其の壱
やっと虚は泣き止んだ。
もう周りの客も、私達への興味を失っていた。
これで普通の会話ができそうだ。
「これからどうするんですか?虚さん。」
「虚でいーよ。皆そう呼ぶから。ね、マスター」
「おう、虚ちゃん。何か言ったかい?」
ちゃん付けだった。
よし、私も見習おう。
「えっと、虚ちゃん」
「ちゃん付け・・・まぁいっか」
「世界を殺すって、具体的にどうするの?・・・あ」
しまった。店主の前で電波話。
「気にしなくていいわよ。もう知ってるわ」
「その通り。俺も君達の仲間だ。ところで虚ちゃん。このお嬢ちゃんは?」
マスターは私の方を見た。
「あ、私、高神 護です。どうやら人間じゃないみたいです」
「ほほう。君が虚ちゃんの言ってた護ちゃんか。まあゆっくりしていってくれ」
マスターはそう言って他の客の接待をしに行った。
「虚ちゃん。あの人・・・」
「さっきも言ったけど、仲間よ。武器とか防具の調達を手伝ってくれるわ」
武器。なんだか自分の使命を実感した気がする。
武器や防具も提供してくれるなんて、実に頼もしい。
「ところで虚ちゃん、具体的にどうするの?」
「まずはこれを見て。」
地図だった。
中央に『香峰村』と書いてある村がある。。この村の名前だ。
「香峰村・・・神の寝る村。兄さんの墓場に相応しいわ」
「そんな意味があったんだ・・・」
「香峰村は私が創ったからね。昨日」
昨日。
「昨日って、えぇ!?」
「兄さんが死んだ時ね。で、その後この村に、穢れなき人を呼んだの。疲れたわ~」
「で、死んだ兄さんの魂と一緒に護を創った。
今は大事な友達だけどね☆・・・いや、姉妹、かな?」
「姉妹?」
「そう、姉妹。実は私も、兄さんに創られたの。この世界を創る少し前かな?」
そうだったんだ・・・。
「虚ちゃんも・・・。じゃあ、これからは『お姉さん』って呼ぶね。」
「今まで通り『虚ちゃん』でいいわよ、護。護とは対等な存在がいいわ」
さて話を戻し、
「軍は、東西で分かれてるわ。香峰村は中心にあるけど、結界のおかげで軍は来ない」
ふむふむ。
「東方にいるのが、盗賊団。元々この世界にいた人間達」
元々いた人達。だけど、
「盗賊団か・・・」
盗賊団に支配されるなんて。警察は何をやってるんだ?
「西方に待ち構えるのは侵略者。この世界をのっとって、我が物にしようとしてるわ」
侵略者。良くない響きだ。
「こっちは敵ね」
「話聞いてた?こっち『も』敵。両方敵よ」
敵のど真ん中にいるという事か。
「私達二人だけでこの勢力に立ち向かうの?無茶よ」
「違うわ。敵の中に潜り込むのよ。個人的に盗賊団の方が良いかしら」
なるほど。つまり。
「盗賊団に協力して侵略者を潰し、その後盗賊団も潰すということ?」
「そうなるわ。それじゃあ準備ができたら出発しましょ」
「うん。そうしよう、虚ちゃん」
私は準備を整え、東に向かう事にした。