直前
ミャウシア南部の前線
ミャウシア南部の政府軍勢力圏への侵攻を続ける反政府軍は政府軍の激しい抵抗を受けて進撃速度を落とし続けていた。
政府軍の女性兵士が曲線のない砲弾を草などでカモフラージュされた77mm野砲にグーパンチで押し込んで装填する。
装填されたのはつい最近設計して直ぐに急造し実戦投入された成形炸薬弾、通称HEAT弾だった。
「ニャゴーニ(撃て!)」
孤立していたソ連製のT-62M戦車に初弾で砲弾が命中した。
砲弾は車体正面端のスペースドアーマーが装着されていない傾斜装甲に命中すると爆発しメタルジェットを形成して装甲板を貫通した。
スペースドアーマーがないとはいえ200mmの貫通力を有する99mm野砲の徹甲弾でも弾かれてしまうかもしれない装甲板を見事に貫通してみせたのだ。
ギリギリの貫通だったために車内へ飛び出たメタルジェットの量は少なく、何かを誘爆させたり大きく損傷させるほどではなかったが破片で驚いたり負傷した戦車兵がハッチをを開けて続々と逃げ出した。
政府軍の攻撃は空からも続けられていた。
政府軍のジェット戦闘機部隊が超低空飛行で畑や雑木林の真上を高速で飛んでいく。
数機のF-4E改戦闘機の一群だった。
目標手前の味方陣地上空を通過する。
「目標地点まで5、4、3、2、1...」
地図と睨めっこするウーの目測とカウントダウンを頼りにチェイナリンが操縦桿を引く。
同時にフレアを一発だけ放出して後続の味方のために目印を付ける。
計器の計斜角が目的の値になったところでボタンを押して攻撃に移った。
主翼の下に据え付けられた4基のハイドラ70ロケット発射ポッドから極短時間の間に全ロケット弾が発射される。
一部弾頭はミャウシア側でデッドコピーして作られたものだ。
チェイナリン機はなるべく低高度を維持しながら旋回して反転する。
後続のミラベル機や部下たちも続々とロケット弾はぶっ放す。
ロケット弾は弾道飛行する様に有効射程を越えて飛んでいくと反政府軍の機甲部隊が足止めされている地点にばらけるように着弾した。
戦車やソ連のZiS-42に似たミャウシアのハーフトラックやトラックが数両破壊され、随伴歩兵も数十人死傷する。
この戦法はトス爆撃といい、投下する爆弾などの射程や着弾時間を伸ばす場合に用いられる攻撃方法だった。
チェイナリン達は強固な防空兵器で守りを固める敵機甲部隊を叩きたいが敵に身を晒して戦いたくはないという矛盾を解決するために苦し紛れにこの戦法をとった様だ。
防空網が強すぎて敵に近づけない攻撃機がするような戦い方だった。
しかし、この戦法の最大の欠点は命中精度が極めて劣悪という点に尽きる。
実際、ダメージを与えられたロケット弾はごくわずかだった。
無いよりはマシという感じだ。
政府軍の航空部隊から攻撃を受けた反政府軍機甲部隊はそれでも政府軍の防衛陣地の突破は図るために猛攻撃を続けた。
数十両の反政府軍戦車が対戦車壕の前まで前進したが、思いのほかしっかり作られた対戦車壕に足踏みする。
もちろん架橋戦車がいない訳ではない。
ミャウシア軍のルゥー77 対戦車自走砲を流用した架橋戦車が少し遅れるように対戦車壕に到達して架橋作業を始めた。
当然だがこの間、機甲部隊は身動きが取れない。
反政府軍の機甲部隊に対して後方の政府軍の砲兵陣地では野砲による一斉砲撃も始まる。
「ニャゴーニ(撃て!)」
ミャウシア軍で最も多く配備されているソ連のZiS-3に似た77mm野砲から爆音とともに砲弾が撃ちだされた。
砲弾は独特の風切り音と共に地面に着弾すると破片をそこら中にまき散らした。
戦車を2両ほど損傷させるなど車両へのダメージは限定的だったが随伴歩兵を数十人殺傷するなどそれなりの戦果を出し続ける。
架橋作業が終わり戦車部隊が続々と架橋を渡って前進を始めるがそう易々と防衛線の突破を許すわけがなかった。
戦車部隊がだいたい度渡り終えたあたりで先頭の戦車が対戦車地雷を踏んで爆音とともに土煙に包まれた。
対戦車壕の先は地雷原だったようだ。
対戦車壕の先の周囲の草むらや雑木林、集落から政府軍の歩兵部隊がひっきりなしに銃撃を加えていたため地雷を処理する歩兵は出せない状態だ。
地雷処理装備もない。
しかたなく後続の戦車が地雷を踏んで撃破された戦車とは違うルートを進もまたもや地雷を踏んで履帯を引き千切られる。
また身動きが取れなくなった反政府軍戦車部隊に対し、政府軍の戦車部隊が襲い掛かり始めた。
「そのまま、そのまま...止まれ!目標、10時方向の石垣と生垣の間の隙間の先だ。距離900。どれでもいい、ぶち込んでしまえ!」
近くの土手道の脇から政府軍のパウツ中戦車がハルダウンしながら砲塔を出して反政府軍の戦車を砲撃した。
車体側面に命中した徹甲弾が予備弾薬をぶち抜いたため戦車の砲塔が爆発と共に宙に飛んだ。
政府軍の戦車が障害物が多い場所を挟んだ位置から撃ってきたため、砲撃煙すら見つけられない反政府軍はどこから撃たれたのか判然としないまま右往左往する。
政府軍の戦車は更に別の戦車に砲撃を加え、撃たれた戦車は白煙を吹かし戦車兵がハッチを開けて飛び出す。
別の方角でもルゥー99 駆逐戦車が加勢する様に砲撃して反政府軍の戦車を大火力で爆発炎上させた。
先のルゥー77はソ連のSU-76に近い見た目だがこちらのルゥー99はソ連のSU-85に近い見た目の駆逐戦車だった。
更に政府軍の砲兵隊が修正射撃の後、ある程度の精度を保ってピンポイント砲撃を行い始めたので2、3両程度が至近弾や直撃弾を受けて損傷する。
特に戦車に隠れるようにてついてきた随伴歩兵には行の砲撃はたまったものだはない。
右往左往する様に猫耳の随伴歩兵達は死傷者を出しながら大声や悲鳴を上げた末、上官の命令を無視して勝手に退却を始めてしまった。
これでは反政府軍の戦車部隊も孤立すると思ったのか戻る様に架橋に殺到して退却を始めるのだが急いで渡ろうとするものだから戦車が2、3両、架橋から滑り落ちて対戦車壕に転がり落ちた。
遂には架橋が野砲の直撃弾を受けて破壊されてしまったため、残された十数両の戦車の戦車兵がハッチから出てくると戦車を放棄して架橋や対戦車壕を渡って逃走する始末だった。
この戦いでは反政府軍が防御陣地攻略を一旦諦めて後退した。
それでも戦況全体は政府軍にとって芳しいものではない。
徐々に持ち直してはいるが敗北している戦線の方が多い。
アメリカ軍の司令部
「反政府軍の抵抗は予想よりも激しいものになっているが作戦に変更はないそうだ」
作戦の最終段階に入ってから反政府軍の戦闘機がアメリカ海軍の戦闘機を撃墜するなど不安要素が噴出し始めていた。
撃墜された直後に徹底的なSEADと近接航空支援が行われたことで反政府軍はパイロットをむやみ追いかけたりせずに野放しにし、オスプレイの着陸地点をなんとか確保してパイロットを回収して撤収することはできたようだ。
だが、そうした不安要素があっても参加国の首脳やアメリカ政府も決定を覆すまでにはならなかった。
そうしたことから上陸部隊の主力であるアメリカ軍の司令部では作戦の最終確認を進めていた。
その頃、不安要素の当事者となっていたミンクス達反政府軍の戦闘機部隊は首都まで後退して頑強な掩体壕に戦闘機を隠そうとしていた。
NATOの手痛い反撃が飛んでくる前に逃げてほとぼりが冷めるまで身を潜めるつもりでいるようだ。
ミンクスが猫耳をビンビン動かしてこちらを見るているようにニヤける。
場面は司令部に戻る
「報告します。予定通り掃海部隊から海岸付近の機雷除去が完了したとのことです」
掃海部隊からの報告が司令部に入る。
掃海部隊は夜間に大陸際まで接近して機雷の除去を行い、夜明け前に一旦後退してまた夕暮れと共に大陸に接近して機雷を処理するという対機雷戦闘を続けていた。
夜間の機雷除去は危険なのだが上陸地点の海岸際の機雷は沿岸砲や対戦車砲などで砲撃される危険があったため、被発見を避けるために実施された。
掃海ヘリも陸からの近接対空ミサイルを警戒して海岸際には投入していない。
それが完了して上陸を遮りものが無くなったのだ。
司令部は上陸部隊に対して出撃を命じた。