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アルカディアンズ 〜とある世界の転移戦記譚〜  作者: タピオカパン
猫の国の内戦(中編)
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敵防空網制圧作戦7


列車砲近くの高原に展開するS-300地対空ミサイルシステム


今回、反政府軍にとっての切り札的存在だ。

ミャウシアの反政府軍に所属するといってもこれほど高性能で機密性が高い代物なためか、訓練時間の関係からこちらはロシア兵が多く、管制車両やレーダー車両内はミャウシア人が少ない。

そのS-300もいよいよ敵の接近を察知し始める。


管制車両内のデジタルなコンソールに接近してくる編隊が映り始め、ロシア兵たちの強い語気で指揮管制する。


「敵とみられる編隊を探知。も、目標、500ノットで接近中!NATOの戦闘爆撃機の可能性あり!」


するとコンソール上に映る敵のアイコンが消え、同時にジャミングされていることを示す表示が点灯し、円形のレーダースコープにはジャミングとみられる帯状のノイズが現れた。


「て、敵がECMを掛けたもよう。システム、ECCMモードに移行!」


「敵のSEADだ。警戒を厳とする。他の部隊と通信できるか?」


「ローバンドはジャミングされていないので可能です」


指揮官は迎撃態勢を固めようとする。


一方、S-300の周辺に伏せられるように配置されている9K33オサー 短距離地対空ミサイルシステムの方ではジャミングによって敵の存在に気づいたものの、肝心のレーダー、特にミサイルの追尾レーダーがジャミングで相当麻痺していた。

9K33オサーはECMに大変弱く、強力なジャミング下では機能が著しく制限される。

だが性能がかなり落ちるが何もできなくなるわけではない。

光学追尾を行うこともできる。

けれども、このECMは9K33オサーにとってそこまで深刻ではないらしく、有線誘導でなくてもなんとか攻撃できる程度だった。

9K33オサーの要員たちは直ちにECM下での戦闘態勢を整えて敵を待ち受け始めた。


彼らの任務は低空から接近してくる敵機の迎撃だ。

S-300の死角を埋めるのが彼らの役割である。


そんな中、S-300の部隊とは別の部隊からの無線が入る。


『南南東より複数機の機影を確認。こちらに向かって接近中!』


少し離れた稜線上で監視を行っている兵が遠方から複数の機影が接近してきているという報告を無線で入れてきたのだ。

あいにく目標はジャミング源と方角が近い。

そこで9K33オサーの要員はレーダーを言われた方向に向けてジャミングのノイズの中からレーダー反射のピークを探し分ける。

やがて敵機とみられる信号を探し出した。

照準をそれに合わせて追尾を開始すると連動する望遠カメラがその機影を捉えた。


とても小さな点だが僅かに認識できるシルエットからジェット機ではないように見えた。

ジャミングの影響で目標の正確な情報が取得できていないが速度はジェット機よりだいぶ遅いようだ。

また小型無人機という訳でもないのもロシア兵技官が確認する。

敵なのは間違いないがどうすべきか判断に困る。


「目標はなおも接近中」


指揮官のミャウシア兵が技官のロシア兵に助言を求める。


「攻撃するが異論はないか?」


「大ありだ。敵のSEAD部隊が接近しているとみるべきだ。レーダー照射すれば対レーダーミサイルで攻撃されることになる」


「ではこのまま殺られろというのか?相手は反乱軍の攻撃機だ。我々の対空砲では全部は落とせないぞ」


「...」


このパターンは予想外だったようだ。

レシプロ攻撃機が囮役として使われることは考えてなかったし、なおかつ無視すれば当然囮は攻撃してくるのである。

このようなジレンマは対ドローン戦に少し似ている。


「...やむを得ないか」


「では遠慮なくやらせてもらおう。攻撃用意!」


そう言って猫耳の女性指揮官は攻撃を命じる。


だが、その予想に反して防空部隊が追尾していたのは政府軍が放出した複葉機のデコイたっだ。

自動操縦で飛行する無人の複葉機群は9K33オサーの部隊に接近していく。

部隊は既に追尾レーダーを照射して複葉機に狙いを定める。


こうして防空部隊はNATOや政府軍の意図に乗ってしまう。



アメリカ空軍 防空網制圧部隊(SEAD部隊)


防空網制圧部隊の内、低空侵入を行わなかった部隊は装備しているAN/ALQ-184 ECMポッドを用いてジャミングをかけていた。

既にS-300の最大射程圏内に入り込んでいるがジャミングのおかげで敵にはこの部隊の正確な位置がわかっていなかった。

だがこのジャミングは極めて有効かというと、アメリカ軍の予想した通り、攻撃する前に再探知されて攻撃されてしまう程度だった。

だから低空侵入を行わなかった部隊の目的はS-300の直接の撃破ではない。


そうした中で期待していた9K33オサーの追尾レーダー波をF-16CJのN/ASQ-213 HTSポッドが探知する。

低空侵入部隊の侵入ルートの確保が彼らの目的だった

防空網制圧部隊は囮部隊の進捗に合わせて綿密に侵入時間を調整していたのだ。

しかも発見した9K33オサーは低空侵入部隊の侵入ルートに近く、ミサイル攻撃を受けかねない。


F-16CJのパイロットは直ちに9K33オサーに照準を定め、AGM-88 HARM 対レーダーミサイルを発射した。


AGM-88は浅い角度で上昇する様に飛んでいく。

この飛び方はAGM-88に限ったものではなく、射程が長いミサイルであれば大抵はこのように飛翔する。

何故なら射程を伸ばすのに弾道飛行が最も有効であるという事実はどんな砲弾やミサイルでも同じだからだ。

AGM-88は敵の有効射程の3倍遠方から発射されていて、ミサイルのシーカーは9K33オサーのアンテナをがっつり捉え続け、敵には命中するまで気づかれることはなかった。


既に攻撃されていることにまだ気づいていない防空部隊は有効射程に入った囮の目標に対し、9M33地対空ミサイルを発射する。

ミサイルは初めはジグザグ飛んでいたが、速度を増すにつれて真っ直ぐ飛び、9km離れた囮の目標に命中した。

防空部隊は1機、また1機と目標を撃墜するが、ここで距離が近くなったことで目標のシルエットが自分たちの予想とは違うことに気づく。


「複葉機?!」


9K33オサーのオペレーターのミャウシア兵がそれに気づくが時すでに遅かった。

F-16CJが発射したミサイルが9K33オサーに命中して爆発した。


「きゃ!」


この時、猫耳の防空部隊指揮官は、塹壕の上に鋼板を乗せてその上に更に盛り土を乗せた屋根を要する野戦指揮所の出入り口付近にいた。

SAMからある程度離れていたが、66kgの炸薬の爆圧は彼女を塹壕の床に転倒させるのに十分だった。

起き上がった指揮官が最初に見たのは巨大な土煙の中から現れた、ひしゃげて燃える9K33オサーだった。


やがて囮の複葉機群が大きな間隔を開けて飛んできた。

生き残っているミャウシア製の対空砲の要員が指揮官の命令なしに直上の囮を能動的に攻撃し始める。

囮の一機が対空砲の弾幕で火を噴いて落ちていくが、司令官は無意味な戦果だというを理解していて、悔しそうに囮が飛び去って行くのを眺める。


だが、まだやれることは残っているようだった。


『敵のジェット機が東南東の渓谷から高速で接近中!』


監視からまた無線が入る。


「...ふざけやがって!」


指揮官はそう言って塹壕を抜け出すと対空砲の要員に近づいて指示を出した。


「砲兵!渓谷から敵が来るぞ、撃ち落せ!」


兵士たちは単装砲の対空砲の砲身を敵がやって来ると思われる方向に指向させようとする。

すでにF-16CJ戦闘機のジェット音が聞こえ始め、肉眼でもその姿が確認できるまでに近づかれていた。

しかもF-16CJのパイロットは9K33オサーが発する黒煙を確認しているので、敵部隊の直上を通らないように尾根を越える形で渓谷か飛び出して迂回しようとする。


数基の対空砲はそうした低空侵入部隊に対して攻撃を始めた。

33mm単装砲は連射速度が非常に遅いが一発でも当たれば撃墜不可避なほどの威力だ。

また、連射速度の高い22mm連装砲の姿もある。

砲塔旋回を担当する兵士は高速飛行する敵機に合わせて必至にクランクを回して追従しようとする。

しかし砲弾には近接信管はなく、高速で駆け抜けるジェット機に迂回されたことも合わさって命中弾を出すことはかなわなかった。


「くそーっ!」


防空部隊の指揮官は尻尾をぴんと立てて飛び去る戦闘機に怒鳴った。



一方、低空侵入部隊は予定の飛行コースを逸れてしまっていた。


「第2ポイントは通過済。このまま迂回して第3ポイントへ向かう」


低空侵入部隊のパイロットは仲間に状況を伝える。

ここで戦闘機のコンピューターがレーダー照射を受けたことを知らせる警報を鳴らした。

コースを外れたことでS-300のレーダーに映り、追尾されてしまったのだ。


S-300から射程200kmの48N6ミサイル2発が発射された。


「レッドウルフ2、狙われているぞ!」


『こっちも確認した。誘導妨害開始。デコイ、スタンバイ!』


F-16CJのパイロットはAN/ALQ-184 ECMポッドからAN/ALE-50という曳航型デコイを射出した。


AN/ALQ-184 ECMポッドはEA-18戦闘機のAN/ALQ-99 ECMポッドと違い、ミサイルの中間誘導波さえも妨害できるほど高性能ではない。

けれどもS-300の終末誘導波を強力に反射する曳航型デコイの放出によって、終末誘導波の妨害と組み合わせて生存性を高めることができた。


低空侵入部隊は何とか稜線の裏に隠れるよう飛ぼうとするが中々ターゲット外しができない。

やがてミサイルが低空侵入部隊の頭上に飛んできた。

この時、ミサイルのモーターは燃焼を終了しているため、白煙による軌跡がないのでミサイルを肉眼ではほとんど確認できない。

とは言っても単座戦闘機であるF-16CJのパイロットは曲芸飛行しているので確認する余裕はない。


ミサイルと戦闘機の距離が1kmを切る。

しかし、ミサイルはECMとデコイと山間の低空という環境の悪さによって2発とも戦闘機の後方をマッハ1.8の速度で外れていった。

パイロットはミサイルが外れたことを確認してホッとする。

だが戦いはまだ終わっていない。


その頃、補給を済ませたチェイナリン達のF-4戦闘機 2機が基地を離陸して戦域に向かう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新乙です やっぱ近代戦争はまず航空兵力ありきですね。 どれだけ地上に迎撃システムを並べようと、ECMが、ECCMが、デコイが、UAVがそれらを無力化する。位置エネルギーと視界、機動力の差…
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