弱者の戦い方1
長期間更新しなくて申し訳ありませんでした。
すいませんでした。
ミャウシア北部沿岸海域
水平線に薄っすらと大陸が見える海域ではNATO各軍の掃海艦艇がミャウシア反政府軍の敷設した浮遊型機雷の掃海を行っていた。
機雷原となっているこの海域では掃海艇の機雷処理によって時折、巨大な水柱が立ち上がる。
上陸作戦のための海上輸送路の確保が概ね整う。
ミャウシア北部内陸
アメリカ海軍のF/A-18E戦闘攻撃機の編隊が攻撃目標に向かって飛行していた。
NATOの航空作戦は終盤に差し掛かっていた。
現時点でブーク関連車両を3両、オサーを4両破壊しているがS-300の補足には至っていない。
これは今までには破壊した分も含めてミャウシアに持ち込まれた地対空ミサイルシステムの1/3と見られている。
当初の作戦では既に防空システムは封殺し終えている予定だったので、敵がいかに細心の注意を払って防空部隊を運用しているかがうかがえる。
アメリカ軍は残りの防空部隊を上陸した陸軍の対地用ドローンを用いた観測によって炙り出しながら叩く方針に切り替える。
もちろん、敵が積極的に対空攻撃してこないのでその分だけ沿岸やアルーム平原の外周地域を好き放題空爆できていた。
F/A-18Eからなる爆撃編隊は少し後方の沿岸部上空を飛行しているE-2早期警戒機の支援を受けながら攻撃目標へと接近する。
そこへE-2早期警戒機が交信してきた。
「こちらピープ(E-2)。ワンショット(爆撃部隊)へ。マッハ0.9の速度で貴官らに接近する編隊を探知した。現在地から方位126、距離90マイル、高度1500フィート。Mig-29からなる敵の迎撃部隊とみられる。作戦を中止し攻撃部隊は帰投せよ。護衛部隊は敵を迎撃せよ」
「了解」
E-2からのデータのアップロードによりまだレーダーで捕捉できてない敵の位置がコンソールに表示される。
「例の敵だな。ダブルピンサーか。何故かは知らないが俺たちの位置がわかっているようにも見える」
パイロットは続ける。
「ワンショット2-1へ、こちらワンショット1-1。回り込む時間がない。方位340へ変針してそのまま会敵する。フォーメーションはトレイル。俺たちは左、お前らは右だ」
「了解」
爆装したF/A-18E戦闘攻撃機の編隊を見送った後、空対空装備のF/A-18E 4機で編成された護衛部隊が順々に変針して迎撃に向かう。
ミャウシア反政府軍航空部隊
4機のMig-29戦闘機が低高度を飛行してアメリカ軍の航空部隊に接近しようとしていた。
当然、リーダー機のパイロットはミンクスだった。
『こちらオリョーミャ。敵をレーダーで捕捉。ビンゴです。敵と正対しています』
「どうなるかと冷や冷やしましたが何とかなったみたいですね」」
焦っている人物の発言とは思えないほど暢気な返答だった。
ミンクス達は敵が攻撃すると考えられる目標を予め予測してその周囲、特に敵の侵入ルートになるだろう地域にロシアから供与された通信機を所持する監視部隊を複数配置させていた。
そうすることでまともなレーダーサイトを一切持たなくても敵の位置をぼんやりと把握していたのだ。
もちろん会敵するには情報の正確性や出撃のタイミング、レーダーを掻い潜るルートの選択、アメリカ軍に察知される距離などの問題が山積している。
故に失敗すれば敵のレーダーは逆探知できても位置がわからないままミサイルでタコ殴りにされる危険がある。
これは定時哨戒や定時爆撃するようないつどこに来るかある程度見当が付けられる敵機を撃墜したり鹵獲する作戦で見られる待ち伏せ戦術であると同時に、余程の準備が無ければ成功しない戦術でもある。
けれどもそこはミンクスの才能なのか、限られた監視部隊の報告から敵の位置や編成を正確に推理し、適切なタイミングに適切な角度から接敵することに成功したのだ。
そうそう真似できることではない。
そして両軍は接敵する。
「上が迎撃を命じたってことはとにかく撃墜しろってことなんだろう。敵はアラモ(R-27)しか装備してない。ギリギリまで距離を詰めてアムラームを叩きこむ」
『了解』
ギリギリまでの距離とはF/A-18Eが放ったAIM-120アムラームミサイルの回避不能距離ということである。
F/A-18E側が速めにアムラームを撃った場合、Mig-29がドラッグ機動で回避を始めるとアムラームを回避される可能性が高いからだ。
この時の両陣営の戦力差は絶望的に開いていた。
電子機器の性能もさることながらミサイル性能の差にもよく出ていた。
アメリカ軍側のアムラームはアクティブホーミングミサイルなのでF/A-18Eからの誘導が切れても自立して敵をロックオンできる打ちっ放し能力を持っている。
一方のミャウシア側のMig-29のR-27はセミアクティブホーミングミサイルであり、Mig-29からの誘導波が切れたら敵をロックできないのだ。
その場合、F/A-18E側は敵が特攻してこない限り敵が途中でミサイルの誘導を止めて逃げの姿勢に転じると踏んで戦うことができるのだ。
しかも一度逃げの姿勢に転じたら反撃のタイミングは一切なくなるし、ミンクスたちはアブレストのフォーメーションを取っているので僚機どうしの援護体制もない、アムラームをドラッグ機動で回避できない距離でもあるので詰みだ。
更に言えばミャウシア側のMig-29が特攻してきたとしてもアムラームを放ってアメリカ軍側が直ぐにドラッグ機動に入ればR-27が命中するのより早くアムラームがMig-29に命中してそこで誘導が切れるからF/A-18EはR-27を現実的に回避できる。
加えてAIM-120C vs R-27ERであればF/A-18Eが遠方から射程の長いAIM-120Cを放った直後にドラック機動を取ればR-27から逃げ切ることも可能だと思われるが、これは中間誘導が速い段階で切れるので引き換えにアムラームの命中率が下がる。
もちろんミャウシア側もR-27Tを装備していれば一種のアクティブホーミングミサイルの様に扱うこともできるので戦力差は少し埋まるが、これは赤外線ホーミングなので遠方から撃つと目標を捕捉できなかったりフレアに釣られるなど欠点もあった。
アメリカ軍の高い索敵能力をある程度掻い潜ったミンクスだが流石にこれでは勝ち目がないように見える。
だがこれは正攻法で戦った場合の話だ。
そんなことはミンクスでも百も承知だった。
当然ながら正攻法で戦おうなどと考えていない。
ミンクスは味方に指示を出す。