空挺作戦5
ミーガルナが運転するトラックは夕暮れの草原を移動していた。
味方だと艤装できているのか敵の塹壕や歩いている敵兵から見える位置を走っていても攻撃される気配はなく気にしている様子もなかった。
移動している間は飛行場周辺の敵の配置を多少確認できるのでたまたま見かけた野砲や対空陣地を記録する。
「隊長、「とくしゅぶたい」っていつもこうやって敵を欺いたりするのが仕事なんですか?」
ミーガルナがナナオウギに運転しながら聞く。
「...いや、....たぶん違うと思う」
ナナオウギは特殊部隊に配属されて日が浅いし、選抜試験に応募してなった口ではないので特殊部隊についての知識はそこまで多くはないのだが、奪った車両で敵地内を動き回るというのは相当イレギュラーだということはなんとなくわかる。
スパイ物小説やゲームならあるそうなシチュエーションだが現実となるとそのようなことはまずないだろうからだ。
「じゃあ、隊長が飛行場で説明した通りの任務が特殊部隊の仕事なんですか?」
「ん~、たぶんそういう事でもないんだと思う」
「??」
ナナオウギはうまく説明できず、ミーガルナは歯切れの悪い回答に怪訝な顔をして不満そうだった。
元々兵卒のミーガルナには何でも屋のように見えて何でも屋ではない特殊部隊の立ち位置が解せないようだ。
世間一般の認識もそんな感じなのだから無理からぬことである。
けれどもここが戦場であるせいか変則的な問題が発生し、問題を解決するためにやることが更に複雑化していく。
「隊長!もしかしてアレ、検問?!」
「...まずい」
「え、どうすれば?!」
「慌てるな。話を合わせてやり過ごすんだ。無理なら合図して走り出せ」
「りょ、了解!」
ミーガルナは緊張しながらナナオウギの指示に従う。
ナナオウギは隊員たちに知らせて待機する。
「おい、止まれ!」
敵兵の命令に従ってミーガルナはトラックを止めた。
「急いでるんだけど?」
「どこへ行く?」
「南の陣地だけど?」
「何を運んでいる?」
「弾薬だけど」
「本当か?」
「悪いけどこっちはあんたたちの検問ごっこに付き合ってる暇なんてない。敵が攻撃してくる前に運ばないとあたしが上官にどやされるんだよ。あんたが身代わりになるならいいけど」
「....」
兵士はミーガルナを睨みつける。
ミーガルナも兵士たちを睨む。
一部の兵士は荷台を覗こうかとする。
覗いた瞬間、自動小銃でハチの巣にされるというびっくり箱のような状況だが勿論、兵士たちはそんなことは知らない。
しかし、今度は状況が好転する。
「っち。わかった。行っていいぞ」
「ふん。そういうのは農民かレジスタンスにやれってんだ」
兵士たちは荷台を覗こうとするのをやめて道を開ける。
ミーガルナは捨て台詞を吐くとトラックを発車させた。
しばらくしてミーガルナは汗だくになって興奮する。
「やった!やった!あ、あたしやったよ、隊長!」
「...らしいな。ナイス、アドリブだった」
ナナオウギは緊張から解放され、安堵しながらミーガルナを褒めた。
命の取り合いを回避できただけで御の字とナナオウギは考える。
それに今の彼らは悪目立ちすると敵が殺到してしまうのでそれでは本末転倒だからだ。
夕暮れの中をしばらくは走っていると地雷原に差し掛かりミーガルナはナナオウギに指示された通りにトラックを道から逸らして停車させる。
「道から離れたところを走れば走破できそうな気がするけど...」
「いや、ここでいい。その発想自体、地雷を埋める側の思う壺らしい」
「思う壺?」
「ああ。隊長曰く、道からある程度離れた場所にもフェイントのために対戦車地雷を埋めるのはよくあることらしい。現にミーガルナも道は危ないから道の脇を走ろうとしただろ?」
「...なるほど」
ミーガルナは確かにと思った。
部隊はトラックから降りると目的地に向けて歩き始めた。
先頭にはシモンの姿がある。
シモンはスコープのない素の小銃を手にし、その警戒監視能力をかわれてもっぱら索敵に徹する。
部隊は夜の農地を数時間移動して目的地に着いた。
空挺部隊が夜明けとともにここへやってくるのでそれまで敵が来ないよう警戒と敵の接近阻止を行うのが現時点の任務だからだ。
部隊は小銃を構え、障害物にまぎれて周囲を警戒する。
空挺開始まで1時間を切る。
そんな中、ミーガルナがシモンにひそひそと話しかける。
「少しいい?」
「いいよ」
シモンをよく思ってなさそうだったミーガルナのこの行動をナナオウギはアレっ?と思いながら遠目に見える。
「あんたにつんけんな態度で接したことを謝りたいの」
「別にいい。気にならなかったから忘れてた」
「そっか。...あともう一つあるんだけど。あんた、なんでレジスタンスやってるの?」
「...軍に村荒らされたからその仕返し。...いや、仕返しだと語弊があるかも。誰かがやらないといけないことだからあたしがやろうと思った。うん、そんな感じ」
「...あたし、反政府軍じゃないけど...」
「そういうのいいよ。恨みとかムカつく連中だとか、そういうのあたいにはどうでもいいんだ。さっきも言ったけどさ。あたいはあたいの使命を果たすために、為すべきを為すだけ。それだけ」
「....そっか。じゃあ、仕切り直そう。あたし、ミーガルナ。ミーガルナ・チェリッシュ。よろしく」
「あたいはハミュリハ・シモン。よろしく」
ミーガルナはここへ来るまで心に余裕がなかったせいか、シモンにつんけんな態度を取ってしまっていたを後悔していたようだ。
けれどもシモンは見た目によらずか見た目通りなのか何にも動じない強い芯のある人物だったようだ。
おかげでわだかまりのようなものをあっという間に取り払うことが出来たようで、ナナオウギも良しと言いたそうに首を少し縦に振る。
そんな中、状況が一変する。
シモンは地平線に何かを見つけたのかその方面を凝視する。
無意識に白黒のストライプ模様の入ったトラ耳もピンと立たせて臨戦態勢に入る。
「敵部隊が南側から接近中。数は一個中隊」
フランス兵の一人も気づいたようで他の隊員に敵の接近を知らせる。
軽戦車とトラック数台で接近してきたのだ。
空挺開始まで30分もない。
やり過ごしても空挺部隊を目撃して引き返してくる可能性が高い。
迎撃するしかないようだ。
思い付きで話を進めすぎて整合性とるのがキツイ場面が多くて困ってます。
すいません。
忙しくなっているので更新が鈍化したり途切れたりするかもです。
すいません。
ミーガルナの名前を間違えました。
すいません。