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アルカディアンズ 〜とある世界の転移戦記譚〜  作者: タピオカパン
猫の国の内戦(中編)
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敵防空網制圧作戦9


チェイナリン達とミンクス達による戦闘は旧軍の時に行った訓練という名のチームデスマッチ以来だった。

そして獲物はレシプロ戦闘機からジェット戦闘機に変わった。


基本性能だが、チェイナリン達が搭乗するF-4は第3世代戦闘機であり、ミンクス達が搭乗する第4世代戦闘機のMig-29より旧式で運動性能がだいぶ低かった。

しかし、チェイナリン達のF-4の中身は中期型のF-16の電子装備に換装されていて、機能やセンサー性能はミンクス達が搭乗するMig-29S系を上回るという具合に両者には一長一短があった。


まずはチェイナリン達がミンクス達に先制攻撃を浴びせる。

アブレストのフォーメーションをとって接近するチェイナリン達は、先制同時攻撃によって空戦の主導権を握ろうとした。


「FOX1」


『FOX1!』


チェイナリンとミラベルは慣れない地球の言葉でコールするとAIM-7Pスパローミサイルを発射した。

ミンクスの搭乗するMig-29のコックピットに警報が鳴り響く。


「撃ったらドラッグして何とかかわせ」


『了解』


ニチェットは対レーダーミサイルであるR-27Pを発射し、ミンクスに言われた通りにドラッグ機動をとる。

ミラベルが発射したスパローミサイルはニチェット機の追尾を続けるが、距離が開いてるため、全力で逃げるニチェット機にはエネルギー不足で届かずに逃げ切られる。


一方のミンクスはビーム機動の様な垂直方向とまではいかなくても、斜め横に回避機動をとり始めた。

ミンクスはチェイナリン達にビーム機動が通用しないことは承知してた。

元々、ビーム機動は成功率が低い上に、Mig-29やR-27ミサイルはごまかせても電子機器の性能や品質で上を行くチェイナリン達の戦闘機やスパローミサイルをごまかせるとは考えていない。

できる限り、チェイナリン達との距離を詰めるのが目的だった。


しかし、その前にチェイナリンが発射したスパローミサイルを回避しなければならない。

ミンクスはシザーズするように一定間隔で移動方向を変えてスパローミサイルはエネルギーを削ぐ。

これはミサイルが中間誘導されている間は目標の未来予想位置に向かって飛ぶように母機から誘導されるのを利用した回避方法だ。

シザーズの様にジグザグに飛べば目標の未来予想位置は目まぐるしく変化するため、ミサイルもそれに合わせて大きく方向を変える。

けれどもミサイルの加速時間には限りがある。

燃焼を終えたミサイルがそんなに大きく方向を変え続けたら速度を一気に失い、場合によっては戦闘機より遅くなる。


ちなみに自衛隊が装備する中間誘導できないAIM-9Mスパローミサイルの場合はミサイルシーカーが目標を捉えてない時は真っ直ぐ飛ぶしかない。


そしてミンクスは感を頼りにミサイルがどこまで近づいているのか予測し、タイミングを見計らって一気にブレイクする。

スパローもフィンを動かして軌道変更するがエネルギーが足りない。

回避の際のハイGに興奮しながらミンクスは見事にスパローミサイルをギリギリでかわしてみせた。


この時、チェイナリンは敵がレーダーロックしてミサイルを撃ってこないことを不審に考えていた。


―おかしい。カウンターを仕掛けてこない。回避を始める前に赤外線ミサイルを撃っていたとしてもあの距離から誘導なしでは命中は期待できないはず。...まさか!


「クワァイル2、レーダー追尾を止めブレイクして!!」


ミラベルとミーシャは追尾を止めさせる理由がわからなかったものの、珍しいチェイナリンの慌てた指示が事態の深刻さを直感させる。

ミーシャは直ちにレーダー追尾を止め、ミラベルが操縦桿を引いた。


するとF-4E改から数十メートル離れたところで爆発が起きた。

破片が機体の外板やキャノピーにあたって跳ねたり貫通したことを思わせる振動が機体に走る。


「なに?!何事?!」


ミラベルが動揺しながら叫ぶ。


「まさか、対レーダーミサイル?!」


ミラベル機のオペレーターであるミーシャはそう言って攻撃の正体に感づく。

二人は直ぐに機体に異常がないかを確認するが、どうやら被害は機体にいくつか穴が開く程度で済んだようだ。


『こちら、クワァイル2-2。報告。敵のミサイル攻撃を受けたが戦闘に支障なし。ミサイルはパッシブレーダーホーミングのもよう』


「パッシブ?!」


チェイナリン機のオペレーターであるウーが困惑する様に言うが、そんなことを考えている暇はない。

レーダーロックの警報が鳴り響く。


「て、目標がレーダーロック!電波強度からMig-29という機種の可能性あり...、目標がミサイルを発射しました!」


ミンクスがチェイナリン機に対してR-27Rミサイルを発射したが、チェイナリンもウーが喋り終える前にスパローミサイルを発射していた。

しかし、両者の対応は異なった。


チェイナリンはミンクスとの距離を詰めたくないのか全力でドラッグ機動をとる。

一方のミンクスは敵との距離が近い低空を飛んでいた関係上、これ以上はシザーズ機動によるミサイル回避は困難だった。

けれどもチェイナリンと同じようにドラッグ機動はせずに距離を詰めたかったらしい。

そこでいい感じの位置に小山があったので、地面に激突してしまうかというぐらいに山の斜面をはってミサイルの死角に逃げ込む。

元々、チェイナリン機からの誘導波が切れかかっていたスパローミサイルは目標を完全に見失って山に激突する。

ミンクスは最小の機動でミサイルを回避したのでチェイナリン機との距離がさらに縮まり、尚且つ、攻撃の主導権を握る。


だがミンクスは少しイラっとする。


「ま~た太陽が背ですかー」


ミンクスはさきほどR-27Tという長射程の赤外線ホーミングミサイルを撃ちたかったようだが、このミサイルは長射程ゆえ、目標との距離が長すぎる場合などは太陽からの赤外線ノイズに弱かった。

今回もその状況に似ている。


「ま、いいや」


ミンクスは考えがあるのかないのかよくわからない態度でR-27Tを発射した。

R-27Rミサイルでもいいのだろうが、邪魔が入って誘導波を途中で止めたとしてもR-27Tは赤外線ホーミングなので、運よくミサイルシーカーが敵を捉え続ける可能性がある。

補足するとそうした算段なのだろう。

しかし、チェイナリン相手ではうまくはいかない。


「隊長、レーダーロックされてます!」


ウーがオーバーに報告した途端、チェイナリンは操縦桿を倒して降下する。

するとミンクスが発射したミサイルは高度を落としていき、チェイナリン機が地面にぶつかる前にミサイルが地面に落ちた。


これは先ほどミンクスがシザーズしてミサイルのエネルギーを奪ったのと同じ原理だ。

ミンクスがミサイルを発射したのが低空だった一方でチェイナリン機は中高度にいた。

ここでチェイナリンが降下するとミサイルもその未来予想位置へ向かって降下する。

けれども発射されたのが低空であればミサイルは直ぐに地面に激突してしまうことになる。


「あらら、やってくれますね」


ここでニチェットから通信が入る。


『大佐、ミサイルがこちらの敵に気づかれて当たりませんでした。敵機は大佐の方へ流れてます。追撃中』


「君、また失敗したんですか?」


そう言うとミンクス機内に警報が鳴り響く。


ミラベルは撃墜を免れた後、ニチェットに再度スパローミサイルを発射していた。

ニチェットも怯んだミラベル機が攻撃を中断している間にターンを終えて正対してR-27Rミサイルを発射して応戦する。

しかし、互いに回避機動に入ったので誘導されなくなったミサイルが命中することはなかった。


ここでミラベルはチェイナリン機を追いかけるミンクス機目掛けて全速力で突っ込む。

ニチェット機がターンを終えてミラベル機への攻撃に転じるまでまだ時間がある。

その間に距離を離して無防備なミンクス機の斜め側面を攻撃しようというのだ。

ミンクスを墜とせば勝敗は決する。


「大尉、敵がイン(正対)してきます。急いで」


「わかってら、ここで終わらせてやる!」


ミラベルはミンクス機にスパローミサイルを発射した。


「レシプロだったら返り討ちにしてやるところですが、ジェットだからそうもいかないんですよねー、まったく」


流石のミンクスもそう言ってチェイナリン機の追撃を断念し、出力を上げながら進路を変えてドラッグ機動をとり始める。

そしてミラベル機を追いかけ始めたニチェットがR-27Rを発射してくる。

警報音を聞きながらミラベルはミサイルの誘導を続けるか悩む。


「このままだと、どっちが先?!」


「え?..こ、こっちが先!」


主語と動詞が抜け落ちた会話をミラベルとミーシャが交わすがどっちとは自機とミンクス機、こっちとは自機のことであり、ミンクスをやる前に自分たちがやられてしまうとミーシャが判断したのだ。


「あとちょっとなのに!」


ミラベルは方向を変えてざるを得なくる。

このまま進路を変え続けるミンクスを追いかけると最悪の場合、ニチェット機のミサイルに追いつかれる危険があったからだ。

ミラベルがミンクスと反対の方向に進路変更したため誘導可能範囲を超えたミサイルはミンクスを外す。

ニチェットからの報告を聞いていたミンクスはそれを予見したのか、進路をミラベル機の方へ見計らったように反転を始める。


「短いのが撃てそうでラッキー♪」


ミラベル機とミンクス機の距離はかなり近づくが高度差と角度差があり、普通のミサイルでは狙うのが難しい。

しかし、Mig-29が装備するR-73ミサイルはそうではない。

ミンクスはミラベル機をIRSTで補足するとR-73を発射した。


ミサイルは発射直後から凄い角度で機動し始めた。

モーター煙を肉眼視したミラベルは驚く。


「嘘でしょ?!そこから撃てんかい!」


ミラベルはフレアを出しながらミサイルにとって一番きついと思われる角度へと旋回して逃れようとする。

この攻撃はR-73ミサイルに備わるボアサイトと呼ばれる能力と赤外線ミサイルの中では長射程という利点が可能にしていた。

しかし、ミンクスはこの能力を過信、もしくは試し過ぎたのか、R-73ミサイルはミラベル機をとり逃してギリギリで外れる。

また、ボアサイト能力を使う場合は相手がフレアを放出していると外れることは多いと言える。


ミンクスは追撃しようと考えるがここでロックオンされた警報が短時間だけ鳴る。

チェイナリン機が戻ってきてAIM-9Pサイドワインダーミサイルで攻撃してきたことを直ぐに理解する。

ミンクスは直ちに回避行動をとりながらフレアを吐き出した。

この位置取りでは今度こそ撃墜されるかもなと能天気にミンクスも考える。

けれども牽制が目的だったのか、距離が離れているせいでサイドワインダーミサイルのエネルギーが先に尽きてしまい、ミンクスに追いつくことはなかった。


この時、チェイナリンはミンクスにサイドワインダーミサイルをレーダーロックしてから撃った後、ニチェットにスパローミサイルを撃ってミラベル機の退避を援護していたのだ。

とは言ってもニチェット機を撃墜する気がないのか途中で誘導を止めてしまい、旋回してミラベル機と共に高出力で現空域からの離脱を始めてしまった。

ミラベル機もターンせずにそのまま加速する。


ミンクスは態勢を立て直した後、チェイナリン達のF-4E改の編隊がいると思われる方角を見る。

肩透かしされた気分になるが、自分たちの現状も理解していた。


『大佐、いかがいたしますか?』


回避を終えて編隊を組み始めたニチェットが質問する。


「今回はここまでにしておきますか。残弾も燃料もありませんから帰ります」


『了解』


実際ミンクスの残弾は2発と非常に心もとないレベルだった。


「新しいおもちゃの初陣なのでいい経験になりましたよ。戦いにはまだまだ先があると思うと楽しくていけませんね」


そう言ってミンクス達のMig-29の編隊が進路を基地へ向け飛び去っていく。



帰還中のF-4E改


「敵の追撃はないようです」


「到達時間は?」


「○○です」


「了解」


「...隊長」


「何?」



「まだ残弾と燃料がありましたけど、いいんですか?」


ウーがチェイナリンに聞く。


「うん」


「...もし戦い続けていたらどうなっていたんですか?」


「アーニャンとミーシャの犠牲と引き換えに勝ったかもしれない。どうしても格闘戦は避けたかった」


低速域での運動性能で大きく劣るF-4E改ではMig-29と格闘した場合、エネルギーロスと推力で負けてしまい後ろを取られてしまうのは時間の問題だからだ。

相手との技量差が少ない場合はなおさらだ。

あの状況ではミラベル機と敵の距離が近かったのでそうなる可能性があった。


それに今回の作戦の目標は達成済みだ。

大した目的もなく貴重なパイロットとジェット戦闘機を犠牲にしてまで敵を墜とす必要などないのだ。

敵航空戦力を把握できたのだから十分だ。


「そうなんですね。隊長らしいや」


ウーは称える。


一方のミラベルは状況を十分理解しつつもやはり不満だったようで、ミラベル機のコックピットがまたもや騒々しい様子だが。


裏腹に、敵の航空戦力と技量について考えていたチェイナリンは困惑していた。

チェイナリンは険しい顔をする。


―Mig-29という高性能な戦闘機に供与国並みの潤沢な兵装。この機体とミサイルを持ってしても互角だった。電子妨害や更に高性能な兵装の更なる供与無しには優位に立つのは...。


実際のところ装備の種類は敵が勝り、質はこちらが勝っている。

会敵するタイミングを十分にコントロールできるのであれば、索敵距離や追尾数などの電子能力で大きく勝るF-4E改の部隊が優位に立つだろう。

しかし、今回の敵の兵装の種類数はそれを覆す兵器の供与の可能性を示していた。

懸念が尽きない。


そして敵の練度も懸念材料だった。


―しかも、敵部隊の練度は非常に高い。それに...。


チェイナリンは自身の強さにうぬぼれるようなことは一切ないなく、いたって謙虚だ。

けれどもその強さ故にどんなに強いパイロットでもある程度技量を計ることができてしまう。

そんなチェイナリンにとって今回の敵は自分たちに匹敵する腕があった。

全ての敵パイロットがそうだとするなら、政府軍で対応できる練度のジェット戦闘機パイロットはほぼいない。

今回の敵に限って強かったのかわからないがそうだとしら味方がたくさん墜とされかねない。

そういう懸念があった。


けれども、戦いの最初の聞いた、暗号化されていない地球規格の音声通信を思い出す。

”どんどん墜としちゃいますよー”という楽しんでいるかのような会話。

暗号化していないルーズさ。

チェイナリンはそのような凄腕パイロットを知っていた。


チェイナリンはキャノピーの外を見た。

その瞳は真剣そのものだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙です。 今回は激しい格闘戦ば展開されましたね。猫人同士のドッグファイト略してキャットファイト(どっちだ)で互いが互いの実力を知り、この戦争に因縁因襲の糸が絡み合い始まった。混迷は深ま…
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