飛行場を占領したNATO軍の占領地はミャウシア連邦の湾口都市ティニャノナスク市を包囲する形となった。
その頃、ミャウシア政府軍の方でも動きがあった。
オチが緩いというかテキトウな感じするんでもしかしたら書き直すかもです。
すいません。