敵防空網制圧作戦5
ミャウシア南東部
一機の航空機が山がちな地域を飛行している。
機体はミャウシア陸軍が観測機として用いている偵察機で第二次世界大戦時のアメリカのL-5やドイツのFi 156に類した軽飛行機だった。
反政府軍の観測機だ。
反政府軍はこの機で列車砲の砲撃の着弾観測を行っており目標変更や修正射の指示を出すのだ。
搭乗員は一人なので片手操作で砲撃指揮所に通信を入れる。
「敵に被害あり。追加の砲撃を要請する。修正指示...」
ところがこの機体での偵察は本来拠点に戻って口頭で報告することになっていた。
ミャウシアの文明レベルではこの距離から音声無線をまともに送れる機材は存在しないし、電信は一人では操作するのが難しいからだ。
けれどもこれが地球で製造された無線機を持ち込んでいれば話は別だ。
列車砲
「修正完了。効力射、撃てええ!」
線路上にたたずむ6両の列車砲から砲弾が巨大な爆煙と共に撃ち出された。
砲撃を終えると直ちに砲弾の再装填に取り掛かった。
砲弾は300kg近くあり装填は当然機械やレールを使って行う。
補給に関しても連結されたクレーンの付いた給弾車両が砲弾を吊るして給弾する。
列車砲から少し離れたところには9K33 オサー地対空ミサイル車両が停車していてミサイルランチャーを空に向けていた。
車内では虎髪の猫耳兵士がアナログ部が多いコンソールに向かい合っていた。
その隣には丸坊主でデジタルフローラ迷彩の戦闘服を着たヒトの姿もある。
ロシア連邦軍の技術顧問だった。
今更だがミャウシアの内戦がNATOとロシアの直接関与型の代理戦争と化していることを如実に示すものだった。
砲撃指揮所では司令官が副官と話していた。
「まさか列車砲が日の目を拝むことができようとはな。地球人の兵器をこのように使うことを示されたタルル将軍様々だ。まるで無敵になったみたいだ」
司令官は多少慢心している様子である。
「はっ。しかしロシア人という地球人種族の一部の者の言動はいささか困ります」
「例のアレか?」
「はい。兵が孤立している時に女に限って胸や尻、尻尾を掴んだり抱き着いてくる、接吻を迫ってくると下級兵士からの報告が」
「まあ、私も地球人の女は見たことないが地球人は強い男が女に求愛すると聞く。私たちの逆だと考えればわからなくもない。しかも相手が兵卒の兵隊ともなればな」
この司令官は正確に事態を理解していたが副官はやはり不快感を隠せずにいた。
「だがここでロシア兵に機嫌を損ねられても困る。兵士には我慢するよう言っておけ」
「はっ」
そうこうしていると列車砲の砲撃要員が準備を完了し、砲撃態勢に入る。
「砲撃準備完了!」
「撃てええ!」
列車砲が再び強烈な爆音を轟かせる。
ミャウシア南東沿岸上空
アメリカ空軍のS-300攻撃部隊が作戦空域に向けて移動を続けていた。
攻撃部隊はストライクパッケージとなっている。
これは制空権未掌握地域で空爆を行うための部隊編成だ。
編成として
空中警戒管制機
空中給油機
爆撃部隊
護衛部隊
敵防空網制圧部隊
からなる複合部隊であり、この部隊の場合は合計すると二十数機程度だった。
攻撃部隊のKC-135空中給油機は最後の機に燃料補給を終え、フライングブームを収容すると基地に向けて一部の機がUターンを始める。
戦闘攻撃機と空中警戒管制機からなる攻撃部隊は直進を続ける。
政府軍支配地域上空
ミャウシア空軍の複葉機からなる編隊が作戦空域に向けて110ノット程度と低速で飛行していた。
この部隊は敵地対空ミサイルシステムに対する囮部隊であり、敵防空網手前でパイロットは脱出することになっている。
それそろ敵レーダーの探知可能圏である。
「各機。進路を維持しつつ散開!」
チェイナリンと基地で会話していた隊長の女性パイロットが指示を出す。
これから自動操縦に切り替えるのにあたり編隊の密度を下げて機体同士の衝突を防ぐため間隔を開けさせたのだ。
しばらく飛行すると前方方向にそびえる千メートル級の小規模な山脈のから小さな機影が現れていることにパイロットが気付いた。
機影はどんどん近づいているように見える。
「...しまった!」
機影は敵の観測用偵察機だった。
どうやら砲撃範囲を超えて通常の偵察をしていたようで運悪くかち合ってしまったようだ。
一方の偵察機のパイロットは複葉機部隊を発見し報告を行おうとしていた。
「反乱軍の爆撃編隊か?!」
偵察機のパイロットが無線機を操作する。
「こちら2番測的機。敵の...」
言い終わる前に機体のすぐ脇で大爆発が起きた。
爆発の圧力によって機体は大きくへし折られた後部位ごとにゆっくり分解しながら落ちていった。
その始終を見ていた複葉機のパイロットたちは敵の偵察機がミサイルによって撃墜されたことを理解していた。
ミサイルらしき飛翔物体の影が高速で突っ込みそのすぐ後に爆薬の爆発で偵察機が吹き飛んだからだ。
爆発の十数秒後に後方からジェット戦闘機2機が通常より遅い速度で左舷上方を通過していった。
チェイナリン達が搭乗するF-4E改戦闘機だ。
敵機はミラベルが発射したAIM-7Pスパローミサイルで撃墜されたのだ。
「目標撃墜。バレましたかね?」
ミラベルがチェイナリンに無線で尋ねる。
「気づかれていてもいなくても作戦に変更はないよ」
「アイアイサー」
チェイナリン達は囮部隊の直衛には付かず、少し広めの範囲を哨戒していたようで、囮部隊から少し離れたところで敵機の存在をレーダーで捉えて急行したらしい。
もともと両者の速度差があり過ぎて直衛などできるようなものでもない。
更に目標が小さくて材質的にもレーダーを反射しにくい軽飛行機で、囮部隊よりさらに低速で、低空飛行していて、山々の稜線に隠れ気味だったということもあり、F-4E改のAN/APG-68レーダーでもこのような敵をこの哨戒体制で気付ける距離は実質10km強も同然だった。
今回は割と悪くない時間で対処できたと言えなくもない。
もちろん敵に攻撃部隊の存在を気付かれた可能性はあった。
敵に気づかれた場合、奇襲効果は薄れるがそもそも敵防空網制圧作戦は奇襲効果を全く期待しない部類の作戦であるためそこまで問題とはならない。
もちろん迎撃機が大挙してくる可能性が高まるが今回はその可能性が低い。
やってきても返り討ちなる程度の敵しかいないと予想されているからだった。
チェイナリンは囮部隊を上方から見ると軽く敬礼のしぐさを取った。
もちろん囮部隊のパイロット達には見えるはずなかった。
しかし指揮官の女性パイロットは誰が乗っているか知っていたし、何かを感じ取って勇気づけられたように敬礼し返した。
そしてチェイナリン達のF-4E改2機は囮部隊の護衛任務を終えたのか敵のレーダーにかかる前に旋回して基地に引き返す。
もちろん作戦はこれで終わりではないのでまた補給して急いで戻ってくる。
その様子を見届けた複葉機の指揮官は着地予定地点を見て各機に号令を出す。
「各機、自動操縦に切り替え脱出!」
複葉機から続々とパイロットが脱出してパラシュートで降下していく。
無人の複葉機編隊は敵防空網に向かって突き進む。
やっつけで書いたので誤字ってるかも
チェイナリたちが偵察機を撃墜したのによく似たシチュエーションの動画
https://www.youtube.com/watch?v=5Ajrt_JqIPU