其の伍
「「行くってどこへ?」」
二人揃って声を発した。
――そろそろ天国からのお迎えが来る。
「え・・・?兄さん!待って!!」
虚が悲壮な声を上げた。
だがどこから聞こえているのか分からない声。
私はどうすればいいのか分からなかった。
「兄さん!兄さんっ!」
泣いてる。今日知り合ったばかりの人間(?)が、泣いている。
――そう何度も呼ぶなようるさいなあ。虚、お前にはお前の使命があるだろうが。
「でも・・・ぐすっ」
――泣くなよ。死んだら天国へ行くんだ。当然だろ?今までがおかしかったんだ。
声が出ない。どう声をかければいいんだろう。
――あ、そうだ。実は護って虚より胸でかいんだぜw何せ俺が創ったからな。
「・・・!!」
頬が赤くなった。
シリアスな場面でなんてことを言うんだ。
「こんのバカ兄貴ぃ!!!」
虚は泣きながら怒った。
しかしそれに反応する声は無い。
「あれ・・・兄さん・・・?」
体が軽くなった感覚があった。
取り憑いてたものがなくなったような。
「・・・まさか」
虚のハッと何かに気付いたような声。
虚のお兄さんは、最期を冗談で締めくくった。
最期くらい、励ましの言葉で別れを告げればいいのに。
「兄さん・・・」
私が励ましてあげなきゃ。
「えっと・・・虚・・・さん」
「何?」
ジト目で睨まれた。でも怯んではいけない。
「あなたのお兄さんは・・・えと、『俺の事より優先すべき事があるだろ』
って言いたかったんじゃないかなと思います。だから、めげちゃ、ダメ、です」
「・・・励ましてくれて、ありがと。でも、もうちょっと泣かせて」
そう言うと、虚は私に泣きついてきた。
ああ、洗濯物が増え・・・じゃなくて。
私は虚の頭を無言でそっと撫でてあげた。
あ、泣き顔かわいい・・・っていや何を考えているんだ私は。
さっき発砲した件もあり、周りから興味の目を向けられている。
恥ずかしいからとっとと抜け出したいが、泣きつかれているので歩けない。
どうしよう。
とりあえず虚が泣き止むまで待つことにした。