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アルカディアンズ 〜とある世界の転移戦記譚〜  作者: タピオカパン
猫の国の内戦(中編)
110/136

防衛戦、そして3


ミャウシア首都 陸軍省


「で、部隊の配置状況は?」


「アルーム平原に展開中の第25軍集団はおよそ80%が集結を終えて、残りの長距離地対空システムも全て配備できています」


「S-300が一個中隊やられたのは痛かったなぁ。列車砲なんてどうでもいいのを守るのに使う必要なかったのにね」


ニー参謀総長はニュイ少将の報告に少しだけニッコリして応える。


アルーム平原とは首都の西方にある幅が約1000kmくらいの少し乾燥した平原だ。

転移前のミャウシアのあった世界に存在したアルーム平原の土地などがこの惑星のこの地表に張り付けられているようなので、便宜上そう呼んでいるだけで本当のアルーム平原はミャウシアの母星にある。

現在のミャウシアの地名のほとんどが前の世界から転移した部位に合わせて便宜的に名前を引き継いでいた。

これはミャウシアに限らず、この世界中の地名のかなりの割合がそうした経緯の便宜的な名前になっている。


「まあ、タルル将軍の決定は覆しずらいですからね。ところで本当に敵はアルームに上陸してくるんですかね?首都を落としに来る方が可能性としては高いのでは?」


「かもね。でもそれだと敵には不都合が多いはず。敵は障害物がほとんどないアルームならいけると踏んでいると思うよ。ま、僕ならそもそも戦線をもっと絞って付け入る隙を無くすけどね」


「やはりすべてはタルル将軍のせいということですか」


「当たり前だよ。遠征軍だの派遣軍なんての作った挙句にこうなってるんだもん。奴の思いつきにはこれっぽっちも期待なんてしてないよ。でもまあ、これ以上邪魔されると敗戦なんてことになりかねないから、そろそろかな?」


「でしょうね」


「それはそうと上陸の妨害はどれくらい進んでる?」


「ティニャノナスク港の岸壁の破壊作業はほぼ完了しましたが地雷の敷設は遅れています」


「ふーん。ま、いっか。対戦車地雷だけでも幾千万発は埋めるもんだもんね。他に問題とかはある?」


「敵の空爆が増加しています」


「空爆が激しくなった?」


「ええ。入念に隠蔽は行っていますが大型の野砲は一定数が発見され爆撃を受け続けています。これが撮影された敵機です」


「...微かなシルエットだけど、B-52ってやつだね」


ニー参謀総長はニュイ少将からもらった写真を眺める。

アメリカ軍は反政府軍の沿岸配備部隊や要塞に対し、海軍の戦闘機の護衛を伴った爆撃機を主体とする航空攻撃を少し前から加え始めていた。

爆撃機ばかりなのは戦闘爆撃機をヨーロッパ本土からミャウシア本土まで飛ばして往復させるには遠すぎることが理由だ。

ミャウシア領東部沿岸の政府軍の飛行場ではNATO軍航空部隊を受け入れるための全長1500m以上の滑走路を数本急造しようとしているものの、この作戦には間に合いそうにない。


「どうしますか?」


「どうもうこうもないよ。ロシアは奴らと直接ぶつかってくれる気はないみたいだしね。ダミーの数を増やしてみたらどう?」


「それで大丈夫なんですか?化け物じみた敵の機甲部隊を食い止めるには更に何か手を打たなければ...」


「手はある。とは言っても他力本願だしどう転ぶかはほとんど運任せだけどね」


「ほほう。やはり何もない訳ではないと。どんな手ですかな?」


「ニホンっていう地球人の国に消えてもらいのさ」


「?」


ニー参謀総長は面白そうに物騒なことを言った。



ミャウシア中部


これまで守勢に回っていた反政府軍はここに来て尋常ではないほど苛烈な攻勢に転じていた。


「来たぞ!新型だ!敵の新型戦車が来るぞ!」


ソ連のBS-3野砲に似た大型対戦車の傍らで双眼鏡を使って敵を観測していた政府軍兵士が叫ぶ。

兵士の視線の先、2000m遠方には味方の防衛線を突破して接近してくるT-55M戦車の集団がいた。

戦車部隊は前進を中断して周囲の様子を伺い始めた。


T-55M戦車はソ連の第一世代戦車であるT-55戦車に長射程用の照準器とレーザー測距儀やデジタル弾道計算器を追加した改良型であり、火器管制能力は74式戦車E型よりほんの少し上程度に性能が引き上げられている。

ロシア軍が反政府軍に供与したものだ。


「徹甲弾装填完了!」


「撃てえぇ!」


砲兵部隊が一斉に砲撃を開始する。

砲弾は500mの距離なら200mm、2000mの距離でも140mmの装甲板を貫通させられるほどの威力があり、ティーガーI戦車相手なら簡単に撃破できるレベルだ。

しかし、あまりにも遠方なためか命中弾は全体の四分の一以下だった。

本来なら隠蔽してギリギリまで敵を引きつけてから攻撃するのが有利なはずなのだが、今回は急いで陣地転換したので入念に隠蔽する暇がなく、敵に存在が察知されていたので先手を打つしかなかった。


徹甲弾はT-55Mの車体装甲に命中したものの、全て独特の音とともに上方へ弾きとんでいった。


「だ、ダメだ!引け!」


指揮官は慌てるようにあっさりと対戦車砲の放棄を指示して一目散に逃げた。

戦車部隊は砲兵部隊を確認すると反撃する様に続々と発砲する。

高性能な照準器のおかげで命中率は5割を超え、第一斉射だけで放棄された対戦車砲のほとんどが破壊された。


戦車部隊は前進を再開し、後ろには必死についてくる歩兵の姿もあった。

しばらくして砲兵部隊のいた場所の周辺に配置された政府軍の機関銃陣地や蛸壺から反政府軍の歩兵に向けた銃撃が飛んでくるのだが、戦車が火点を砲撃して粉砕する。

砲撃によって機関銃手が宙を舞うように吹っ飛っとんで即死した。


「退却、退却!走れ!」


戦車部隊が突破した戦線近くにある政府軍が防衛陣地に使っていた集落では、防御線に大穴が開いてそこから雪崩込んでくる反政府軍歩兵部隊の圧力に耐えきれなくなった政府軍歩兵部隊が追い立てられるように全員走って敗走する。

場所によっては互いの顔を認識できるくらいの間隔で死に物狂いの追いかけっこが起こる。


とある政府軍兵士はロシア帝国のPM1910重機関銃に似た5.5mm水冷式機関銃を連射して退却する味方の援護を行うが、自身の脇にある小道を走り抜ける自軍兵士が何人もパスンッと背中に銃弾を受ける音とともにコケる様に倒れるので目を疑うようにチラ見してしまう。

終いにはT-55戦車部隊の後ろを付いてきたミャウシア製のパウツ中戦車が集落に乱入してきて建物ごと政府軍兵士を砲撃して加害し始めたので、機関銃を放棄して逃げざるを得ない有様だった。

逃げてすぐに機関銃は砲撃で木端微塵となった。


「...して敵の猛攻を受けています!退却の...」


「そんなのは後にしな!いいから走んなさいよ!」


別の場所では建物の脇で無線機にかじりつく兵士を走ってきた別の兵士が怒鳴って無理やり引っ張って走らせる。

走って直ぐに建物の壁が戦車の砲撃で粉々に吹き飛ぶ。


この戦線では武器供与を受けた反政府軍機甲部隊によって前線が突破されて政府軍が総崩れに陥っていた。

政府軍司令部は退却と遅滞戦闘を指示して部隊の損耗をできる限り減らそうと努力するがそれは同時に戦線が速いペース後退することを意味するので、結局はどこかの段階で踏みとどまらなくてはならない。

時間との戦いだった。



戦域の上空でも苛烈な航空戦が展開される。

ロシアに武器供与を受けて強化された機甲部隊は同じく供与された防空車両などで防御されていると見られることから、政府軍は機甲部隊を直接攻撃するのではなく補給部隊を襲って動きを鈍らせようとする。

もちろん反政府軍はそれを阻止しようと前線上空でレシプロ戦闘機同士の空中戦が立て続けに起こる。


一方、政府軍のジェット戦闘機部隊はと言うとまったく別の空域を飛行していた。


というのも近接航空支援用の誘導兵器を供与されていないので敵機甲部隊に対しては機関砲で損傷させるか無誘導爆弾を投げつけるしか手段がないので機甲部隊の阻止に動けば大損害は免れない。

数がほとんどない虎の子の戦力なだけに対空砲火の苛烈そうな場所に現時点では投入しずらいし、機甲部隊の現在地が反政府軍のジェット戦闘機部隊とにらみ合う位置関係にあって下手に動けなかった。

ただ、この時点では反政府軍のジェット戦闘機部隊用の航空基地もアメリカ空軍の巡航ミサイルによる報復攻撃で稼働率が低下していた。


そこで政府軍側はF-4E改の航続距離がかなり長いことに目を付け、反政府軍支配地域に対する無誘導爆弾による奇襲爆撃任務を開始して兵站を圧迫することにしたようだ。


F-4戦闘機の編隊は前線の遥か後方に位置する物資集積所の上空に飛来する。


『目標を確認しました。爆撃用意、...よし』


「突撃開始」


『了解』


チェイナリンは部下に突入を指示する。

4機のF-4戦闘機はMk82無誘導爆弾をデッドコピーして急造した250kg爆弾を多数積載し、目標に近づく。

その爆撃部隊をチェイナリンの編隊が空対空装備で護衛していた。

チェイナリンとミラベル機の分隊は囮となって先行して敵の対空砲を引きつける。

早速、ミャウシア製の33mm単装砲からの砲撃が始まった。

レーダー照射を受けていないのでここにいる敵は大型の供与兵器を持っていないようだが、念には念を入れるためにチェイナリン達はフレアを焚きながら侵入した。


すると地上から白く細長い航跡が出現するのをチェイナリンが肉眼視する。


「爆撃部隊、携行SAMに狙われている!注意せよ!」


『お出でなすったわね!』


チェイナリンが味方に注意喚起するとミラベルが茶化すように無駄口を叩いて加速する様に回避行動をとる。

発射されたミサイルはフレア向かって飛んで行って外れた。

この段階で爆撃役のF-4戦闘機が航空爆弾を一斉に投下する。


猫耳の敵兵はストレラ3携行式地対空ミサイル発射器を構え、爆撃部隊に向けてミサイルを発射した。

爆弾も燃料タンクも投棄して身軽になった爆撃部隊各機は降下する様に変針して加速する。

もともとチェイナリン達の置き土産のフレアと爆撃部隊のフレアも合わさり、発射された3発の内2発がフレアに引っかかり、残り一発も進路を大きく変更して加速した戦闘機に追いつくことはできなかった。


爆撃によって物資集積所の弾薬がいくらか誘爆して大きな爆煙を形成した。

燃料にも引火してしばらくは火災が治まりそうにない。



欧州連合軍司令部


各国の軍高官や関係者が集まって最終調整を行っていた。


「これで参加各国での出兵の可否が出そろったようです」


各国の首脳たちは政府が決断したり議会の投票で出兵の可否を出した。

NATO加盟国の大半が出兵計画に参加する意思を示した。


「既にミャウシア軍が南岸に押し出されるのは時間の問題となりつつある。懸案だった作戦海域に潜んで妨害しているロシア海軍の潜水艦部隊も今はほとんど捕捉済みです。作戦の実行が可能な状態となった訳だ」


「だが当初の作戦通りアルームの海岸線に着上陸していい物だろうか?敵はこちらの動きを読んで大部隊を配置している。本当に敵前強行上陸のプランを採用するしかない」


「反政府軍を過小評価するつもりはないが私は参謀本部の評価を支持したい。上陸は可能なはずだ」


もともと難易度が極めて高いことと朝鮮戦争以来、まともな上陸作戦が発生したことがなかっただけに不安視されるのは当然の心理だった。

多少でも損害が出れば疑義が出て作戦が覆りかねないからだ。

しかし、賽は投げられたも同然の状態なので意見はまとまりを見せる。


ほどなくしてNATO軍は自由の夜明け作戦を発動した。


挿絵(By みてみん)

また勢いで書いてるから誤字脱字と書き直しがありそう。

スイマセン。


おまけ


武器供与されたミャウシア兵のそれっぽい雰囲気図

挿絵(By みてみん)


ただの版権絵

人退のわたしちゃん

フラットマーカーブラシがしっくり来たから今度からこれで行こうかと

挿絵(By みてみん)

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