自由の夜明け作戦3
現在進行形で行われている自由の夜明け作戦の初期の段取りはこうなっている。
第一段階として海上輸送の安全を確保する。
第二段階は航空優勢の確保と指揮系統の破壊。
敵地上軍を弱体化させるための航空攻撃と機雷の掃海の第三段階。
そして第四段階の上陸作戦だ。
第二、第三段階は並行して行われたのだが、第二段階の航空優勢の確保に躓いたため、第三段階のアルーム平原内陸の敵地上軍への攻撃を拡大できずにいた。
アルーム平原上空
アメリカ空軍のMQ-9 リーパー無人偵察機が赤外線カメラを旋回させたりズームイン、ズームアウトさせながら周囲を偵察していた。
アメリカ軍が異世界において保有するなけなしの広帯域通信衛星を駆使して操縦している。
航続距離ギリギリの範囲なので無人偵察機の売りである長時間滞空があまりできないので往復を繰り返して偵察せざる負えない。
けれどもその甲斐あってようやく目的の獲物を発見した。
赤外線カメラが15km離れた地点を移動中の車列を発見した。
低かった高度を更に落として数km地点まで近づくと車列の中に戦車やトラックとは明らかに異なるシルエットの車両が混じっている。
9K37ブークだ。
「海軍に伝達を。目標を発見しました」
無人機のオペレーターは直ちに海軍に目標の位置を通報した。
直ちに洋上のニミッツ級からEA-18G電子戦機とF/A-18E戦闘攻撃機が発艦する。
30分後、目標地点周辺の空域に侵入した。
ちょうど稼働体制に入っていた9K37ブークの母機ではオペレーターの白髪褐色肌のヌーナ族の猫耳兵士がレーダーを起動させて周囲を滞空する無人機の存在に気づく。
「デコイ?...いや、これは大型の無人攻撃機か!」
そう言って直ちにミサイル発射器を無人機に指向させてレーダー追尾を始めようとする。
だが、レーダー波は途端にアメリカ海軍航空隊の電子攻撃飛行隊に捕捉された。
すぐさま、AGM-88 HARM 対レーダーミサイルが発射され、ミサイルは吸い込まれるように母機へと飛んでいく。
母機にHARMが命中し、車両は上部の発射機が爆発して吹き飛んだ。
防空システムが機能しなくなったのを確認した攻撃部隊は無線で管制に報告すると矢継ぎ早に爆撃部隊が突入する。
他の防空システムの索敵に引っかからないようするためあまり高度を上げることができないF/A-18Eの編隊はフレアを焚きながら低い高度を維持して車列に接近するとHUDのマーカーが目標と重なった瞬間にMk82無誘導爆弾を投下した。
Mk82はバリュートを展開して急減速すると目標の車列の至近に落下して爆発していく。
敵防空部隊は1/3の車両が無傷だったものの主要な対空システムを全て失って壊滅状態となる。
防空網制圧作戦によって地道に敵の防空能力を削いでいくが作戦の内容の変更を迫るくらいには大きく遅延していた。
とは言え、NATOの主力であるアメリカ軍の上層部やホワイトハウスもこの時点で防空システムを完全に破壊できていなくても上陸は可能であるという考えに至っていた。
そういうこともあり上陸前の航空作戦は縮小、切り上げを考えて続けられる。
防空網制圧の傍ら、沿岸部に対する空爆も続いていた。
反政府軍の沿岸配備師団は依然として海岸線に布陣しており、空爆による損耗を補うための補充部隊も続々内陸からやって来ている。
これらの部隊の戦闘能力を大きく低下させるため、NATOは空爆2日目から数日間、5千ソーティ出撃を行うなど徹底的な爆撃を行う。
今まで同様に海軍航空隊に護衛されながら空軍部隊が爆装を携えて沿岸上空までやって来た。
そして内陸の防空システムが長距離索敵してこれないようEA-18GがECMを掛けつつ苛烈な空爆が始まる。
B-52やB-1などの爆撃機からMk82無誘導爆弾が無数に投下された。
爆弾が小さく見えなくなった後、地上に無数の瞬間的な発光がほとばしる。
既に住民は皆無というミャウシア人レジスタンスからの情報も考慮して漁村や沿岸の集落に身を隠す敵兵に対しても絨毯爆撃が行われた。
どちらかと言うとダメージを与えるというより沿岸配備師団の士気を奪うための心理作戦だった。
そしてF-15EやF-16C、タイフーンやラファールなどの戦闘爆撃機がレーザー誘導爆弾を投下して塹壕内の敵兵を次々と確実に殺傷して回る。
「くそがぁぁ!こんなのやってられるかぁぁ!」
「お、落ち着けって!」
周囲に爆弾の風切り音と爆音が響き渡る中、タルル将軍派に属するペイシャル族の反政府軍の女性兵士が塹壕内で錯乱し、ヘルメットを地面に叩きつけるとわめきたてて他の兵士が抑えられる。
他にも猫耳を両手で抑えながらブルブル震えて涙目になる幼いような容姿の男性兵士の姿もあって、士気は思惑通りストレスによって低下しきっていた。
既に現役兵を多数すり潰し、尚且つ兵力を拡大させているミャウシア両軍は兵力の大部分を徴集兵に頼っていた。
しかも反政府軍ではニャーガ族以外の民族や部族の兵士は無理くり徴兵され大義もないので統制が乱れている。
そんな状態だった。
NATO軍は大規模な増援が来る前に上陸作戦の下地の整えに掛かる。
そんな中、虎視眈々とNATOの航空部隊にちょっかいを出そうと目論む不逞な猫耳のパイロットがいた。